表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
54/99

052 不穏な影

 ある日の昼休み。

 俺は、東海林(しょうじ)秋穂(あきほ)さんから相談を受けた。


「なんか、監視されているんです。クラスの友だちに確認してもらったら、間違いないっていわれて」

 学校の中庭で話を聞いたが、ちょっと捨て置けない内容だった。


「詳しく話してくれるかな」

「はい。先日のことですけど、高校でできた新しい友だちと町へ繰り出したんです。友達と一緒に自撮りとかしますよね?」


「俺はないけど、女の子同士だと、よくあるんじゃないかな」

 女の子たちが集まって、互いに顔を近づけ合いながら写真を撮るのを見たことある。


 東海林さんたちも、人の迷惑にならなければ、路上でも普通に写真を撮るらしい。

「あとで写真を見返したら、同じ車が写ってるんです。そんな確率、ないですよね」


 1枚目は登校中に撮った写真で、2枚目は先日の町中のもの。

 スマートフォンの写真を見せてもらったが、たしかに東海林さんの背後に同じ車が写っていた。


「スモークガラスのバンか。たしかにナンバーも一致しているね」

 最近のスマートフォンは、カメラのセンサーが優秀だ。離れたところのナンバープレートだって、簡単に読み取ってしまう。


「そしてこれが友だちから送ってもらった写真です」

 事前に示し合わせて、東海林さんが町を歩き、跡をつける車がないか友だちに確認してもらったらしい。


 今度はかなり先を歩く東海林さんを写したものだ。

 東海林さんの後ろ姿とともに、同じ車が写っていた。


「ストーカー? 週刊誌の記者とかかな?」

 テレビや雑誌、ネットでも東海林さんの名前は出ていない。


 だがそれは、東海林さんのことが確認できないからではなく、15歳という未成年者だから自重したに過ぎない。

 名前は分かっていても、自主的に報道していないだけの話だ。


 東海林さんが吉祥寺で怪我をしたのは偶然であり、俺がそこに居合わせたのも偶然。

 ゆえに2度目の邂逅はない……世間はそう思っている。


 実際は、それよりも前に会ったことがあり、いまでも交流は続いているのだが。


「それで電車に乗ったんですけど、わたしをつけているのは、外国人みたいなんです」

 友だちに頼み、駅前で張っていてもらったようだ。駅に入っていく東海林さんと、そのあとにやってきた車。


 車から下りたのは白人男性が二人。いずれも軍人かと思うようなガタイをしていて、サングラスで顔は隠されていたという。


「あからさまに怪しいけど……俺も普段、歩くときは後ろを注意しないしな。つけられてないよな」

 振り返りながら歩く人などいない。


 自分にやましいことがなければ、尾行の有無なんて、普通の人は確認しない。

 少し離れた後ろをついて来られても気づかないと思う。


 東海林さんも同じで、いつからつけられていたのか、まったく分からないという。

「俺の情報を知っている人はいないから……それに外国人だとすると、東海林さんに目をつけた国がある?」


 可能性が低いと分かっていても、東海林さんに張りつくことで少ない手がかりをモノにしようとしているのかもしれない。


 幸い、東海林さんの家は国立駅近くにある商店街の中。マンションはオートロックである。

 また、登下校中は周囲にだれもいないなんてことはない。それくらい人通りは多い。


 だが相手が日本人ではないというのは問題だ。

 誘拐ということも十分考えられる。そして得てして、警察はアテにならない。


「しかし困ったな……」


 東海林さんが狙われる原因の一端は俺にある……とはいえ、あのときは、ポーションで救うのが最善だったと思っている。


「友だちには大丈夫だと言ってあります。うちの両親が対策を取ってくれるとも。……あっ実際、両親は動いてくれています。ただ、このことだけは知らせておこうと思いまして」


「ご両親は、何か特殊なことをしている人?」

「そういう訳ではないんですけど、顔は広いので、商店街に声掛けをしておくと言ってました」


「ストーカーはこっちにも来るかもしれないし、俺も注意しておくよ」

 最近はコラボもしているので、そろそろ周囲が騒がしくなってもおかしくない。


「そうですね。それじゃ、進展があったらまたお知らせします」

 そう言って、東海林さんは去っていった。




 翌日の昼休み、また東海林さんに呼ばれたので、中庭で会うことにした。

「昨日のストーカーですけど、正体が分かりました」


「早いね」

「毎日つけられてますし、こっちには写真という立派な証拠がありますから」


 東海林さんの両親は、商店街の人たちに写真を見せ、協力を頼んだらしい。

 昔からそこに住んでいることで、両親は商店街の人と顔なじみだったようだ。


 やり方は簡単。東海林さんが帰宅するとき、駅から家まで歩く。

 ルーチンの作業になっているためか、駅前で車が待っていたようだ。


 そして車は東海林さんのあとをつける……のだが、商店街の中に入ったとき、人々がその車を囲んだ。

 おそらく、相当困惑しただろう。前と後ろを囲まれ、警察まで呼ばれた。


 東海林さんの両親は事前に警察に相談済み。

 警官はすぐにやってきた。


「わたしが右腕少女だっていうことと、ストーカーの写真があったおかげで、話は通りやすかったと父が言ってました」


 国家権力が介入してきた瞬間、車の中にいた人たちは諦めたようで、外に出てきたという。


「それで正体はなんだったの?」

「在日米軍の人たちでした。上から命令されて監視していたみたいです。逆に、身分を明かされちゃったので、拘束はできなくて」


 警官も上に連絡して引き上げることにしたらしい。

「作戦行動中の米軍の扱いになったのかな。なんにせよ、それで一件落着?」


「なぜわたしを尾行したのかとか、今後も続けるのかとかは一切不明のままなんです。教えてくれないというか、そこだけは頑なに口を閉ざして」


「なるほど……分かったのは身分だけか」

 警察ならもう少し把握しているだろうけど、話を上に預けたんじゃ、教えてくれないかもしれない。


 聞いたところ、その現場に東海林さんはいなかったらしい。

 商店街の人たちに説明する義務はないだろうし、あとをつけた理由を話さないのも分かる。


「それで、流れでわたしが右腕少女だということが商店街の人たちに分かっちゃって……」

「あ~……バレちゃったか」


 せっかくマスコミが自主規制してくれていたのに、ストーカーのせいで台無しだ。


 しかし、在日米軍ね。

 またとんでもないところが出張ってきたな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] JKと商店街の皆さんにやられるアメリカさん。
[一言] 在日米軍……ウルフガイを思い出します。
[良い点] ロシアや北朝鮮じゃなくてよかった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