029 新年会(続き)
新年会は続く。
テーブルの上にある異世界料理には視線を移さず、話はダンジョンのことから最近アップロードされた動画へと続く。
「茂助先輩、動画のアクセス数はどうですか?」
「グラフ化させて管理しているでござるが、どうやら全体的に上がってきたようでござる」
「やっぱりそうですか。コメントも増えてきましたよね」
茂助先輩はゆっくりと頷き、「ただし……」と続けた。
「注目されたことで、動画の真偽を疑う人が出てきたでござる」
「真偽ですか?」
「フルHDの動画を拡大して見ているのでござろう。瞬き、それに呼吸、視線の動きなどに注目したでござる。最近の魔物動画はキグルミではないかと言う人が出てきたでござる」
「魔物のキグルミ……」
死ぬともやになるとはいえ、魔物は呼吸をするし、斬れば痛みにひるむ。
つまり生きているのとまったく変わらない動きをする。
CGで動かす場合、わざとプログラムしないかぎり、瞬きはしないし呼吸もしない。
よく注意して見ているものだと思うが、茂助先輩は、そういうところに注目する人が出るだろうと予想していたようで、「議論しつくしてもらうでござる」と動じていない。
「そうですか……このあと、どうするんです?」
「撮りためた動画はまだまだあるので、ゆっくり焦らず、やっていくでござる。先は長いでござろう?」
「CGではなく実物なのでは?」という人が出てきても、やることは変わらないらしい。
「そうですね。俺たちもようやくレベル10です。〈ダンジョン生成☆4〉が使えるようになるには、あとレベルを10上げないと駄目ですから」
「なら、地道が一番でござる。拙者も地道に進めているでござる」
茂助先輩は動画作成だけでなく、魔物、アイテムなどのデータベース化も進めている。
俺たち同様、時間のかかる作業だ。
消費アイテムの名前と効果もほぼ判明し、写真もだいたい揃ったと報告があった。
「ダンジョン産のアイテムや、ダンジョン産の素材を使ってスキルで作成したものって、詐欺ができないですよね」
「アイテムを手にして念じると名前が浮かんでくるので、無理でござろうな」
たとえば、ポーションはヤ○ルトの容器ほどに大きさが統一されていて、名前と効果は以下の通りとなっている。
癒しの水(☆1のアイテム:軽い怪我を治す、打ち身、痣なども治る)
癒しの良水(☆2のアイテム:打撲、捻挫、骨折、骨まで見えているような怪我も治す)
癒しの霊水(☆3のアイテム:深い傷、筋の断絶などを治す)
癒しの超水(☆4のアイテム:四肢欠損、神経断絶も治す)
癒しの神水(☆5のアイテム:死んでいなければ、ほとんどの怪我を治す)
A1~5のダンジョンで得られるのが『癒しの水』で、B1~5のダンジョンから『癒しの良水』が得られる。
つまり、Dダンジョンで得られるのは『癒しの超水』まで。
『癒しの神水』はもう1ランク上のアイテムとなる。
これと同じで、病気回復ポーションは、『病払いの水』から『病払いの神水』まであり、それぞれ☆1から☆5のダンジョンで得られる。
他にも『毒払いの水』、『石化払いの水』、『麻痺払いの水』、『呪払いの水』がある。
ポーションの見た目は同じなので、握って念じるしか中身を判別する方法がない。
このような消費アイテムは、他に『粉』シリーズがある。
『攻めの粉』、『守りの粉』は攻撃力や防御力をアップし、『躱しの粉』は素早さがアップする。
『粉』の効果はおよそ6時間。自分や対象に振りかけて効果を発揮する。
この粉は一人に振りかけるよりも、全体に振りかけた方がよく、『粉』シリーズは全体の能力向上アイテムとしてかなり優秀らしい。
ほかに『油』シリーズというのもある。
油は身体に塗ると効果があり、やはり6時間ほど効果が持続する。
こちらも各種強化や耐性が得られるが、一人用だ。
このようにダンジョン産の消費アイテムだけで結構な数がある。
ポーションは〈調合〉スキル、粉は〈粉吹〉スキル、油は〈精油〉スキルで生成可能である。
「ポーションとか、自分で作って販売してみたいですね」
ダンジョン商売を始めるのだ。そういうこともできると思う。
「怪我や病気を治療するポーションなら需要はあるだろうが、法律がうるさそうだな」
玲央先輩が考え込んでいる。
「一般に販売となると難しいでござるな」
茂助先輩も渋い顔だ。
「医師法違反とかですか?」
たしか、素人が勝手に医療行為をしてはいけないはずだ。
医師免許が必要で、先輩はそれを取りたくないため、探索者からダンジョン商売への道へ進みたがった。
「いや、切ったり縫ったりするわけではないので、医療行為には当たらないでござる。やっかいなのは、薬機法でござるな」
茂助先輩が言うには、「○○に効果がある」などの文面を入れて売るとそれに引っかかるらしく、結構な数の健康食品などが「○○に効果があると言われています」など、微妙な表現にとどめているらしい。
薬として売るには認可が必要だが、ダンジョンの宝箱から出てきたポーションや、調合のスキルで作成したポーションに認可が下りるかといえば、まず無理だろう。
「じゃあ、売買できないんですか?」
「ダンジョンから出てきたものを開封しないで、効果を明記しなければ、売っても大丈夫でござろう」
効果があることは分かるが、その効果を表示していなければ、ないものと一緒。
薬ではないのだから、ドラッグストア以外の場所で売っても構わない。
「なんか、とんちみたいですね」
「〈調合〉スキルで作成したものは、食品衛生法が適用されるでござるから、だれかが食品衛生管理者の資格を取って、作成する工房を設置して、保健施設の人に見に来て確認を取らねばならないでござる」
「……面倒ですね」
「農家の人が軒先でダイコンを売るのは問題ないでござる。それをタクアンにして売るには、そういった資格や調理専用の施設を造って、届け出を出さねばならないでござる。ちなみに自家採取のイチゴをジャムにして売る場合でも、自宅の台所は使えないのでござる」
「農家の人は、そんなことをしていたんですか」
「しているでござる」
個人でも、普通のレストランや、大規模食品工場と同じ資格が求められるらしい。
イチゴを取りすぎたからジャムにしてちょっと売るなんてことはできないようだ。
そのような話を聞いて、つくづく先輩たちがいてよかったと思った。
少なくとも、俺と勇三だけなら、途中で投げ出していたに違いない。
昨日の御岳山キャンプへのハイキング道ですが、実際にあります。
結構な山道を迂回しながら進むので、楽しいですよ。
それと食品衛生管理者ですが、こちらも実在する資格です。私も持っています。
毎年、お金を払って講習会に出ています。(最近はコロナでオンラインですけど)
そして毎年同じ話です。もういいんじゃないかな(ボソッ)
それでは引き続きよろしくお願いします。




