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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
35/99

033 TVニュース

「……で、お前は逃げ出したと」

「いやまあ、そうかな?」


 翌日、すっかり片付いた『行列研究部』の部室で、俺はスマートフォンのニュース記事を読んでいる。


 勇三は呆れているのか、机にヒジをついたまま、動画投稿サイトを流し見している。

「検索したけど、いまの所それっぽいのは上がってないな」


 少女の周囲には五、六人の男女がいた。離れて様子を窺っていたのはもっと多かった。

 みなどうしていいか分からず、撮影している余裕もないようだった。


 悲惨な事故だ。

 すかさずカメラを向ける非常識な人はいなかったのだろう。


「顔は覚えられてないだろうし、大丈夫かな?」

「さあな……けど、ポーション瓶はそのままだろ?」


「あー……そうだったかも」

 持って帰った記憶はない。


「ダンジョン産だし、中身は一定時間で効果が消えるみたいだけどな」

「そうなの?」


「らしいぞ。開封したら時間で魔力が抜けるんじゃね? 知らないけど」

「なるほど……炭酸飲料と同じか」


 半分だけ飲んで、翌日、残りの半分を飲むことはできないらしい。

「腕を生やす薬と炭酸飲料を同列に扱うのはどうかと思うが、そんな感じだ。茂助せんぱいのフレーバーテキスト読んでないだろ」


「そういえば、まだ読んでないかな」

 茂助先輩が祖母に聞いたり、実際に確認したりしたものを解説文としてウェブ上のストレージに入れている。


 随時更新されているようだが、最近はあまり目を通していなかった。

「それはいいんだけどよ、右腕が二本になったらしいじゃん。どうするんだ?」


「どうしようか」

 少女の右腕は『癒しの超水』のおかげで生えてきた。


 だが、吹っ飛んだ右腕はそのまま。つまり右腕は二本あることになる。

 これはどうにも言い訳のしようがない。


「くっつけてから飲ませれば、まだ言い訳も立ったんだろうけどな」

「だよねえ」


 今朝、テレビのニュースで、昨日の事故のことを大々的に報道していた。

 さすがに証拠の右腕があるのだから、一部始終を見ていた人の言葉を疑えない。


「駆け寄った少年が懐から小瓶を取り出すと、被害女性に飲むように伝えたといいます。被害女性がなんとかそれを飲み込むと、身体が光り輝き……」


「ニュースの再生回数が凄いことになってるな」

「現代の魔術師か!? なんてテロップが出てたけど」


「まあ、一瞬で腕が生えたんだから、科学や技術じゃなくて魔法だろ」

「だよねえ……なんとか科学で説明できたりは?」


「絶対にないな」

「そっかぁ……」


 テレビの報道が加熱したことで、事件の概要はすぐに分かった。

 逃走車両をパトカーが追跡しているとき、横断歩道を渡ろうとした少女が、逃走車にはね飛ばれたのだ。


 当たったのは右腕のみ。

 だが車の質量と速度、そして少女の体重から、車に当たった右腕だけがもっていかれた。


 少女の身体は数メートルほど跳ね飛ばされただけだが、車と接触した右腕は、もっと遠くまで飛んでいったという。


 熱いと思ったときにはもう、腕がなかったと少女は証言している。

 遅れてやってくる激痛。どうしていいか分からないとき、救いの手は差し伸べられた。


『――現場から立ち去った少年のゆくえは、(よう)として知れません。彼が何者なのか、続報が待たれます』


「……だって」

「捕まることはないよな」


「大丈夫だろ。あれだって薬と言って渡したわけではないし」

「だよな」


「だけど、指紋は採られたかもよ」

「……? ああ、ポーション瓶か」


 素焼きっぽい入れ物なので、もしかしたらちゃんとした指紋が採れないかも知れない。

 それに物珍しくて、ベタベタ触っただろうし。


「済んでしまったことだ。気にするなよ、現代の魔術師さん」

「それ、言わないで」




「派手にやったな。だがよくやった」

 玲央先輩は微笑んでいる。


「ありがとうございます。とっさだったので、思わずポーションを使ってしまいました」

「ニュースを見て、茂助くんも喜んでいたよ。結果を恐れていては、人助けなどできないと言っていた」


「茂助先輩なら、そう言いそうですね」

「ただ、身辺に注意した方がいいな。写真は撮られたのか?」


「よく見てませんでしたけど、俺の正面には人はいなかったです」

 少女は、道路側のガードレール付近に倒れていた。


 俺が駆けつけたとき、道路側に人はいなかった。

「それと、逃走車を追いかけていたパトカーがなぜ少女に気づかなかったのかと、やり玉に挙がっているな」


「パトカーは気づかなかったんですか」

「逃走車が交差点を右折したときに少女を撥ねたらしい。後方から追っていたパトカーからは、死角だったそうだ」


 逃走車に跳ね飛ばされた少女は、監視カメラの外へ転がってしまった。

 俺が駆けつけたシーンもすべて、監視カメラの外だった。


 監視カメラは交差点の中を記録するためにあるのだから、それは仕方ない。

 テレビでは唯一の記録である、少女がはねられる映像ばかりを繰り返し流していた。


「しかし、『癒しの超水』は☆4、つまりDランクのダンジョンから得られるんですよね」

「うむ。あれでダンジョンの価値を示したことになるな」


「なんにせよ、周囲の目には注意します」

「うむ。その方がいいな」


 身バレしたら一瞬で家が囲まれる。

 俺は通販で、防犯カメラと保存食を買い込んだ。



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― 新着の感想 ―
[一言] すごく面白かったです‼ 才能の違いにちょっと(いや、かなり?)嫉妬しちゃいました。 どうやったらこんなに面白い作品が書けるんですか? しかも、ブックマーク登録者数や評価ポイントがかなり高くて…
2022/01/12 16:34 退会済み
管理
[良い点] てっきり画像取られていて少年Aにされているものと・・・ [気になる点] 続きが気になる [一言] 毎日追っていますが書き込みできなくて申し訳ありません。
[一言] ポーション関係はかなりの需要がありますよね。 一気に展開が加速しそうで先が楽しみです。
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