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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
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003 異世界の話

「おばあちゃん、いきなりすぎるよ。ダンジョンって危険だよね。もう少し、詳しい話を聞かせてほしいんだけど」


「そういえば、そうだねえ。よそ様の子をあずかるんだし、異世界(あっち)と同じに考えてはだめだね」


御祖母様(おばあさま)。その……私も異世界の話を少しでもいいので、してもらいたいと思います」


 先輩が食いついている。

 昼休みのときも思ったけど、先輩はこういう話に興味あるのだろうか。


「いいけど、異世界のことだと、話すことはいっぱいあるから、かえって迷うね」

「それでは、こっちの世界に来ることになった経緯など、いかがでしょうか」


「そうだねえ。孫一、あんた牟呂(むろ)さんのご自宅に何度かお邪魔したことあるだろ」


「ええっと……牟呂さんっていうと、武蔵村山(むさしむらやま)市の? 立川(たちかわ)駅からバスに乗って、ほぼ終点まで行ったところにあった家だっけ?」


「そうだよ。若い頃、あたしは異世界で、牟呂(のぼる)って人と出会ったんだよ」

「へっ? 異世界で出会った!?」


 聞いたら、壮絶な話だった。

 第二次大戦中、日本軍はサイパン島で苦しい戦いを強いられた。


 仲間が次々と敵の銃弾に倒れ、食糧も残り少ない。

 牟呂昇という軍人は、玉砕覚悟で敵軍へ突撃。


 身体に何発もの銃弾を浴びながらも、敵兵を倒そうと這いずって前進。

 だが汚泥の中で気を失い、気がついたら異世界だったという。


「あたしが探索者をしていたとき、偶然その人と会ってね。こっちの写真を見せてもらったのさ」


 異世界には身体の傷を治すポーションがある。

 親切な人に助けてもらった牟呂昇は、そこで一命をとりとめた。


 知らぬ間に異世界へ来てしまって、相当混乱しただろう。

 それでも彼は言葉の壁を乗り越えて、ずっと異世界で生活していたらしい。


 数十年の時が経ち、老境にさしかかったその人と祖母が出会った。


「家族と故郷の写真を大事に懐にしまっていたんだよ。それを見せながら、あたしにこの世界の話をするのさ」


 異世界に興味を持った祖母。そのときたまたま、ダンジョンで☆7のスキルを得た。

 記憶にある場所ならば転移できるそのスキルを使えば、異世界に行けるのではないか。


 そう考えた祖母は、写真を記憶し、異世界の情景をできるだけ詳しく教えてもらい、ついでに日本語も習い、何度も何度も試した。


 探索者を続けながら、諦めることなく一年近くも試した結果、見事異世界へ赴くことができたという。


「あっちには写真なんてないからね。いや~、こっちの世界に転移できてよかったよ」

「……マジか」


 普通は、ある程度すぐ転移が成功するらしいが、転移先が異世界ということで、そこへ赴くイメージが掴めなかったのかもしれない。

 1年もの間、諦めなかった祖母の執念の勝利だろう。


 祖母は異世界に転移するとすぐ牟呂家に赴き、事情を話す。

 とっくの昔に戦死したはずの家族の消息が分かり、牟呂家の人たちは大いに驚いたという。


 そこからは、語り尽くせないドラマがあったらしい。

 紆余曲折のすえ、祖母は互いの近況を知らせるメッセンジャーとなった。


 世界を渡るついでに、こっちで遊び倒したようだが。


「じゃあ、あちらさんは……」

「あたしのことをよく知っているよ。……と言っても、代替わりしたからいまは、時候の挨拶をする程度だけどね」


 詳しく聞いたところ、祖母がこっちに住むとき、生活基盤が整うまで援助してくれたらしい。

 家族の消息を知らせただけだが、義理堅いことである。


「それで異世界の話だったね。あっちはなんていうか、町や村でまとまっていて、自分の住んでいる周囲がすべてという感じだね」


 フィールドや天然のダンジョンには、強い魔物も弱い魔物も均等に出るため、町と町を移動する人は少ないらしい。


「ただし、探索者は別だよ。レベルが上がれば、どこをどう歩いても危険は少ないからね」

 といいつつも、祖母は「けどねえ」と息を吐く。


 強力なスキルを持つ探索者は、戦争に駆り出されるのだという。

 魔物との戦闘で死ぬのではなく、兵士として戦争に参加して、そこで死ぬ者の方が多いらしい。


 とにもかくにもレベルが低いと死にやすいので、早く魔物を倒してレベルを上げることが求められるらしい。

「どんな村人でも、戦えない人はいないねえ」と、祖母は恐ろしいことを言った。


