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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
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055 決まっていくこと

 今日はダンジョンに入らず、会社運営についての会議をすることになった。

 メンバーは、俺、勇三、玲央先輩、茂助先輩の4人だ。


 まず、東海林さんの加入の件だが、全員賛成。


 必要以上に……というか、米兵からストーカーされるレベルであること、現時点で身バレして注目を浴びていることなどを加味すると、このまま何もなかったことにするくらいなら、味方に引き込んでしまった方がいいという結論になった。


 もちろん、東海林さん次第だが、探索メンバーにならなくても、会社で一緒に働いてもいいわけで、そういった方向で話を持っていってくれと言われた。

 今度、会ったときに気持ちを聞いてみようと思う。


 東海林さんの件が終わったあとで、茂助先輩が手を挙げた。


「先日、玲央(れお)(うじ)から頼まれた顧問弁護士の件でござるが、ようやくよい事務所が見つかったでござる」


 ダンジョンを一般開放するにあたって、ルール決めが必要となり、法律相談できる人がいないと話にならないことが分かった。


 そこで顧問弁護士を探して契約してしまおうということになったのだが、さてどうしようとなった。


 弁護士には「○○に強い」というのがよくあるようで、『知的財産権に強い』 『相続問題に強い』など、結構個性が出るという。

 例のごとく、茂助先輩に頼んだようだった。


「顧問弁護士かぁ……コッチの方はだいじょーぶなのか?」

 勇三が親指と人差し指で輪っかをつくった。


 たしかに弁護士と顧問契約など、高くなる未来しか見えない。


「実は、個別に相談するより安いでござる。それと契約料でござるが、1年でも2年でも待ってくれるでござる」


「……ん?」

 それって、商売にならないんじゃなかろうか?


「利益が出ることが確実なら、急がないと言ってくれたでござる。強かですが、その分やり手でござる」

「ああ、なるほど」


 俺たちが考えている『ダンジョン商売』は、元手がゼロ、ランニングコストは不動産などの固定費と人件費がほとんど。


 仕入れは発生しないし、ロスも出ない。

 リスクが少なく、需要は天井知らず。


 儲けの大きい商売なのは、はじめから分かっている。

 玲央先輩は腕を組んで鷹揚に頷いているので、想定通りなのだろう。


「ある時払いの催促なしというのは多少怖い気もするが、契約自体はこちらの判断でいつでも解除できるし、向こうも滅多なことはしてこないだろう。法に反することができない業種だからな。税理士の方も話は済んでいる。こちらも問題なしだ」


