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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第二章 商売をはじめるようです
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047 政府

 日曜日のコラボは楽しみだ。

 だが、人を引率するには、俺たちはまだまだ弱い。


 普段より難易度の低いダンジョンしか入ることができない。


 いまはB1ダンジョンに入っている。

 Bクラスのダンジョンになると、出てくる魔物も見た目から変わってくる。この辺を余裕でいなせるようになるには、あとどのくらいレベルを上げなければならないのだろう。


「飛ぶムカデってなんだよ!」

「いいから、迎撃しろ!」


「分かってっけど、キモいんだよ」

 勇三が嘆いているが、それも仕方ない。


 体長2メートルほどのムカデが、空を泳ぐようにしてやってくるのだ。

 動きは遅いし、牙にさえ気をつければなんとかなる。


 なんとかなるのだが……なんというか、嫌悪感がものすごい。

 一度相対するだけで、テンションがだだ下がりとなる。


「巨大なムカデがウネウネ動くのは厳しいね」

「マジ勘弁してほしいぜ。もう帰りてぇー」


 勇三は先ほどから及び腰だ。

 それを見かねた玲央先輩から叱責が飛ぶ。


「さっきの光る羽虫より戦いやすいだろ、グダグダ言うな」

「へーい」


 この空飛ぶムカデは毒を持つ。噛まれるとやっかいな相手だ。

 玲央先輩の言う光る羽虫だが、あれは近づくと強烈に発光するため、近接殺しとなる。


 視界を奪われ、戦いにくいことこの上ない。しかも胴体が針金のように細くて、なかなか攻撃が当たらない。

 俺としては、「どっちもヤダ」だ。


 レベルが上がって、少々のことでは命の危険は感じないものの、Bランクダンジョンだと、こうも戦いにくいのかと嫌になる。

 少なくとも、レベル1の素人は連れてこられない。


「次来たぞ」

「帰りてえー!」


 勇三が嘆きつつ剣を振るう。もちろん俺も援護に向かう。

 なんだかんだと言いつつ、勇三は前で戦う。


「……ふう、連続でやってきたな」

「たまにありますよね、こういうの」


 連戦は判断力が奪われるので嫌なのだが、その甲斐あって、つい先ほどレベルが14にあがった。

 3つ目のスキルを覚えるまで、あとひとつだ。


「どうします? 結構疲れましたし、今日はこのくらいで戻りましょうか」

「そうだな。Bダンジョンに入ったことで、魔石も一回り大きくなったし、早くここを安定して狩れるようになりたいな」


 いまのレベルだと、3人でBダンジョンはややキツイ。


「そうするとやっぱり人数ですかね。B3あたりから魔物も複数があたり前に出てくるようですし」

「牟呂家の彼が入っても4人か」


 そう。それでもまだ、あと一人足らないのだ。

 いっそのこと茂助さんをもう一度説得……などと思いながら帰還すると、茂助さんが家に来ていた。


「どうしました?」

「報告があるでござる」


 メッセージだけでいいのに、茂助さんがわざわざやってきたことに、不安が頭をよぎる。

「何かありましたか?」


「さきほど、ブラックキャップ氏より連絡がきて、どうやら彼のもとに内閣(ないかく)参事官(さんじかん)を名乗る者が来たようでござる」


「なんですか、そのさんじかんさんって?」

「内閣府の事務職ですな。企業の課長職あたりでござろうか。それなりの人物でござる」


「その人がブラックキャップさんのところに?」

「どうやらダンジョンについて、詳しく知りたかったようでござる」


 内閣参事官というのは、役人の中でもそれなりに偉い人のようだ。

「ブラックキャップさんのところへ、なぜそんな人が?」


「病院から連絡先を聞いたようでござる。最終的には、ダンジョンと拙者たちのことを知りたがったらしいでござる」


「国の偉い人が俺たちを……? ダンジョンは……でも、まだ半信半疑の人も大勢いますよね」


「そうでござる。こんな早く政府が動く必要がないでござる。ブラックキャップ氏は追い返したと言っていたでござるが、近いうちにここへやってくる可能性が高いでござる」


