050 動画の公開
商品紹介をメインに活動している『かるちゃん』さんには、多くのファンがついている。
彼の話は分かりやすく、視聴者が知りたいことを的確に伝えてくれる。
そんな彼のチャンネルに衝撃が走った。
かるちゃんが、DDチャンネルとコラボしたのだ。
その衝撃は、相当なものだった。
商品紹介といえば、企業案件がときどきやってくる。
かるちゃんはしっかりと「○○様から贈っていただきました」と伝えたあと、しっかりとした品評を行っているのだ。
たとえ金を積まれたとしても、駄目なものは駄目と言いきる姿勢が評価されていた。
それが、コラボとしてダンジョン探索動画をアップロードしたのだ。
「どーも、かるちゃんです。今回は少し毛色が違うので、みんな戸惑っちゃったかな? でも紹介動画としての基本は押さえるつもりなので、普段と変わらないからよろしくね」
そんな紹介で始まったダンジョン探索動画だが、のっけから飛ばしていた。
「これね、魔法です。一瞬で移動したんですよ。瞬間移動ですよ。私はね、一歩も動いていません。目も瞑っていません。時間も経っていません。私の周囲だけが一瞬で切り替わったんです。これが魔法でなければ、何が魔法だと言うんでしょう」
CGでも、演出でもないことを最初に告げたのである。
「ダンジョンの中はですね……少し暖かいでしょうか。出てくるのは魔物と言って、私たちを殺そうとしてくるらしいです。今回は巨人ばかりが出てくるダンジョンみたいで、かなり楽しみなんですけど」
声は後録りのようで、当時の状況を事細かに説明していく。
さすが商品紹介に慣れているDoTuberである。
視聴者が知りたいところをうまく説明している。
「来ました。あれはですね、双頭鬼という魔物らしいです。この名前なんですけど、彼らが魔物の外見や特徴から名付けているんですね。というのも、共通の名前がないと、後で困ることになるからと言うんです」
戦闘をしている俺たちの姿を映しつつ、一つずつ解説を入れていく。
動画は進み、ついに宝箱のシーンになった。
「この宝箱ですが、ダンジョンの中に勝手に出現するようです。中には素材やポーション、武器や防具なんかが入っているみたいです。今回は何が入っているでしょうね。ちなみに宝箱はダンジョンに固定されているので、動かせません」
かるちゃんさんが必死に持ち上げようとしている姿が映っている。これはミニ三脚で固定撮影したものだ。
そして宝箱の中からポーションが出てくる。
「みなさん、見ました? これがポーションなんです。宝箱の中にはこういったものが入っているんですね」
そして喉が嗄れるのではと思うほど、動画が流れている間は喋り続け、ついにレベルアップのときがきた。
「みなさん、このとき身体に電流が走ったんですよ。レベルアップです。レベルアップですよ! 私はレベルアップしたんです。人として、一段高みに登ったのでしょうかね。身体能力とか上がったらしいんですけど、レベルが1上がっただけではあまり実感はないようなんです。DDチャンネルのお三方は、高レベルみたいで、目で追えない速度で動くし、どうやっても勝てないだろと思われる魔物の首を斬り飛ばしたりできます。私もそこまで強くなってみたいですね」
ダンジョン探索が終わり、かるちゃんさんの自撮り動画になった。
「みなさんに朗報があります。じつは、DDチャンネルさんから話していいといわれたので言いますけど、実はこのダンジョン。みなさんにも体験してもらえるよう、準備を進めているようなんです。すごいですよね。だから待っていれば、この動画をご覧になっている視聴者のみなさんも、ここに来ることができるんです。魔物を倒したり、宝箱を開けたり、レベルアップできるんですね。すごいことですよね」
いま俺たちはその準備をしているので、ゆっくり待っていてほしいと動画は締めくくられていた。
かるちゃんさんに遅れること半日、ゆうじさんもコラボ動画を公開した。
というのも、かるちゃんさんと一緒にゆうじさんが映っているのである。
ゆうじちゃんねるさんのチャンネルに、「いつコラボ動画を出すのか」と問い合せが殺到したらしい。
ゆうじさんは普段、ロケをしていないため、コラボしたのが視聴者にとって驚きだったようだ。
そのゆうじさんだが、動画の内容はかるちゃんさんとほぼ同じようなもの。
一緒にダンジョン探索したのだから、それは当然。
だが、ゆうじさんは、かるちゃんさんと違うところがひとつだけあった。
「この宝箱から出たポーションなんですが、かるちゃんさんと話し合った結果、私がもらうことになりました。かるちゃんさんは、その分、魔石を多くもらうことで合意した感じです」
ゆうじちゃんねるさんは、動画の中でポーションを振っている。
「これ、開けるとほぼ1日で中身の効果が消えるらしいんです。というわけで、未開封のまま置いてあります」
テーブルの上にポーションが飾られている。
「ですが、このまま家に置いておくと、盗まれる……どころか、強盗に入られることも考えられますので、このポーションは使うことにしました。この動画がみなさんの元に届く頃には、もうポーションは手元にありません」
その後、ダンジョンで手に入れたものを快くすべて譲ってくれたDDチャンネルに感謝の言葉を添えて、動画は終わっていた。




