044 必要なもの(2)
1日5万人を入れる施設に必要なもの。
考えてみると、結構難しい。
「まず大きな部屋ですね。魔法陣を設置するスペースが必要です。雨天を考えて屋内が望ましいでしょう。いまもダンジョンに入る前に着替えていますから、更衣室が必要ですね」
「なるほど、たしかに更衣室は絶対に必要だな。それと貴重品を入れるロッカーも」
「そうですね。市営プールの更衣室みたいなのですかね」
「うむ、いい感じだ。ほかに何が必要だ? どんどん考えてみてくれ」
「ダンジョンは同一のものしか生成できませんから、行きたいダンジョンも違うでしょうし、控室みたいなところで待機してもらう感じでしょうか」
ダンジョンの行き先ごとに控室か。いったいどれだけの規模になるのやら。
「ステータス棒も使えるようにしておかないとな」
「どこかに設置して、無料で使えるようにしておけばいいかな」
ダンジョンでの成長が数値として確認できないと、次のステップへ進む目安が分からない。
ステータス棒の設置は必須だろう。
「ダンジョンに入る部屋が必要なら、ダンジョンから出る部屋も必要だろ」
「そうだね。出る時間はバラバラだから、帰り専用の部屋も必要なのか」
「そうすれば、ダンジョンに入る部屋で次々と人を入れることができるしな」
入口と出口を完全に分けるのはいい手だ。
「あと何が必要だろ? ……駐車場か」
荷物を持ち込む人もいるだろうし、電車より車を利用しそうだ。
「相当広い駐車場が必要だぞ。それこそ何千台も置けるような」
「マジで?」
「だってみんな、長時間いるわけだろ?」
「……だよねえ」
「6時間くらいは平気で入ってるんじゃねーか? だったら、ダンジョンも24時間営業か?」
「会社帰りのサラリーマンとか来るかな?」
「来るだろうな」
「単純に空いている時間帯を狙って来るのもいるだろ」
「まあ、24時間営業のことはあとにして、あと必要なものは?」
「控室もさ、なんつうの? 野球のボックス席みたいに貸し切りにできるといいな」
「人が多いと、着替え終わったあとの合流で戸惑うしな。単純に男女に分けてロッカーで着替えるよりいいかも」
以前、勇三と花火大会を見に行ったとき、トイレの出口で待ち合わせたら、人混みでなか
なか見つけられなかったことがあった。
人混みは、侮れないのだ。
「レンタル制にして個別部屋を貸し出すのと、年間利用を見越した個別部屋とかあると金持ちはそっちへいくだろうな」
「なるほど、合同の控室だけでなく個別も……そうすると休憩室も必要か……って、どれだけ大きな施設を考えているのさ」
「ほら、どうせ仮の話だし。どんどん案を出していこうぜ」
「エントランスやロビー、それに受付も必要だよね」
「売店もあった方がいいな。菓子や飲み物が買えるような」
「レストランは和洋中華と揃えておくといい感じだね」
「酒の提供は……探索が終わったあとは、一杯やりたいんじゃねーの? よくわかんねえけど」
「そうだ、シャワー室もほしいかも」
先輩はいつも汗を気にしていた。
電車で来る人などは、汗を流してから帰りたいだろう。
「フィットネスジムにもシャワー室はあるしな、必要だと思うぜ。いっそのこと、風呂もつけるか。スパみたいなの」
「どんどん、話が大きくなっていく……」
「おうよ。いっそのことギルドでも作るか……いや、自然とギルドができるかもしれないな」
よくある異世界にただひとつあるギルドではなく、各人が集まって大きな集団をつくるギルドだ。
血盟に近いかもしれない。
「装備やアイテムを融通しあったり、情報交換するのに必要かもね」
ダンジョンは5人しか入れないので、都合のつかない人がでたとき、融通しあえる。
「ギルド部屋があってもいいな。あっ、これはさっきの年間契約の部屋で代用できるか」
「ギルド部屋の中にはシャワーと風呂、複数の小部屋をつけたり、金庫を設置したりもできるね」
「あとはそうだな……レストランとカプセルホテルみたいな簡易宿泊施設があってもいいな。売店もでっかいのが必要だし、武器防具はどうする?」
「異世界の持ち込んで売る?」
「アイテムとか魔道具とか売るなら、専用の売店が必要だな」
「ポーションとか、並べたそばから全部売れちゃう気がするけど」
「あー、転売屋みたいなのが出てくるか」
「外国に持っていけば、高く売れそうだしね」
「逆に買い取りカウンターとか?」
「こっちで買い取って、異世界で売るの? そうとう買い叩くことになるんじゃない?」
「そっかー」
とまあ、好き勝手なことを話していたら、東京ドームくらいのビルが必要になってしまった。
そもそも従業員をどうするとか、場所が確保できないだろうとか、一体いくらかかるんだと、あとになって現実の壁が押し寄せてきた。
「うむ、参考になった。あとで茂助くんにも教えておこう」
メモを取っていた玲央先輩だけがご満悦だった。




