005 反省会
父はいま、海外へ単身赴任中である。
一、二年で帰ってくるのが分かっているので、祖母はその間に、スキルをすべて俺たちに伝授したいらしい。
なぜと聞いたら、「せっかくあるんだから、使い切らないともったいないだろ」と言われた。
異世界のスキルなのに、商店街の福引きみたいな扱いは、どうなのだろうか。
ちなみに祖母のスキルは、☆の多い順に以下の感じ。
〈転移☆7〉〈スキル伝授☆6〉〈ダンジョン生成☆4〉〈魔力増大☆3〉〈閃刃☆2〉〈調合☆2〉〈身体強化☆1〉〈火弾☆1〉
☆の数がレア度に直結していると見てよさそうだ。
この〈魔力増大☆3〉スキルは、なんとか異世界へ転移できないかと思って、試行錯誤している1年間の間に取得したらしい。
スキル構成に偏ったところがないのが、なんともリアル。物理、魔法、支援をそれぞれ取得している感じだ。
ゲームのキャラクターなら、こんな中途半端な構成にはしない。
祖母からスキルの話を聞くのは面白い。
ゲームでもよく出てくる〈火球〉なら、☆1から☆3までのレア度があるらしい。
☆3の〈火球〉は強力だが、習得できるのはレベル15から。
☆3の魔法スキルはもっと強力なものがあるため、その頃になるといらない子となっているようだ。
戦闘系の魔法スキルが安いのも、そのへんに理由があるのかもしれない。
〈ダンジョン生成〉は☆4から☆8まで存在する。
☆7と☆8の〈ダンジョン生成〉スキルは、はっきり言って別格らしく、祖母の世界でも持っている人はほとんどいないという。
俺が気になっている〈転移〉だが、転移系のスキルは☆6から☆10まで存在するらしい。
高レアなスキルなため、メジャーなわりに所持している人は少ないという。
所持していても、信頼している仲間以外に明かさないのだとか。
☆6の〈転移〉だと、スキルを覚えたあとに行った場所へしか転移できない。
☆7だとその制限はない。記憶にあるところへなら、どこへでも転移できるらしい。
祖母の場合、写真と牟呂昇と言う人の話を頼りにたどり着いたわけだが、そう聞くとなんだかすごいことを成し遂げたようにも思う。
☆8の〈転移〉だと複数人の転移が可能で、☆9で人数増加。
☆10になると大人数の転移が可能となるとか。☆10の〈転移〉スキルなんか持っていたら、戦争が捗るだろう。
そして〈スキル伝授☆6〉だが、これは「☆4までのスキルを任意の相手に伝授できる」スキルだ。
つまり祖母が持っている☆1から☆4までのスキルなら伝授可能。とてつもないスキルだと思う。
もちろん無限に伝授できるわけではなく、人数制限がある。
祖母の場合、残りはあと5人。
レベル5ごとに、伝授できる人数が一人ずつ増えるらしいので、祖母がレベル65になったら、あと1人増える。
「子育てしながらもコツコツレベルあげして、ようやくレベル63になったんだよ。スキル枠はあと4空いているんだけどねえ。何かいいのがあったらあたしが覚えて、あんたたちに伝授してあげようかねえ」
祖母は、そんなことを言っていた。
もっとも俺たちだってレベルを上げないと、たくさんのスキルを覚えられないのだが。
「おかえり」
ダンジョンから出たら、祖母が出迎えてくれた。
祖母の造るダンジョンは、床に魔法陣を出現させて行くことができる。
帰りも同じ場所に出るのだが、実は指定した場所へ帰還させることもできる。
たとえば居間からダンジョンに向かい、出口を庭にするというのも可能だ。
汚れた状態で戻ってくるので、そういう仕様は便利だと思う。
「御祖母様、ようやくレベルが上がりました」
「ほう。それじゃあと一つでレベル5かね」
「そうなります。日々、ダンジョンに入るのが楽しみになって困ります」
先輩は嬉しそうだ。
「いいペースだけど、休みが少ないんじゃないかい?」
「なるほど、休みですか。そういえば、考えたことありませんでした」
「毎回、今日は行けるかと、自分の心と身体に問いかけなさい。無理はしていないかってね。自分のことは自分しか分からないのだから、人のせいにはできないよ」
「なるほど、至言です」
祖母と先輩がにこやかに話をしている。
