057 物件
茂助先輩がアップロードしている動画は、順調に再生数を稼いでいる。
入金はまだだが、収入源確保のため、できるだけ多くの人に見てもらいたい。
「茂助くんが言うには、海外からの反応がいいらしいぞ」
「すでに本物認定されているみたいですね」
コラボ動画の内容が、翻訳されて再アップされているらしい。
権利関係で許可を出していないので違法だが、茂助先輩はとりあえず様子を見ると言っている。
いまは名を売る時期でもあるし、そうでなくても忙しいのだ。
「これで限定募集をかけたら、どんな反応になるだろうな、ククク……」
先輩がまた悪い顔をしている。
小さな箱で仮運用。限定募集してノウハウを蓄積すると前の会議で決まったが、当然関係各所には連絡していない。
まあ、関係各所というものは存在しないのだけど。
つまりどこかの段階で横槍が入るのではないかと、俺たちは考えている。
だがそれは承知の上。
もし横槍が入って規制されたら、こう言えばいい。
「俺たちは一般開放したい! けれども、政府もしくは地方自治体がダメというからできない。みんな、ごめんね」
そのように説明するつもりだ。
現段階では、横槍が入るのか、入ったとして、いつ、どの程度の強さなのかは分からない。
「最悪の場合、日本脱出ということもあるかもしれませんね」
「そうならないといいのだがな」
先輩とそんな話をしていると、勇三からメールが届いた。
大容量ファイルなので「受け取っていい?」と、確認画面が出ている。
「勇三……あいつ、何を送ってきたんだ?」
「はい」を選択すると、およそ数十秒にわたってダウンロードバーが表示された。
「先輩、勇三からですけど、物件が見つかったので確認してくれって」
写真ではなく動画が添付されていたと説明すると、玲央先輩も苦笑していた。
「彼は相変わらずだな」
「頭はいいんですけどね、行動が直情的なんです。ダウンロードが終わったようなので、一緒にみます?」
「ああ、そうしよう」
画面の中では、「ここが事務所の入り口で」とか、「広さが……」と、勇三がカメラを回しながら説明している。
「それなりに広い部屋だな。独立した2階建ての家屋というのもポイントが高い」
戸建ての賃貸事務所らしく、広く使えるのはいいが、建物はかなり古い。
ダンジョンに行くための部屋とバックヤードがあればいいので、築浅である必要はないのだが、とても趣きのある……古い外観である。
「魔法陣は半径1メートルですから、帰還用の魔法陣を除いても、5個くらいは置けますね」
「魔法陣1つにつき5人だから、一度に25人か。1日4回転させて100人だな」
「1日100人……試しにしては大掛かりですね」
「それでも足らないくらいだろう」
「でも100人分か……祖母に革鎧と武器は頼んであるんですけど、足らないかもです」
いま、戦争で使われたボロの装備を買い漁ってもらっている。
武器、防具、盾……一つ一つはそれほど高額にならなくても、数を揃えようとしたら、それなりに高額になる。
祖母は〈転移〉であちこちの町へいけるため、文字通り飛び回って集めているとか。
買い漁った装備はレンタルにまわす予定で、もちろん探索者が自前で揃えてもいい。
ただし、一般の人は武器や防具など持っていないのが普通。
こっちで用意しなければならない。やはり、色々と手間がかかる。
動画投稿者のブラックキャップさんから、「解説動画OK」と返事があった。
株式会社ダンジョンドリームスの公式サイトにも解説は載せるのだが、おそらく現役のDoTuberさんの方が訴求力が高いと思われる。
ダンジョンの使い方から宝箱の中身まで、俺たちの動画をもとに解説をしてもらう予定だが、このあと何度かは、実際にダンジョンに入ってもらうことにもなりそうだ。
ブラックキャップさんは、母親の病気を治してもらったから、ダンジョンドリームス関連の案件はすべて無料でいいと言ってくれた。
だが、それはさすがにアレなので、逆値段交渉がはじまったのは謎だ。
勇三が見つけてきた物件は、玲央先輩と茂助先輩が内覧に向かい、すぐに契約することになった。
2階建てで使用するのは1階部分。天井が高いので、開放感があっていいそうだ。
2階は倉庫と待機所にできそうだ。
場所は西国分寺駅から府中本町駅方面へ向かった線路近く。
もとはリサイクルショップが入っていたらしい。
値段は安め。ただし駐車スペースが少なく、電車利用が前提になってしまっている。
「競馬新聞片手に電車に乗る人たちと一緒になりますね」
「うむ。しかしそうすると、武器を持って電車はないな」
「そうですね。包丁程度なら梱包してカバンに入れられますけど、剣とか槍とかはないですね」
いくら鞘に入れたとしても、公共交通機関を使えば、銃刀法違反でしょっぴかれる。
「荷物預かりをするか、有料でロッカーを貸し出すか」
「付近の駐車場を契約したとしても、全然足りませんしね」
本当に商売は難しい。次から次へと、考えなきゃいけないことが出てくる。
「アルバイトの求人をどうするかだが、いっそのこと社員として雇うか?」
勇三のところから人材を回してもらうのは確定しているが、右から左へすぐにというわけにもいかない。
「それでもいいですけど、先輩が以前言ったように、政府みたいなところから待ったがかかった場合、雇ってしまうと、どうなるか分からないんですよね」
「となると、アルバイトか。研修もしたいし……どうするか」
「派遣社員を頼むという手もありますよ」
「あれの契約形態ってどうなっているんだろうな」
「俺もわかりません。調べてみますか?」
「また今度でいいだろう。茂助くんの友人が手伝ってくれることになっているし、雇用については、彼らに聞いてみよう」
「なるほど、それはいいですね」
ノウハウの蓄積は大事だ。できれば、最初から関わっている人たちに、その後もお願いしたい。
だが、スタートしたばかりで忙しく、社員を集めて研修などやっている暇もない。
どうしても即戦力になる人を雇うことになる。
「まずはアルバイトを雇おう。それでダンジョン商売の試運転だ」
「分かりました」
さて、そのアルバイトだけど、どうやって雇えばいいんだろうか。
広告を出せばいいのか? 初めてなので、よく分からない。
金銭も絡むことだし、これも茂助先輩に頼った方がいいかもしれない。
俺や勇三でやると、見切り発車で失敗しそうな気がする。
何にせよ、仲間も場所も決まったのだ。
あとは前進あるのみだ。




