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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
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053 レベル15

 東海林さんを尾行していた人たちがどうなったのか。

 あれから新しい情報はない。


 法をおかしたわけではなく、相手が米軍とあっては、警察もこれ以上何かできるものでもないという。


 一応、巡回は増やすと言ってくれたらしいが、逆に米軍が見張っていたら安全なのでは? と言われたらしい。


 この事件の結末は、東海林さんが右腕少女だと周囲に広まっただけ。

 なんともやりきれない話だ。


「本来、尾行されるなら、私たちの方だろうしな」


 玲央先輩の言うことももっともで、俺たちにたどり着けないからこそ、東海林さんが尾行された気がする。


「まだ米軍にも、俺たちの情報は漏れていないってことですよね」

 尾行に気づいていないだけかもしれないが、いまのところ平穏だ。


「米軍の狙いはポーションだと思うが、それがダンジョンで手に入るとなったらどうなるかな」

「まあ、答えなくても先輩なら分かりますよね」


「精鋭に最新鋭の装備を持たせてダンジョンへ行かせるな」

「ですよね」


 実際に右腕が2本あるのだから、嘘やごまかしはできない。

 四肢欠損を瞬時に治すポーションは実在する。いまはもう、それが世界の共通認識となっている。


 ポーションがまだあるのか、どこまで治せるのかなど、一切不明だ。

 おそらくだが、喉から手が出るほど欲している人は、世界中に大勢いるだろう。


「少なくとも怪我と病を治すポーションの存在は知れ渡った」

「そうですね」


「寿命を格段に伸ばすポーションがあるのでは? と考える富豪がいてもおかしくないな。そんなものがないと、連中は知らないわけだし」

「ああ……そのことなんですけど」


「ん? どうしたんだ、孫一くん。甘いものと辛いものと苦いものを同時に食べたような顔をしているが」


「祖母から聞いた話で……あの、非常に言いにくいんですけど……でもいつかは言わなきゃならない話なんですけど……」


「なんだ? ものすごく言いづらそうだな」

「寿命なんですけど……レベルと寿命は相関関係にあるようでして……高レベルだと、それなりに伸びるようなんです」


「……ほう?」


「あっちの世界に統計はないようで。ただ、過去の例からすると……祖母のレベルで130歳くらいまでは普通に生きるって……」


「…………」

 先輩は眉間の間を揉んでいる。


「前にあと数十年は生きるとか言ってたのは、本当だったみたいで……」

「御祖母様はいま、70歳くらいだな」


「そうですね。あと数年で70歳です。……で、計算によるとあと60年くらいは問題なく生きそうです」


 異世界では高レベルの人たちの寿命は長い。ただし、魔物がいる世界だ。途中で亡くなる人も多い。

 死亡年齢から平均寿命を推し量るのは難しいようだ。


「ダンジョンで怪我や病気を完治させるポーションを手に入れられるようになって、さらに寿命まで伸びると分かったら……いや、いまは考えるのはよそう」


 さすがの先輩も、ことの重大さに一時、考えを放棄したようだ。




 ダンジョン探索は、自分との戦いともいえる。

 最初の頃こそ、数時間で集中力が切れてしまった。


 疲労のため、魔物に対する反応が極端に悪くなるのだ。

 3ヶ月もすると6時間ほど探索を続けられるようになったが、疲れは蓄積する。


 祖母が自分の身体と相談するように言ったのはもっともな話で、行けると分かっていても、身体がついていかないケースが出てきた。

 集中力が続かないのだ。


 結局、肉体面と精神面の両方を鍛えない限り、安全に長時間の探索は難しいことが分かった。


「……あっ、レベルアップした」

 ダンジョン探索で、日々モチベーションを維持していくのは難しい。


 たまにあるレベルアップが、一番のカンフル剤となっている。

「これでレベル15か。長かったな」


「3つ目のスキルを取得できますね」

 レベル15になるまでの探索で、スキルオーブは2個出ている。


 最近出た〈水砲(すいほう)☆1〉のスキルオーブは、倉庫に眠らせてある。

 俺たちは必要ないし、ダンジョンを一般公開したあとで売ろうと思っている。


「今日はここまでにして、御祖母様のところへ行こう」


 俺たち3人は現在、〈身体強化☆1〉〈火弾☆1〉のスキルを持っている。

 3つ目のスキルだが、俺と勇三は〈閃刃☆2〉、玲央先輩は〈調合☆2〉を取得する予定でいる。


 技能値が高い玲央先輩は、〈調合〉スキルを使って、ポーション作成をしたいらしい。

 それにはダンジョン産の素材が必要だが、俺たちは暇を見つけては、採取道具を使って、素材を集めている。


「しかし、採取専用の魔道具を使わないと、素材すら採れないというのは厳しいですね」


 魔道具職人がいれば別だが、魔道具の入手はすべて祖母頼み。

 異世界で買ってきてもらっている。


「魔道具職人がいないと、魔石もただの石か」

 異世界で魔石の使い道は、2つある。


 ひとつは魔道具に使用する方法。

 どのような魔道具にしろ、使用するには何らかの魔石が必要になってくる。


 そしてもうひとつは、生産系スキルの補助だ。

〈調合☆2〉もそうだが、生産系のスキルを使うとき、自身の魔力ではなく魔石の魔力を使う場合が多い。


〈ダンジョン生成〉スキルでも、魔石を使用すれば一度に複数のダンジョンを生成できる。

 これを自前の魔力でやろうとしたら大変だ。


 それゆえ、異世界でも大量の魔石が必要なのだが、ここにひとつ落とし穴がある。

 たとえば〈調合〉で☆1のポーションを作るときは、☆1の魔石が必要で、他も同じ。


〈ダンジョン生成〉で☆1のダンジョンを造る場合、☆1の魔石が必要なのだ。

 そのせいか、異世界では☆1の魔石は安く、☆が多くなるほどより高額になっていく。


 つまりここでも、探索者で生計を立てるならば、より難易度の高いダンジョンへ行く必要がある。


 難易度の低いダンジョンでチマチマ稼いでもたかが知れるため、やはり異世界で生活するのは大変なのだと思える。


 ダンジョンを出た俺たちはすぐ祖母のもとへ向かい、念願の3つ目のスキルを手に入れた。

 これでまたダンジョン探索が捗るし、新しいチャレンジもできる。


牟呂(むろ)さんも、そろそろかな」


 俺たちと一緒に探索者をしてくれることになった牟呂(かける)さんは、ホテルを辞めることになった。


 引き継ぎやら何やらで、月末まで働くことになっており、そこから引っ越しなどをするため、合流できるのは少し先になっていた。


 おそらくそろそろ連絡が来るのではなかろうか。

 そんなことを思っていたら、東海林さんの件がSNSでとり沙汰されていた。


 商店街経由だろうが、『右腕少女の正体』というワードが、SNSでトレンド入りしていたのだ。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ? 収益化通っているならそこからの情報で主人公達の正体ばれているのが普通なのでは?
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