 みな、13、4歳くらいからダンジョンに入って、魔物を倒すようになるのだとか。

 ただし、フィールドや天然ダンジョンは不意に強い魔物が出たりするため、レベル上げには向いていないという。


「スキルで造るダンジョンは、そういうところを自由に設定できるからね。レベル上げにはもってこいなんだけど、どうやっても5人以上は入れないんだよ」


 ダンジョンを生成するスキルを持った者がダンジョンを造り、村や町の人々は、少しずつレベルを上げていくらしい。


 レベルを上げて生存率を高める。これができてはじめて、一人前の村人、町人になれるのだという。

「……異世界はそれほどですか」


「レベルを上げないと危険ってのは分かるけど、戦争もあるのか。マジ、戦闘民族だな」

 先輩と勇三が感心しつつ驚いている。


「レベルが10くらいになると、少し安心できるかね。スキルはまあ……運がいいと宝箱から出るから」

 スキルはスキルオーブからしか習得できないのだが、購入しようとするとかなり大変らしい。


「異世界での平均レベルは、どのくらいなのでしょう?」


「平均は……どうなんだろう? みんな十代のうちにレベル30くらいまで上げるかしらね。専門の探索者になるならまだまだだけど、途中で生産職のスキルオーブを見つけると引退するし……良いスキルがないとレベルだけ上がっても、弱いままだしねえ」


 三十代、四十代になってまで探索者を続けるより、どこかで食いっぱぐれない生産系に鞍替えした方が得だと考える人が多いらしい。

 その頃になると、家庭を持って守りに入るからかもしれない。


 ある一定以上強くなると、戦争に引っ張り出されるからかもしれないが。


「おばあちゃん、いまレベルはいくつなの?」

「あたしはレベル63だよ。スキル枠はあと4空いているんだけどねえ。いいのが決まらなくてね」


 スキルオーブは購入することもできる。戦闘系は安く、生産系は高いという。

 祖母はもうすぐ70歳になるので、いまさら戦闘系のスキルオーブを買う意味はない。


 だが、いまさら生産系のスキルを購入しても、投資した分の収入は得られない。

 つまり、高齢者になってスキル枠に余りが出ても、わざわざ高い金を払ってスキルを覚えたりしないのだという。


 異世界に祖母の探索者仲間がいるらしいが、みな老人。

 ときどきダンジョンでレベル上げをしているらしいが、この10年で、祖母のレベルはたった2しか上がらなかったという。


「レベル65にしようと思ったんだけど、ちょっと難しいねえ」

「まだやるの?」


「ほら、健康のため?」

 70歳を超えて現役を続けられるなら、それはそれで凄いことなのではなかろうか。


「まるで山名(やまな)宗全(そうぜん)公のようですね」

 70歳近くまで現役で戦乱の世を駆け抜けた武将の名をあげて、先輩は感心していた。


 祖母の場合、ただ面白いことが好きという理由で、探索者を続けているのだと思う。


「まあ、他にもいろいろ話せるけど、異世界っていったって、そうそう変わるわけじゃないしね。それより、ダンジョンはどうするんだい?」


「探索者だっけ? なんか話を聞いたら、おもしろそーじゃん。オレはやるぜ」

 勇三はやる気のようだ。


「そうだな。御祖母様、ぜひとも私にそのダンジョンを攻略させてください」

 先輩もやる気になった。……というか、もともとやる気だったようだが。


「でもおばあちゃん。命の危険はあるんだよね」


「そりゃそうよ。あっちで武器と防具は買っておいたから、それを使ってみなさい。その年なら、最弱ダンジョンで死ぬことなんて、まずないから」


 そう言って祖母は、押し入れの中から無骨な革鎧と剣を取りだした。


「……中古?」

「ぜいたく言わないの」


 革鎧と剣に、血痕らしきものがこびりついている。

 中古というか、遺品? 死体から剥ぎ取ったとかだろうか。


「これはあんたたちにあげる……安かったし」


「安かったんだ……」

 なんとなく縁起が悪そうだと。そのとき俺は思った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「レベルを上げないと危険ってのは分かるけど、戦争もあるのか。マジ、戦闘民族だな」 ここ驚くところ?未だかって地球で戦争の無かった時代なんて皆無ですよ。主人公、変な所で驚くね。
[気になる点] 作者は武蔵村山市に住んでるん?立川からバスで行ける話といい武蔵村山は電車通ってないからかなり知名度低いと思うし。
[気になる点] >5人以上は入れない 伝授枠5人で探索は定員4人とかトラウマ刺激されそう [一言] 異世界って獣人とかいそうですよねヤギの
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