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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
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054 ある意味災難

 ――右腕少女の正体は、国立市に住む女子高生。


 という感じで、東海林さんのことがSNSで拡散された。

 俺たちが知ったのは話題になった後だが、実は数日前から学校でも噂になっていたらしい。


 ダンジョン探索が忙しく、それどころではなかったのもあるが、もう少し注意していれば、噂に早く気づけたかもしれない。


 東海林さんに電話してみた。

『あっ、やっぱり知られてしまったんですね』


「人から聞いて、SNSを確認したんだけど、いつからこんなことに?」

『最初に聞かれたのは3日前ですかね。SNSだともう少し前から話題になっていたみたいです』


 商店街に住むだれかが、SNSに「近所に右腕少女が住んでいる」とつぶやいたらしい。

 その人の他のつぶやきから、場所が国立の商店街だと判明し、そこへ突撃する人が出た。


 商店街ではすでに話題になっており、噂を仕入れた人が事実だと書き込みを開始。

 名前が判明し、そこから地元の中学校、進学先の高校までが明らかになり、クラスで話題になったということらしい。


「芋づる式に辿られてしまったわけか。大丈夫なの?」


『最初は聞かれたことに答えていたんですけど、ちょっと対応できなくなって……あっ、先輩のことは何も話していませんよ。ただいまは変に注目されてしまったので、担任の先生と相談して、少しの間、学校を休もうかと思っているんです』


 現在、東海林さんはポーションで腕を生やした世界で唯一の存在だ。

 有史以来、東海林さんと同じ体験をした人はだれもいない。


 以前、先輩はこう言っていた。

「ウーパールーパーは、手首や腕、肩から切断されても再生することができる。多くの研究者がそのメカニズムを人に応用できないか挑戦したんだ。だが、体組織が根本的に違うので、ほぼ不可能だろうという結論に至った」