「マジですか……」

 ブラックキャップさんとは、守秘義務契約を結んでいる。


 だが相手が警察や政府関係者ならば、その限りではないだろう。

 今回は追い返したらしいけど、それがそのまま続けられるとは限らない。


 日本政府相手に、俺達の情報を守りきれるとは思えないのだ。


「たしかに腑に落ちないな。三流週刊誌がすっぱ抜くことはあっても、それより早く政府が動く……のか?」

 玲央先輩も悩んでいる。


 俺も同じ気分だ。ネット経由でバレる可能性は考えていた。

 動画をアップしているし、いつかその時が来るだろうと。


 だがまだ、半信半疑の人も多いのだ。

「あっ! 東海林(しょうじ)さん!」


 ブラックキャップさんのところへ行ったならば、東海林さんのところへ行ってもおかしくない。

 メッセージを送るか? いや、これは電話の方がいい。俺はすぐに電話をかけた。


『政府の人ですか? 何回か来ましたよ。でも知らない、顔も覚えていないっていったら、帰っていきましたけど……それっきりです』


「……東海林さんの方にも、接触があったみたいです」

 東海林さんのところには警察と公安、そして政府関係者も来ていた。内閣官房長官直属の人らしい。


 ただ俺と東海林さんの接触は偶然だと思われているらしく……というか、偶然なのだが。

 それ以後の接触はないと思われたようだ。


「ブラックキャップ氏から気をつけるよう、言われたでござる」

 その後、俺たちは政府の意図について話し合い、問題点を整理した。


「ダンジョンについては、もうどうしようもない。ダメと言われたら従うし、検証するように言われたら、専門家を派遣してもらうことで納得してもらおう。問題は……」


「なぜ、ダンジョンが造れるかですよね」

「そうだ。御祖母様は何と言っている?」


「面倒は嫌だと」

「当然だな」


 そもそも表に出るつもりがあるならば、何十年間も秘匿していない。

〈ダンジョン生成〉スキルだけで、億万長者になれるのだ。


「御祖母様が登場しないストーリーを用意するのはどうだろう?」

「祖母が関係しない物語を創作するんですか?」


「そうだ。今後、異世界のアイテムも持ってくる必要だってある」

「採取道具なんかはそうですね」


 あれは俺たちだけでは用意できない。


「つまり、〈転移〉を使える異世界人が別にいて、気まぐれに協力してくれた……どうだ?」

 なるほど、玲央先輩の話は案外いいかもしれない。なにしろ、向こうは検証することができないのだから。


「本人はいつやってくるか分からない。だから会いたいときに会えないというやつだな」

 勇三も乗り気だ。


「カメラを渡して、異世界の写真を撮ってもらえば、信憑性が増しますね」

 一通りの協力が終わったので、最近はこっちにやってきていないと言えばいい。


「おもしれーじゃねーの?」

「いい案でござる。拙者、その方向で少し考えてみるでござる」


 みんなが帰ったあと、祖母に聞いたら「あたしは楽してのんびり生きたいねえ。そういう面倒なのは、ごめんだよ」と前と同じことを言っていた。


 うん、祖母はそういう人なので、驚きはない。

 どうやら、祖母が登場しない何らかの物語を考える必要がありそうだ。



『ダンジョン商売』を読んで、どのような感想を抱いたのか。

お待ちしています。(結構マジで)

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― 新着の感想 ―
[一言] 設定はなかなかおもしろいと思うし今後に期待できますが、キャラクターが薄い様に感じています。
[良い点] とても面白いです。 [一言] 交通事故から助けた子が4人目になると思ってたのですが残念。 パティシエの男性は本業があるというのもそうですが、キャラが弱いなと思いました。縁故採用の域を出なさ…
[良い点] 一歩ずつ状況を固めようとしているところ。 ただあんまり細かくしすぎると話が進まなくなってしまうのが悩みどころです。 この手の現代ダンジョンものって、主人公サイドが隔絶した能力や取得物で他を…
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