049 宝箱とレベルアップ
俺たちの目の前には、ミカン箱程度の大きさの木箱がある。
「これが宝箱ですか」
「ええ、そうです」
「一見すると、どこにでもある木箱ですね」
「そうですね。持ち上げてみてください」
「持ち上げるのですか? じゃあ、私が……ふんぐ~~」
かるちゃんさんが持ち上げようとするが、木箱はピクリとも動かない。
横にずらすことも不可能で、かるちゃんさんは諦めた。
「というわけで、ダンジョンの宝箱は、その場から動かすことができないのです。それと先に言っておくと、中に入っているアイテムを取り出した直後、木箱は黒いもやとなって消えてしまいます」
「……ということは、これもダンジョンの一部というわけですか」
「魔物やダンジョンから採取できる素材と同じ扱いみたいですね。ということで、だれが開けます?」
かるちゃんさんとゆうじさんが目を見交わしあい、ゆうじさんが「それでは私が」と木箱に近づいた。
「これ、罠とかは?」
「ありません」
ゆうじさんが木箱の蓋を開け、中のアイテム――陶器製の小瓶を取り出した。
「おめでとうございます、ポーションですね」
「これがポーションですか?」
「ええ、手で握って集中すると頭の中にポーションの名前が浮かんできませんか?」
「やってみます……『癒やしの水』って言葉が浮かんできました」
「当たりですね。飲めば、外傷をその場で塞いでくれます。ただし、ここは難易度の低いダンジョンですから、効果はお察しですけど」
「……ど、どのくらいの傷を癒やしてくれるんですか?」
「ざっくり切った程度なら、塞がりますよ。捻挫も一瞬で治ります。骨折は無理ですかね。まあ、その程度です」
「その程度……と言うんですか?」
「あっ、これは最低級のポーションなんですけど、古傷も治りますよ」
「古傷もっ!?」
「古傷も治ります。もっと効果の高いポーションは、ここより難易度の高いダンジョンで手に入ります。それこそ、失った腕を再生するくらいのものが……手に入りますね」
「……ッ!!」
難易度の高いダンジョンならば、そういったポーションが手に入る。
「ダンジョンには、夢が詰まっていますね。自分の常識が崩壊しましたけど」
かるちゃんさんが、ハハッと乾いた笑いをもらす。
「そこまで夢のあるものでもないと思いますよ。地球では手に入らないものばかりですけど、難易度の高いダンジョンは危険がいっぱいですから、労力に見合うかどうかは分かりません」
「えっと……いまの言い方ですと、ここは地球ではないことになりますけど?」
「どうなんでしょうね。俺は違うんじゃないかと思っています」
倒すともやとなって消える魔物は、地球上のどこを探してもいない。
見たことも聞いたこともない。それゆえ、俺の言葉に2人は「そうですよね」と納得していた。
その後も探索を続け、一つ目の巨人を倒したところで、かるちゃんさんとゆうじさんが、「うわっ!?」と声をあげた。
「痺れた」
「身体に電流がはしったんですけど、いまのは……?」
「おめでとうございます。レベルアップですね」
「……レベルアップ? レベルがあるんですか?」
「ええ、身体能力が上がったと思いますよ」
「まさか……一緒にダンジョンにいただけでですか? 俺たち、戦ってないですよ」
「ダンジョンにいると、均等に経験値が入るんです。パワーレベリングし放題ですよね」
「そんなことが……」
「あるんです。というわけで、レベル2おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
レベルアップと言われても実感がわかないようだ。
もちろん、身体能力が劇的に上がるわけではないので、真面目に筋トレした方が効果は実感できるだろう。
だが、それとは別に、ただ一緒にダンジョンを歩いているだけで身体能力が上がったことが、二人にとって衝撃的だったようだ。
その後、俺たちが弱らせた魔物を二人でボコったりして、コラボは終わった。
「「ありがとうございました!」」
小金井公園に戻ってきた。
玲央先輩と勇三がその場を離れる。ここを注視している人がいないか、確認しているのだ。
どうやら問題なかったらしく、すぐに2人は戻ってきた。
「一応、動画はアップロードする前にチェックさせてください」
「はい。顔出しNGと声の変更ですよね」
「ええ。それと、もしかすると政府から人がやってくるかもしれません」
「……政府からですか?」
俺は、内閣参事官を名乗る人が、ブラックキャップさんに接触してきたことを告げた。
「悪いことはしていませんので、できれば俺たちの情報は流さないでほしいと思います。もう少ししたら……いまは準備が整っていないので無理ですが、大勢の人にあのダンジョンを公開します」
「なるほど……それも動画で伝えていいですか?」
「そうですね……いいです。こっちの準備が終わるまでなにもできませんが、俺たちが動画をあげているのも、そういったことを告知するためでもありますし」
「なるほど。でしたらぜひ告知させてください」
「それともし、お手伝いできることがあったら、いくらでも言ってください。すぐにかけつけます」
「はい。これからもよろしくお願いします」
こうして俺たちは、2回目のコラボも無事終わらせることができた。
かるちゃんさんだけでなく、ゆうじさんもこのまま地元にとんぼ返りするという。
かなり強行軍になるが、少しでも早く、視聴者にこの映像を届けたいそうだ。




