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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
31/99

030 新たな一歩

 冬休みはダンジョン三昧。

 朝から晩まで魔物を狩っていた。


 ダンジョン産の食材……縁起物らしいが、見た目がアレなものと一緒に、今までにない武器を買ってきてくれた。

「安かったからねえ」と言っていたが、まあ、言いたいことは分かる。


 使い古された中古武器だ。

 サビがひどいので、ブラシのついたグラインダーで表面のサビを落としてから、砥石(といし)で磨いているところだ。


「戦場に放置されていたと言われても、私は驚かんぞ」

 玲央先輩が結構きわどい発言をする。洗浄中の手が一瞬だけ止まってしまった。ダジャレではない。


 槍や斧は、取り回しをしやすくしているのか、柄は思ったほど長くない。

 ピッケルのような片手武器があったり、返しのついた剣があったりと幅広い。


「一通り、練習してみるといい」と言われたので、今度ダンジョンへ持っていくつもりだ。


 そのダンジョンだが、学校が始まってからはさすがに1日1回の通常ペースに戻した。

 冬休み中に鍛えた身体は健在で、前より効率よく戦えるようになっていた。


「先輩がたはそろそろ自由登校ですか?」

 いつもの昼休み、『行列研究部』の部室で昼食を摂っている。


「そうなんだが、登校しないとつまらんだろ」

「家で勉強だけしていても息がつまりますしね。そうかもしれません」


 残り少ない高校生活だ。

 家で自主勉強していても、おもしろいことはなにもない。


「それでは、卒業までは学校に?」

「ああ、そのつもりだ」


「茂助先輩は、どうするんです?」

「拙者も登校するでござる。もともと受験はする気がなかったでござるゆえ」


 茂助先輩は、高校を卒業したあと、IT系のプログラマーになる予定だったらしい。


 俺たちが誘わなければ、いま住んでいる家を人に貸して、東京のアパートでひとり暮らしをするつもりだったようだ。


 茂助先輩の家は小金井市にある。

 ご両親は自衛官なので、このままこの町に戻ってこない可能性もあったのだ。


 もともと立川(たちかわ)駐屯地(ちゅうとんち)に勤めていたが、埼玉県にある朝霞(あさか)駐屯地へ異動となり、家には茂助先輩しか住んでいない。


 すでに家を株式会社ダンジョン・ドリームスの本拠地にする許可はいただいているという。


「先輩がたが卒業したら、本格的に会社運営がはじまりますね」

「そうだな。茂助くん、動画の方はどうなっている?」


「次の動画の用意はできているでござる」

「ついに戦闘シーン解禁ですか」


 俺たちの『DDチャンネル』だが、最初は〈火弾☆1〉スキルを使う動画だった。

 遠くから撮影したものをいろんな角度、複数のダンジョンで撮影し、それを数本の動画としてアップロードした。


 つぎは魔物を映した動画だ。

 向こうから歩いてくるだけの動画だが、「デキが良い」とかなり評判だった。


 デキどころか本物なのだが、それは視聴者の知るところではないので、仕方ないのだと思う。

 そして次、ついに戦闘動画をアップロードすることになる。


 音声はカットしてある。

 これでどんな反応が出るか、世間の動きを見極める狙いがあるという。


「ならば、今夜さっそくアップしてくれ。年も明けたし、そろそろいいだろう」

「分かったでござる」




 そんな話をした日の探索で、俺たちはレベル11に上がった。


 鬼参玲央:レベル11、生命値19、技能値35(総合値:54)

 〈火弾☆1〉〈身体強化☆1〉

 夕闇孫一:レベル11、生命値33、技能値20(総合値:53)

 〈火弾☆1〉〈身体強化☆1〉

 座倉勇三:レベル11、生命値28、技能値27(総合値:55)

 〈火弾☆1〉〈身体強化☆1〉


 冬休みの特訓が効いた形だ。


 その日の夜、俺は茂助先輩がアップロードした動画を視聴した。

 わかりやすさを重視したのか、虫系A2ダンジョンの動画だった。


 ツノのあるワームとの戦闘シーンからはじまり、両肩に甲羅をまとったカマキリとの戦闘などが10分程度にまとめられていた。


 俺と勇三、そして玲央先輩の顔にはモザイクがかけられている。


 3人とも胸にアクションカメラを取り付けてあるので、魔物が倒される様子が、3人の視点から分かるようになっている。


 カメラワークというか、茂助先輩の編集がうまいのだろう。

 自然に映像が切り替わり、見たいシーンがきれいに繋がれている印象だ。


 コメントの方も、「すげー」や「まじリスペクト」といった言葉が並んでいる。

 この動画のクオリティならば、いつか話題になるだろう。


 俺は安心して就寝した。




 戦闘動画を投稿した日から数えてちょうど一週間。

 部室でいつものように集まっていると、茂助先輩が、普段とは違う、重々しい雰囲気で語った。


「思った通りの効果が出たでござる。半信半疑でござるが、あれが実写であると結論付けた人が現れだしたでござる」


 あの日から毎日3本の動画をアップロードしている。

 すでに戦闘シーンだけで20本を超える量だ。


 それらは個々に一万アクセス以上を叩き出していた。

「やっぱりそうですよね」


 最近のアクションカメラは高画質で録画できる。

 そしていまは、映像を検証できるソフトも揃っているのだ。


 必ず、動画を解析しようとする人が出るだろうと、俺たちは予想していた。

 玲央先輩が満足そうに頷く。


「動画のストックはどうなっている?」

「音声カットと顔モザイクの動画が100本以上あるでござる」


 さすがに9月から今まで毎日探索していただけのことはある。

 録画したものは一旦、ウェブのストレージにアップロードされ、全員に共有される。


 これらの費用は4人で負担し、動画の収益化が完了して収入が出るようになったら、精算する予定でいた。

「なるほど。収益化は可能なのか?」


「もう少しで条件を満たすでござるが、これはもうなったも同然でござる。そもそも収益化の条件自体はかなりゆるいでござる」


「そうか。まあ、そっちは急がなくてもいいだろう。申請してから通るまで日数がかかるようだし、起業はまだ先だしな」

「会社の準備はどうなんですか?」


「うむ。起業の準備はほぼ終わっている。高校卒業を待って、4月1日に会社を設立することになるだろう」

 専門の人に意見を聞き、法務や税務に関しては、すでに条件をクリアしている。


 もちろん、短期、中期の経営ビジョンも出来上がっている。


 あとは実行に移すかのみだが、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことで、親族の同意なしに起業の発起人となれるようになった。


 先輩はすでに18歳になっているため、高校卒業を待って、会社を設立することにしたのだ。

「3月までは受験生でいるさ」と先輩はうそぶいている。


 なんにせよ、もうすぐ世間をあっと言わせる日が来る。

『行列研究部』の部室に、玲央先輩の不気味な声が響き渡った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 魚の解体でも収益外されることもあるそうですが……
[一言] なろう的には長い序章でしたが ここから離陸でしょうか。 どんな騒ぎが始まるのか楽しみです。
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