051 激烈な反響
かるちゃんさんとゆうじさんの動画が呼び水となって、DDチャンネルの登録者が20万人を超えた。
来週には30万人を超えるのではないかと思われる。
今朝、登校したとき、もし身バレしていたらどうしようとドキドキしていた。
男子が騒ぎ、女子がきゃーと嬌声をあげたら、どう対処しようか。
そんなことを考えていたが、なにもなかった。
放課後、勇三にそのことを言うと、「たしかになにもなかったな」と笑われた。
「しかしこれで、準備を急がないといけなくなったぜ」
「まあ、レベルアップは順調だし、夏の終わり頃にはレベル20になっているんじゃないかな」
現在、レベル14。
毎月1レベルくらいのペースでレベルが上がっている。
土日とGW、夏休みを使って集中的に鍛えれば、8月中には届きそうな勢いだ。
レベルアップの方はそれでいい。
目下のところ、問題は2つ。
一つ目の問題は、どうやってダンジョン探索者を集めるかだ。
いまのところ、いい案はない。
まずは武道の有段者や、スポーツ選手あたりで確かめてみたいとは思っている。
家に帰ると玲央先輩がいたので、そのあたりを聞いてみた。
「スポーツ選手か。将来有望そうなのは、やめたほうがいい。レベルアップで身体能力が上がることが問題だ」
「そうですね。ドーピング扱いになったら、目も当てられませんし」
過去、薬物使用でメダルを剥奪された選手は枚挙にいとまがない。
国ぐるみでドーピングしていると噂された例もある。
これはドーピングではないが、身体改造、もしくは人類の進化に近い。
スポーツ大会を管理している団体が、どんな採択をするか分からない。
レベル2になった人の大会出場は駄目と言ってくれることだって考えられる。
「だけど、試しに入ってもらうとして、運動がそれなりにできた連中の方がいいんじゃね?」
勇三の言うことももっともだ。
運動なんて何十年もしたことがありませんという50代、60代の人をすぐダンジョンに入れるわけにもいかない。
「いや、逆だ。そういうのを含めて、事前確認をしたいのだ」
運動能力のある人、ない人、若い人、歳がいった人。
男性や女性を同じ条件で試したいと玲央先輩が言う。
「こういうのは、少人数で試すしかないのだ。慎重に進めていく」
「そうですね。問題はもう一つの方ですけど」
「政府関係者か……」
「なぜ俺たちに接触しようとしてきたんですかね」
いまのところ接触はないが、一般公開する頃にはやってくるだろう。
目的が分からないため、どう対応していいか分からないのが現状だ。
「最悪、すべて禁止ということも……」
本当に政府は、何を考えているのか知りたい。
ゆうじさんたちとのコラボ動画が公開された翌日、DDチャンネルもあのときの動画を公開した。
これで3パターンの動画が世に出たわけで、そろそろ「CGだ」と騒ぐ人は減ってきた。
そのかわり、どうやったら自分もダンジョンに入れるのか、コメントで聞いてくる人で溢れかえっている。
古参……といっても、それほど古くないが、前から注目してきた人たちが「うざい」と発言し、コメント欄で喧嘩する事態に発展している。
「どうすればいいんだ、これ」
「コメントを閉じるわけにもいかないし……まあ、見なかったことにしよう」
あと数ヶ月は身バレしたくないため、あまり表だった活動は控えるつもりだ。
コメントへの返信もそのひとつ。ささいなことから身バレすることもある。反応はしないに越したことはない。
「ネットではさまざまな憶測が流れているらしいが、答え合わせする必要はないしな」
「そうですね。とにかく俺たちはレベル20にして〈ダンジョン生成☆4〉を使えるようにしないと」
そう、すべてはレベル20になってからなのだ。
もちろんそれまでは祖母に助けてもらうわけだが、レベルが20を超えたらあとは自分たちだけでやる。
「御祖母様に負担はかけられないからな」
「そうですね」
日が経つにつれて、世間の反応が大きくなってきた。
ネットでは検証班が出動し、動画の解析に余念がない。
俺たちは顔を隠しているため、動画から身バレする可能性は少ない。
声も周波数を変えていることから、検証班もお手上げ状態のようだ。
