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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
62/99

060 スカウトの続きと募集開始

 蓬莱(ほうらい)家というのは、防諜を専門とした一族らしい。

 ダンジョンドリームスの今後に必要だと、茂助先輩は以前から協力をお願いしていたようだ。


 だが、これまで一度として首を縦に振らなかった。

 というわけで、茂助先輩は俺を連れて直接説得に赴いたわけだが、なぜか俺に無茶振りがきた。


「わたしの意思は変わらないわよ。一体何を説得材料にするつもりなの」

 蓬莱陽依(ひより)さんが、興味深そうに俺を見つめてくる。


 あれ? いまから俺が答えるの?

「えと……どうすればいいんでしょうかね」


「さあて。金はある。地位も名誉も欲していない。そもそも欲しいものはないし、何かをしたいという欲求もない。あなた、これで何を差し出せる?」


「ないですね」

「そうでしょう? ……で、どうするつもり?」


「何か願いとかは?」

「ないわ。あえて言うなら、いまわたしは……わたしたちは、満月のように満ち足りている」


 駄目じゃん。

 先ほどとは違い、彼女はどこか冷めた目をしている。


「茂助先輩、彼女とどこで知り合ったんですか?」

「両親が自衛隊で働いていると以前話したでござるが、先代がそこへ指導に来ていたでござる」


「なるほど……自衛隊と防諜ですか。たしかに共通するものはありますね」

 自衛隊ならば、軍事機密を自分たちの手で守らなければならない。


 軍事機密を民間にお願いして守ってもらうことはできないだろう。ゆえに指導か。

 茂助先輩の両親はそれなりに高い立場にいるらしいので、個人的な繋がりもあったのだろう。


「指導と言っても、現代の情報戦では通用しないものよ。後世に残す価値もない過去の遺物を伝えたに過ぎないわ」

「……ふむ」


 蓬莱さんは先ほど、願いはない、満月のように満ち足りていると言ったが、そのわりには自分の家の技術に対して、いい印象を持っていない。

 それどころか、連綿と受け継がれてきたものを役に立たないと決めつけている。


 でも待てよ? なにかおかしくないか?