なぜか二人とも、よく話が合う。精神年齢が近いのだろうか。
「それで何か、困ったことはないかい?」
「いえ、特には……ただ少し汗臭いようで、家族から不審な目で見られている気がします」
運動部員でもない娘が毎日、汗臭くなって帰ってくれば、心配もするだろう。
先輩の家は、東京の杉並区にある。
国分寺市にあるわが家からだと、帰りも遅くなるし、いろいろ不便だろう。
「先輩、シャワーを浴びてから帰ります?」
「キヨさんが心配すると思う。それに家族が知ったら、絶対に干渉してくる」
キヨさんというのは、先輩の家の家政婦さん。支倉キヨという、やさしそうなおばあさんだ。
昨年の学園祭にきて、「玲央お嬢様、玲央お嬢様」と連呼していたのを覚えている。
そして先輩の家は、完全な放任主義。だからといって、関心が薄いわけではない。
夜遅く帰宅した娘が、風呂上がりのいい匂いをさせていたら、どこで何をしていたか問い詰めるくらいのことはしそうだ。
先輩から聞く家族の話では、とくにそういうところに敏感そうだ。
「とりあえず今日はもう遅いですし、解散しましょう」
「そうだな。明日の昼休み、いつもの部室で反省会だ」
「はい、分かりました」
本日は解散となった。
翌日の昼休み。部室に全員が揃った。といっても3人だが。
順にステータス測定棒を使ってみた。
鬼参玲央:レベル4、生命値10、技能値21(総合値:31)
夕闇孫一:レベル4、生命値21、技能値11(総合値:32)
座倉勇三:レベル4、生命値16、技能値16(総合値:32)
レベルアップ時にステータスの合計値が1から4の間で上がるらしい。
今回、レベル4になったことで、3人の総合値がほぼ揃った。
ステータスの生命値だが、これは筋力や耐久力、スタミナなど、身体能力に関するものを数値化したもので、ゲームによくあるヒットポイントとは違う。
怪我をしても減ることはないし、ゼロになったら死ぬという意味でもない。
というか、減らない。
「スポーツの記録とかあるだろ。あれと同じだねえ」
とは祖母の弁。
短距離走や長距離走の記録、大会の優勝履歴のようなもの。
どこまでできるかを数値で表しただけなので、参考程度に考えればいいらしい。
技能値は、スキルの威力や持続力、使用回数を数値化したもので、これもマジックポイントなどとは違う。
ウェブ小説などによくある「使った分だけ数値が上昇する」とか、「使いすぎたら気絶する」などもない。
そもそも減らない。
総合値は自分たちで計算したものだ。生命値と技能値を足しただけ。
女性は男性に比べて生命値が低い傾向があるという。
本来ならば、先輩はあと2から3ほど、総合値が度低くなってもおかしくないらしい。
つまり先輩は、一般女子より能力が勝っており、男性とほぼ変わらない能力を有していることになる。
こうして数値で出されると納得だ。
「では反省会といこう」
昼休み、各人の胸に装着したアクションカメラで、ダンジョン探索の様子をチェックする。
これは先輩の発案だ。
ある日、「他人から自分の行動がどう見えているのか、確認する必要があると思う」と言い出した。
反省会をするのに記録映像があった方がいいし、自分の動きを客観的に把握するには、ビデオ撮影が最善という結論に至った。
そこで各自、アクションカメラを購入し、ダンジョン探索には必ずつけていくことにした。
「やっぱり、オレだけが飛び出しちゃってるかあ。二人が全然映ってねえ」
勇三が頭を抱えている。
前回の反省点で、敵を見つけてもすぐに近寄るなと言ったばかりだが、それが守られていない。
混戦になったとき、勇三だけが離れてしまっている。
「いまはまだソロで倒せる敵ばかりだが、バラバラになってしまっては、今後厳しいな」
「突出されると、魔法スキルを覚えても、敵に使えませんしね」
「面目ねえ……」
レベル5になったら、先輩が〈火弾☆1〉、俺と勇三が〈身体強化☆1〉を覚えることになっている。
ダンジョン探索は、レベル5を超えてからが本番となる。
スキルを覚えることによって、役割分担が可能となるのである。
「反省点は次回に活かそう。それで一つ、提案があるのだが」
先輩が、真面目な顔で、俺たちを見回した。