047 政府
日曜日のコラボは楽しみだ。
だが、人を引率するには、俺たちはまだまだ弱い。
普段より難易度の低いダンジョンしか入ることができない。
いまはB1ダンジョンに入っている。
Bクラスのダンジョンになると、出てくる魔物も見た目から変わってくる。この辺を余裕でいなせるようになるには、あとどのくらいレベルを上げなければならないのだろう。
「飛ぶムカデってなんだよ!」
「いいから、迎撃しろ!」
「分かってっけど、キモいんだよ」
勇三が嘆いているが、それも仕方ない。
体長2メートルほどのムカデが、空を泳ぐようにしてやってくるのだ。
動きは遅いし、牙にさえ気をつければなんとかなる。
なんとかなるのだが……なんというか、嫌悪感がものすごい。
一度相対するだけで、テンションがだだ下がりとなる。
「巨大なムカデがウネウネ動くのは厳しいね」
「マジ勘弁してほしいぜ。もう帰りてぇー」
勇三は先ほどから及び腰だ。
それを見かねた玲央先輩から叱責が飛ぶ。
「さっきの光る羽虫より戦いやすいだろ、グダグダ言うな」
「へーい」
この空飛ぶムカデは毒を持つ。噛まれるとやっかいな相手だ。
玲央先輩の言う光る羽虫だが、あれは近づくと強烈に発光するため、近接殺しとなる。
視界を奪われ、戦いにくいことこの上ない。しかも胴体が針金のように細くて、なかなか攻撃が当たらない。
俺としては、「どっちもヤダ」だ。
レベルが上がって、少々のことでは命の危険は感じないものの、Bランクダンジョンだと、こうも戦いにくいのかと嫌になる。
少なくとも、レベル1の素人は連れてこられない。
「次来たぞ」
「帰りてえー!」
勇三が嘆きつつ剣を振るう。もちろん俺も援護に向かう。
なんだかんだと言いつつ、勇三は前で戦う。
「……ふう、連続でやってきたな」
「たまにありますよね、こういうの」
連戦は判断力が奪われるので嫌なのだが、その甲斐あって、つい先ほどレベルが14にあがった。
3つ目のスキルを覚えるまで、あとひとつだ。
「どうします? 結構疲れましたし、今日はこのくらいで戻りましょうか」
「そうだな。Bダンジョンに入ったことで、魔石も一回り大きくなったし、早くここを安定して狩れるようになりたいな」
いまのレベルだと、3人でBダンジョンはややキツイ。
「そうするとやっぱり人数ですかね。B3あたりから魔物も複数があたり前に出てくるようですし」
「牟呂家の彼が入っても4人か」
そう。それでもまだ、あと一人足らないのだ。
いっそのこと茂助さんをもう一度説得……などと思いながら帰還すると、茂助さんが家に来ていた。
「どうしました?」
「報告があるでござる」
メッセージだけでいいのに、茂助さんがわざわざやってきたことに、不安が頭をよぎる。
「何かありましたか?」
「さきほど、ブラックキャップ氏より連絡がきて、どうやら彼のもとに内閣参事官を名乗る者が来たようでござる」
「なんですか、そのさんじかんさんって?」
「内閣府の事務職ですな。企業の課長職あたりでござろうか。それなりの人物でござる」
「その人がブラックキャップさんのところに?」
「どうやらダンジョンについて、詳しく知りたかったようでござる」
内閣参事官というのは、役人の中でもそれなりに偉い人のようだ。
「ブラックキャップさんのところへ、なぜそんな人が?」
「病院から連絡先を聞いたようでござる。最終的には、ダンジョンと拙者たちのことを知りたがったらしいでござる」
「国の偉い人が俺たちを……? ダンジョンは……でも、まだ半信半疑の人も大勢いますよね」
「そうでござる。こんな早く政府が動く必要がないでござる。ブラックキャップ氏は追い返したと言っていたでござるが、近いうちにここへやってくる可能性が高いでござる」
「マジですか……」
ブラックキャップさんとは、守秘義務契約を結んでいる。
だが相手が警察や政府関係者ならば、その限りではないだろう。
今回は追い返したらしいけど、それがそのまま続けられるとは限らない。
日本政府相手に、俺達の情報を守りきれるとは思えないのだ。
「たしかに腑に落ちないな。三流週刊誌がすっぱ抜くことはあっても、それより早く政府が動く……のか?」
玲央先輩も悩んでいる。
俺も同じ気分だ。ネット経由でバレる可能性は考えていた。
動画をアップしているし、いつかその時が来るだろうと。
だがまだ、半信半疑の人も多いのだ。
「あっ! 東海林さん!」
ブラックキャップさんのところへ行ったならば、東海林さんのところへ行ってもおかしくない。
メッセージを送るか? いや、これは電話の方がいい。俺はすぐに電話をかけた。
『政府の人ですか? 何回か来ましたよ。でも知らない、顔も覚えていないっていったら、帰っていきましたけど……それっきりです』
「……東海林さんの方にも、接触があったみたいです」
東海林さんのところには警察と公安、そして政府関係者も来ていた。内閣官房長官直属の人らしい。
ただ俺と東海林さんの接触は偶然だと思われているらしく……というか、偶然なのだが。
それ以後の接触はないと思われたようだ。
「ブラックキャップ氏から気をつけるよう、言われたでござる」
その後、俺たちは政府の意図について話し合い、問題点を整理した。
「ダンジョンについては、もうどうしようもない。ダメと言われたら従うし、検証するように言われたら、専門家を派遣してもらうことで納得してもらおう。問題は……」
「なぜ、ダンジョンが造れるかですよね」
「そうだ。御祖母様は何と言っている?」
「面倒は嫌だと」
「当然だな」
そもそも表に出るつもりがあるならば、何十年間も秘匿していない。
〈ダンジョン生成〉スキルだけで、億万長者になれるのだ。
「御祖母様が登場しないストーリーを用意するのはどうだろう?」
「祖母が関係しない物語を創作するんですか?」
「そうだ。今後、異世界のアイテムも持ってくる必要だってある」
「採取道具なんかはそうですね」
あれは俺たちだけでは用意できない。
「つまり、〈転移〉を使える異世界人が別にいて、気まぐれに協力してくれた……どうだ?」
なるほど、玲央先輩の話は案外いいかもしれない。なにしろ、向こうは検証することができないのだから。
「本人はいつやってくるか分からない。だから会いたいときに会えないというやつだな」
勇三も乗り気だ。
「カメラを渡して、異世界の写真を撮ってもらえば、信憑性が増しますね」
一通りの協力が終わったので、最近はこっちにやってきていないと言えばいい。
「おもしれーじゃねーの?」
「いい案でござる。拙者、その方向で少し考えてみるでござる」
みんなが帰ったあと、祖母に聞いたら「あたしは楽してのんびり生きたいねえ。そういう面倒なのは、ごめんだよ」と前と同じことを言っていた。
うん、祖母はそういう人なので、驚きはない。
どうやら、祖母が登場しない何らかの物語を考える必要がありそうだ。
『ダンジョン商売』を読んで、どのような感想を抱いたのか。
お待ちしています。(結構マジで)