 地位も名誉も金もいらない。満月のように満たされているのになぜ、一族の技だけは否定するのだろう。


「あの……ひとついいですか?」

「なにかしら?」


「その蓬莱の技術ですか? 現代では通用しないんですよね」

「そうね。古臭い無駄な技術はもう……近代において何の価値もないわ」


 自分たちを雇う代わりに、監視カメラを山ほど設置すればいいと蓬莱さんはいう。


「でしたら、それを証明しませんか?」

「んん?」


「蓬莱の技術がムダであることを証明しましょうよ」

「だからそれは、先ほど言ったように」


「その様子だと、実際に確かめたことはないんじゃないですか? 世界最先端の技術とガチでやりあったことってあります?」


 外国が「何としても手に入れるぞ」と精鋭を日本に送り込んできて、それを阻止するというような、ヒリヒリしたやり取り。

 この人はまだ、経験したことないに違いない。


「やらなくても分かるわ」

「いいえ、分かりません。それは分かったつもりになっているだけです」


「そんなことないわ」

「そんなことあります」


「ないわ」

「あるんです!」


「だったら証明してあげるわよ、この分からず屋! このわたしが、古臭い技術に引導をわたしてあげるわっ!」


「……では、協力していただけるのですね」

「うぐっ!?」


 否定も肯定もできず、彼女はしばらくの間、口をパクパクさせていた。




 どさくさ紛れだったが、蓬莱家の協力を取り付けることに成功した。

 あとの交渉は、茂助先輩がやってくれるらしい。


「やはり孫一氏を連れてきて正解だったでござる。何度お願いしても、拙者では首を縦に振ってくれなかったでござる」


「押してもだめなら引いてみろですかね。うまくいってよかったですけど」


 自信があったわけではないけど、何もかも満ち足りていると言ったわりには、本来一番信じなければいけないはずの技術に、懐疑的だった。


 それはなぜだろうと考えたのだ。彼女はおそらくもう、見切りをつけていた。

 医者がこれ以上治療のしようもない患者を見放すときに「匙を投げる」というが、彼女はいま、そんな状態だったのだろう。


 そのため、欲がなかった。

 茂助先輩の説得が効果なかったのも、そのせいだろう。


「これで安心して募集をかけられるでござる」

「そういえば、システムを構築したんでしたよね」


「負荷分散をどうするか悩んだでござるが、コンサートの本人確認と同じようにすることにしたでござる」


「免許証やパスポートで一々確認するあれですか?」

「そうでござる。今回は成人のみ募集でござるゆえ、どのみち現場で本人確認する必要があるでござる」


「なるほど、たしかにそうですね」

 茂助さんの知り合いのウェブデザイナーにも協力してもらって、募集ページは完成しているらしい。


 数日後の6月1日。

 ダンジョンドリームスの探索者募集ページがはじめてオープンした。



 【応募資格】

 ・5人ひと組で、リーダーが代表して応募(男女は問わない)


 ・応募時点で全員が満二十歳以上かつ、当日それを証明できること


 ・複数応募は、その時点で選考対象外(リーダー以外に名前があっても複数応募とみなす)


 ・国籍は問わないが、応募は日本語で行うこと



 こんな感じだ。

 応募時、規約にチェックを入れてもらう必要があり、日本語が読めない時点でアウトだ。

 あと、俺たちが読めない文字で応募されても困る。


 応募時に5人分の名前と住所を記入してもらい、本人かどうかは、当日チェックする。

 武器防具のレンタルは間に合った。


 祖母が買い漁ってくれた。

 ただ、どうみても「死人から剥ぎ取ってない?」と思えるものがあったが、なんとか補修して見てくれだけは整えることができた。


 費用は6時間の探索で、ひと組10万円とした。

 ザックリしすぎだが、前例がないので分からないから、仮の値段だ。


 ダンジョン内で手に入れた魔石、アイテム、スキルオーブなどはすべて持ち帰っていいことにした。

 魔石などを好事家に売れば、探索料くらい簡単に元が取れると思う。


 注意事項として、ダンジョンで魔物を倒すと一様に経験値を取得し、レベルアップすること。


 レベルアップによって身体能力が向上するため、将来的にドーピングに似た扱いになる可能性があることを明記しておいた。


 現役のスポーツ選手、もしくは将来スポーツで食っていこうと考えている人には、思いとどまってもらおうということだ。


 そして悩みに悩んだが、これも書くことにした。

 レベルアップによって、寿命が延びること。


 書く必要はないんじゃないかと思ったが、将来的に「知っていて黙っていた」というのはよろしくない。

 いつか発表せざるを得ないのならば、最初から言ってしまった方がよいと玲央先輩が主張した。


 たしかにそうだ。

「だけど、身体能力の向上だけでなく寿命まで伸びると分かると……」


「両親と縁を切っておいてよかったな」

 玲央先輩が黒い笑いをしていた。


 まあ、そんなこんなで、世間を「ええええっ!?」と言わせそうな内容を発表したのだ。

 これはダンジョンドリームスのウェブサイトだけでなく、DDチャンネルでも同じ発表を行った。


 最後にもうひとつだけ。

 これで、いま話題沸騰中の『DDチャンネル』と新会社『株式会社ダンジョンドリームス』が同一の存在であることが公になったわけだ。


 代表取締役は玲央先輩。

 会社の本拠地は茂助先輩の家。

 役員には俺と勇三の名前が連なっている。


 玲央先輩らしき人物の隣にいる二人の男は言わずもがなだろう。

 嗚呼、これからが俺たちの正念場だ。



というわけで、ようやく募集開始です。

これから少しずつ、ダンジョンを商売としていく動きと、ダンジョンに入る人たちのお話が出てきます。

……そろそろ『ダンジョン商売』と言うタイトルも変えたいですね。まだいい案はないですけど。

それでは引き続き、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 応募条件に国籍を問わない、というのは後先まずかったかも・・・ どこぞの国の特殊部隊きそうww
[良い点] やはり現代のダンジョン物は良いですな。 今後も楽しみにさせていただきます。 [気になる点] 「ダンジョンでパワーアップしてしまった犯罪者」の対処は考えてあるのか・・かな?
[一言] (株)ダンジョンドリームス~ダンジョンを商品化して会社作ります。ついでに異世界も救っちゃう?~ 今風なタイトルだとこんな感じでしょうか。
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