そもそも、ダンジョンの中をいくら撮影したところで、身バレに繋がる情報は得られないため、いまではダンジョンの構造や魔物についての考察が主になっている。
テレビの方は、意外にも真面目に報道している。
社会に与える影響とか、現実にありえるのか有識者たちに回答を求めていた。
「壮大なペテンですよ」ととある経済学者が言い放ち、それに追随する人が現れたが、科学者や生物学者などは逆に「実際に見ないことには判断できない」と慎重な姿勢を崩していない。
常に結論を出すことを仕事にしている解説者と、研究の結果、結論が出ることもある研究者では、アプローチの仕方が違うのかもしれない。
最初の頃は「こんな面白い動画がありました」という扱いだったが、しだいに「これは果たして本当なのでしょうか」という扱いに変わり、いまでは「世間が注目しています。詳しい情報を受け付けています」と煽っているようにも見える。
ダンジョンを否定的、もしくは肯定的に捉えるテレビ局が出てきたことで、一般の人への認知度も上がってきた感じだ。
「マスコミは報道倫理など持ち合わせていないから、相手にしない方がいいぞ」とは玲央先輩の弁。
週刊誌にしろ、テレビ局にしろ、鬼参総合病院についていろいろ書かれた経緯は忘れていないようだ。
たとえ両親や親族に問題があろうとも、マスコミで嫌な思いをしたことは事実であり、玲央先輩はマスコミを基本、信じていない。
「まあ、取材を受けるつもりもないですからね。……そういえば、クラスでもかなり話題になっていますよ」
受験を控えた高校3年とはいえ、ダンジョン動画はかなりキャッチーな話題だったようで、「実際にあったらどうする?」などと真剣に話し合っているクラスメイトがいた。
知らんぷりしながら聞いていたが、結構的外れな考察をしたり、陰謀論を信じていたりと、なかなかに楽しい。
そんな外野の反応はより激しさを増しているわけだが、俺たちは粛々とダンジョンに入り、レベルを上げることにした。
~ある日の夕闇家~
孫一が仲間と一緒にダンジョンに入っているときのことである。
家の電話が鳴った。
「はい、もしもし」
ちょうど近くにいたため、蓮吹流が電話に出た。
『――母さんっ!』
「おやっ、場須十羅かい? あんた、いまアメリカだろ? 元気だったかい?」
『何を呑気な……それより母さん、孫一をダンジョンに入れたな!』
「さあ、どうだったかねえ……」
『米国で大々的に報道されたんだ』
「おやっ、そうなのかい? 少女のこと? それともダンジョン動画のことかい?」
『両方だ。……アレだって半分だが、私たちの血を引いてるんだぞ』
「そうだねえ。孫一は、地球人と異世界人のハーフだねえ」
『それなのに母さんは、私にしたように孫一をっ!』
「ちょいと落ち着きなさいよ。……あんたのときは、同意を得なかったからねえ。こうまで親子関係がこじれるとは思わなかったよ」
ちゃんと同意は得ているよと、蓮吹流は告げる。
『あんな姿を見せられて……ちょっ、もしかしてもう?』
「さあ、まだだろうねえ。個人差があるし……まあ、あたしの孫だ。なるようになるさ」
電話の向こうから、場須十羅の怒鳴り声が聞こえてきた。
『孫一は平穏な人生を送らせる。そう育てると言ったはずだ』
「それだけどね、あたしはどうかと思うんだよねえ」
『母さんっ!!』
「それに大方、孫一の電話番号を知らないから、家にかけてきたんだろう? 絹恵さんには話せないし」
『それが何か?』
「あんたが突然、孫一と話したって、喧嘩別れになるだけだよ。話したいなら、もっと落ち着かなきゃ」
『…………』
思い当たる節があるのか、場須十羅は押し黙った。
そもそもダンジョン動画は世界を席巻し、そのせいで場須十羅の知るところとなったのだ。
ここに来ていまさら「何もありませんでした」とはできない。
そして国際電話で息子を説得できるとも思えなかった。
そう思い至れるくらいには、場須十羅も冷静だった。
「もう賽は投げられたのさ。日本のことは、あたしに任せときなさい。悪いようにはしないから」
『だから、それが一番心配なん……』
蓮吹流は「やれやれ」と言いながら電話を切った。
「男女比」の方にも書きましたが、確定申告のもろもろが終わりました。
これで日常が戻ってきます。
それでは引き続きよろしくお願いします。