 税理士は鬼参総合病院と同じところに頼んだ。

 いつもお金のことで両親相手に侃々諤々(かんかんがくがく)とやり合っている姿を見て、玲央先輩は信頼できると感じたようだ。


「雇い主のいいなりになるような税理士だったら、今頃うちの両親は塀の中だよ」


 これまで鬼参総合病院が一度たりも脱税などの嫌疑を受けなかったのは、その税理事務所のおかげらしい。

 お金大好きな玲央先輩の両親も、切るに切れないのだろう。


「ブラックキャップさんたちから、何か手伝えることはないかと聞かれたので、解説動画をお願いしようかと思うんだけど、どうですか?」


 実はルール決めと同時に、それを知ってもらう方法を模索していた。

 ダンジョンの基礎知識とか、会社のこととか、設備の使い方などを動画にしたらどうかと思ったのだ。


「それ、いいんじゃね? 難しい説明書とか作られても、読まねえし」

「たしかに申し込み方法から実際のダンジョンに入るまでの流れとか、動画で説明した方が分かりやすいな」


「あと、一般公開の前に限定公開して、フィードバックを得たいんですよね。いまは俺たちがダンジョンに連れて入っているだけだし」


 一般人の5人組がダンジョンに入り、無事出てくる。

 それを何度も繰り返すことによって、問題点も見えてくると思うのだ。


「なるほど……ベータ公開みたいなものだな。適性、体力、度胸のあるなしなんてのも実際に入ってみないと分からないか」


「複数のダンジョンを一度に造るわけだし、出入りの問題もあります。運営側のノウハウを蓄積する意味でも、それで数ヶ月はやっていきたいかなと」


「私たちはまだレベル15だ。レベル20になるまで〈ダンジョン生成☆4〉のスキルは使えない。御祖母様にご足労願えるか、聞いてみるか」


「おばあちゃんは大丈夫みたいですよ。転移で行って帰ってくるだけだし、一日中、ヒマしているって言ってましたから。それになぜか、やたらと協力的なんですよね」


 やることがないとすぐに異世界に行って、昔の友だちに会っているくらいだから暇なのだろう。

 家に帰るとノリノリで、「どうだった?」と聞いてくる。


「ならば、仮運用に適した小さめの箱が必要だな。さすがに公園を使うわけにもいかないし」

「小さな箱ですか?」


「ああ。すでに勇三くんには下話(したばなし)をして、それなりに広い物件を探してもらっている。見つかったらそこを当面の活動拠点とするつもりだ。最終的には、もっと大きな場所へ移ることになるだろうが」


「これまでの話からそれは分かりますけど……小さめの箱というのは?」

「物件が見つかっても、最低限の改修でも数ヶ月、いや半年はかかるだろう」


 物件を見つけ、用途に合わせた改修案を出し、実際に工事をし、完成させて引き渡す。

 よく知らないが、一ヶ月や二ヶ月でどうにかなるものではないらしい。


「そのための小さな箱ですか」

「ああ、スピードが命だ。居抜きで使えるものがいいな」


「オーケー、オーケー、広ささえ分かれば、オヤジに頼んでおくけど」

 都内に多くの土地を所有している座倉(ざくら)だが、影響力でいえば、この地域の方が強い。


 小さな箱くらい、いくらでも見つかるだろう。


「魔法陣を設置する部屋は……そうだな、実寸の床面積で10メートル四方くらいあればいいんじゃないかな。ほかに倉庫、事務所用の小部屋が必要だな」


「そんくらいなら問題ないぜ。今度聞いてみるわ」

「勇三、駅前とかじゃないほうがいいと思うよ」


「なるほど、駅前を混乱させちゃ、駄目だよな。他に希望ってありますかね」


「学校の教室より少し広いくらいをイメージしてくれ。会議室のような立派なものでなくていいぞ。ただし、孫一くんが言ったように周辺環境には気をつけた方がいいだろう」


「事務所に限定せずに倉庫……いや工場の方がいいのか? ……それなりに広いとこで探してみるわ」


 魔法陣の有効範囲は、半径1メートルほど。

 それが重ならないように設置できれば、基本は問題ない。


 魔法陣がいくつ設置できるかは、物件が決まってからでいいだろう。


「限定申し込みするにもオンライン受付が有ったほうがいいでござるな。人の手ですべて処理するのは手間でござる」


「なるほど……茂助くんひとりだとシステム開発は、手が足らないかな?」

「これから先を考えると、足らなくなるでござる」


「だったらいっそ、社員を募集するか。限定運営のときでも社員がいれば、ノウハウの蓄積になるわけだし」


「金が出ていきますね」

「なあに、すぐに取り返せるさ。ウチの病院でもまともな人ほど閑職に回されていたりしてな、少し声をかけてみるか」


「ウチの社員も結構余ってるぜ。仕事のなくなった証券会社の社員とか、結構引き取ったし」

「ならば、派遣のような形で、借りてみるのもいいかもしれなんな。それとシステムだが……」


「システム関連ならば、ネット上の知り合いがいるでござる。優秀で信頼のおける者がいるでござる。その人たちに声をかけてよいでござるか?」


「募集するよりその方がいいだろう。茂助くん、やってみてくれ」

「分かったでござる」


 こうして今日1日で、多くのことが決まっていった。

 俺は聞いてるだけだったが。



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― 新着の感想 ―
[一言] 孫一君以外、みんな色んな分野でコネが太い… 着々と社会に進出し始めてきていいですね ただお祖母ちゃんの思惑通りというか、手のひらの上で転がされてるのが不穏に思えます お父さんが異世界関連の話…
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