 そのほぼ不可能と言われていた腕の再生が、多くの人の目の前で行われた。

 謎を解明したがる人は、それこそ世界中にいて、いまだ問い合わせが絶えていないという。


「せっかくマスコミが自重したっていうのに」

『そうなんですよね。でもまあ、知られてしまったのは、仕方ないかなって思っています』


 あっけらかんと言っているが、学業と生活に支障が出ている。

 前回の米兵のこともそうだ。


 俺たちが隠れているせいで、東海林さんに注目が集まりすぎている。

 さすがに放置できない。というか、したくない。


 東海林さんとの電話のあと、俺は祖母に相談した。


 祖母はひとつ頷いて、「だったらいっそ、仲間にしたらどうだい?」と言った。

 牟呂さんを入れた俺たちは4人。スキル伝授には、あと一人分の空きがある。


「東海林さんを仲間に……?」

 出会ったのは偶然だが、これまでの経緯から、東海林さんは俺たちの事情をよく知っている。


 素行の悪いところはないし、真面目で好感の持てる性格だと思う。

 テニス部に入っていたと言っていたので、運動も苦にならないだろう。


 茂助先輩は何度誘っても「それだけは勘弁してほしいでござる」と、一向に首を縦に振らない。

 もっと高ランクのダンジョンに入れるようになったら、パワーレベリングに誘ってみようと思っている。


「たしかに毎日ダンジョンに入ってくれそうだし、俺はいいけど、本人が何ていうかだよね」

 スキルを伝授するなら、ダンジョンドリームスにガッツリと関わってもらわねばならない。


 一生を決める……といえば大げさだが、ある意味それに近い。

「友だちにも聞いて、問題ないなら誘ってみればいいじゃないか」


 祖母の言う通りだ。こういうのは、一人で考えてもしかたない。

「そうだね、みんなに聞いてみるよ」




 翌日、東海林さんは学校を休んだ。

 俺のクラスではまだ噂になっていない。本人を見たことないので、表立って噂していないだけかもしれないが。


 昼休み、俺は担任の小湊(こみなと)阿重霞(あえか)先生のところへ行った。

 みんなから「阿重霞ちゃん」と親しまれている通り、話の通しやすい大人だ。


 茂助先輩が言うには、そろそろダンジョンドリームスの発表をするので、その前に学校に話を通していた方がいいとのことだった。


 俺は会社の発起人のひとりであり、役員として名を連ねている。学業との両立もあるので、事後より事前の方がいいだろうと。

 なるほどと思った次第だ。茂助先輩はいつもよく気がつく。


「先生、今月、会社を作ったんです」

「……いきなりだな」


 俺たちの担任にして人気者の阿重霞ちゃ……小湊先生は、右手でボールペンを弄びながら、うろんな目を向けてきた。


「経営者の一人になったので、そっちの責任も出てきますが、学業もちゃんとやりますので、ご心配なく。……というわけで、一応知らせておこうと思って」


「そうか。その心がけはいいぞ。これまでバイトを始めたと言いに来たヤツはいたが、会社を作ったヤツはいなかったな」


「じゃあ、俺が初めてですね」

「別段、学校としても起業禁止の校則はないんだが……すまんが、もう少し詳しく教えてくれるか?」


「今年卒業した先輩と共同出資で作った感じですね」

「……もしかして、鬼参か」


 担任は学年ごとの持ち上がりになっているため、玲央先輩のことは直接知らないはずだが、思い当たるところがあったのだろう。


「大学進学に関して、学校に猛抗議がいったらしいですね」

「ノーコメントだ」


 玲央先輩が入試を欠席して、家に連絡がいった。

 親子で大喧嘩したあと、先輩の両親は学校にも抗議を入れたらしい。


「本当に恥ずかしいことをする」と先輩が嘆いていた。

 おそらく教師たちの間でも話題になったのだろう。


「玲央先輩が社長で、俺と3組の勇三が共同出資者ですね。会社名は、『ダンジョンドリームス』です」

「また変な……ゲーム会社か?」


「いえ、いまは動画の広告収入のみですが、将来的には、一般人にダンジョンを開放して、その入場料で……」

「……マテ」


「ポーションとかの販売なんかも視野に……」

「……マテ」


「どうしました?」

 小湊先生は、額を抑えている。頭痛持ちだろうか。


「右腕少女……と言ってはいけないんだが、とある女子生徒がだな。最近……」

「東海林さんですよね。偶然会って助けたのは俺です」


 それを告げたとき、小湊先生はトイレのウオッシュレットが『最強』になっていて、知らずに使ってしまったかのような顔をしていた。


「………………放課後話そうか」

 長い間沈黙したあと、ようやく声を絞り出していた。


「俺の担任になったばかりに、負担かけます」

 新学期早々、負担をかけてしまうかもしれない。


 放課後、相談室に場所を変えて、会社の業務内容を告げた。

 ついでにと思って、DoTubeで開設している『DDチャンネル』についても、教えておいた。


「というわけで、学業には差し障りが出ないようにしますけど、周囲が騒がしくなると思うので、よろしくお願いします」


「周囲が騒がしくなるってレベルじゃないだろ? 報道陣が校門前に集結するんじゃないか?」


「可能性は高いと思いますので、こうして事前にお知らせしておこうかと思ったわけです」

 茂助先輩に言われなければ、完全に失念していたが。


「ちょっとこの話は手にあまる。校長と相談しながら……いや、それで収まるかどうか」

 いろいろと悩んでいるようだ。


「まだプレスリリース前なので、あまり広まってほしくないですが」


「広まってほしくないのはこっちも一緒だ。学校も同じ結論になるだろうな。ただ、準備もなく学校が報道陣に囲まれたら、あたしが吊るし上げられるな。とりあえず、校長と信頼のおける教師には話すぞ」


「分かりました。それは問題ないです」


「一応言っておくと、ウチは私立だから経営には神経を使うんだ。理事と評議員と参与(さんよ)が運営する理事会ですべてが決まる」


「……はあ」

 学校の経営について言われてもよく分からない。


「右腕少女……東海林秋穂(あきほ)さんの件で明日、臨時理事会が開かれることになったらしい。教師は雇われだから、参加資格はない……が、ここだけの話にはできんな。校長へ話を通すか……はあ」


 小湊先生はため息をついているが、東海林さんの件はどうしようもなかったのだ。

 あと俺の件も以下略だ。


「一応言っておきますけど、東海林さんを助けたのは偶然ですよ。たまたま近くに俺がいて、もしものために持っていたポーションを使っただけですから」


「そうなのか?」

「ええ、ただし昨年の学園祭で知り合ったので、いまはお互いのことを知っているんですけど」


 東海林さんもまた、ダンジョンドリームスのことは知っていると告げて、俺は小湊先生との話を終えた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 偉い人に話を通しておくのは社会人の基本。 事が大きいだけに、報道機関どころか国が動いてきた時に「今知りました」と「把握はしていたけど学生を守るためには云々」では対応も印象も変わってきますか…
[一言] なるほど 災難なのは先生なわけね スポーツ強い、偏差値高い なら学校の力と宣伝できるけど ダンジョン商売は学校関係無いから宣伝にならんし
[一言] できれば夢のある物語を。 現実の世知辛さだけの物語にならないことを…。
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