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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
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028 お正月

 御札を取りに行った翌日、勇三(ゆうぞう)が家にきた。

 さっそくとばかり、俺は昨日の出来事を語って聞かせた。


「魔物とそれを狩る一族みたいなの? ゲームとかにありがちな話だな」

「信じられないだろうけど、山の中に大猿がいたのは確かなんだよ」


 祖母が言うには、この世界にもほんの少しだけど、そういった魔物が現れる可能性はあるという。

 結局、あれがそうなのかは分からない。


 ただ、極々まれにでも魔物が出現するのなら、それを狩る人がいてもおかしくないと思い始めている。


「それで明日は大晦日だぜ。オールでダンジョンに入るだろ?」

「なんでダンジョンの中で年越しをするんだよ」


 年越しダンジョンって……勇三の考えていることが分からない。

「なんか、貴重な経験じゃん。そういうの」


「それって、どうなんだ? そもそもおまえは平気なのかよ」


「ああ、俺はダチと年越しするって言えば問題ない。玲央先輩も塾の集中講座とか言えば、家にいなくても平気らしいぞ」


「ほんとに平気なの?」

 冬休みの間、ほとんどわが家で合宿状態だったんだが。


「せんぱいってさ、貰った小遣いの中で塾の費用とか出してるみたい。つか、そもそもどんな塾に通っているか、把握してないんじゃねえかって」


「なにその放任主義」

 家族の前では猫を被っているとは聞いていたけど、玲央先輩の家は相当だな。


「というわけで、オールでダンジョンしようぜ」

「なにそのパワーワード」


 オールでダンジョンって。

「んで、おまえんちは大丈夫か?」


「そういえば、おばあちゃんが、うちで新年会をやりたいって」

「ん?」


「父さんも海外で正月を迎えるみたいで、母さんもそっちに行っちゃった。いま家に、俺とおばあちゃんしかいないんだよ」


「へえ……親父さん、戻ってこないの?」


「向こうのニューイヤーパーティに出席するんだと。夫人同伴らしい」

「へえ、大変だな」


「よくわからないけど、数年分の仕事を2年くらいでまとめなくっちゃいけないらしくて、時間を無駄にできないっぽい」

「どこも大変だな。……で、新年会は大丈夫だぜ。もちろん出席する」


「茂助先輩も来るって言ってた。……ただ、おばあちゃんが、異世界からいろんなものを買ってくるって言ってるんだよね」


「おっ、異世界産の料理か。楽しみだな」


「俺はときどき、おばあちゃんから貰ってた食べ物が異世界産だって知って、今更ながらに戦慄(せんりつ)してるよ」


 どう考えても手作りとしか思えないお菓子とか、祖母はときどきくれた。

 だが、一体だれが作っているのか。どこでもらってきたのか一切謎だったのだ。


「それじゃお前は、異世界の食いもんとか、慣れてるのか」


「慣れてないよ。ビーフジャーキーだと思っていたものが、魔物の肉だったりしたしね。どうも野性味あふれる味だと思ったよ。たぶん、おまえも食べてるぞ」


「マジ? ……そういえば、妙に歯ごたえのあるグミとかあったな。まったく噛み切れないし、味はついてないし」


「ああ、あった。カラフルなグミだったけど、あれたぶん異世界の魔物素材だぞ」

 おそらくグミでもない。


「まじかーっ!」

 いまだかつて、売っているのを見たことがないし。


「そういえば一度、変な粉を舐めさせられたよな。あれ、なんだったんだ?」

「さあ……おばあちゃんに聞いてみないとわからないけど、知りたい?」


「………………いやいい」

 勇三は、しばらく葛藤したあと、そう言った。




 年末も集中的にダンジョンに入っていたため、勇三の言っていたオールでのダンジョン探索は不可能となった。

 身体がもたないのだ。


 2回目の探索を終えて、食事を摂ったあと、さあ、明日の朝まで一踏ん張りしようかと思ったが、身体が動かなかった。


 連日の疲れもあり、ぬくぬくしたこたつに入ったまま、3人とも寝てしまったのである。


「あけましておめでとうでござる」

 元旦になって、茂助先輩がおせち料理持参でやってきた。なんてイケメン。


「あけましておめでとうございます、茂助先輩」

「招待ありがとうでござる。今年もよい1年になるとよいでござるな」


 茂助先輩が持ってきたのは豪華な三段重。

 それが、異世界料理の隣に置かれると、ミスマッチ感が凄い。


「孫一氏。もしかしなくても、これはアレでござるな」

「ええ、祖母があっちの世界から持ってきたものです」


 茂助先輩は、テーブルの真ん中に鎮座している輪切り肉の塊を指さした。


「この野性味あふれるぶつ切りは……?」

大海蛇(だいかいじゃ)のソテーです」


「斬新なソテーであるな」

 ☆5ダンジョンで取れる魔物由来の素材だ。


 巨大な蛇の輪切りが、だるま落としのように重ねられていると思えば間違いない。

 真ん中に1本背骨が通っているのがなんともシュール。


「こちらのもも肉っぽいものは?」

「ギヴァールというらしいんですけど、ワイバーンに似ている魔物の肉みたいです」


「……そこのイソギンチャクのおばけみたいなのは?」

「ムッシュべーという八頭蚯蚓(はちとうみみず)の肉だそうです」


「我慢大会でござるか?」


「だいたい合ってます。お雑煮に使ったダシは、髑髏烏(どくろからす)の骨ですし。もともとは錬金素材みたいですね。食べられないけど、ダシはとれると祖母が言ってました」


「そうでござるか。して、見てはいけないもの……ザル一杯の目玉は?」

「これ、見た目は目玉そっくりですよね。実は、植物の実らしいんですよ。味も目玉そっくりらしいですけど」


「それは目玉というでござる」

 茂助先輩はドン引きだ。


 異世界だと、高レベルダンジョンの素材は結構貴重らしいので、ありがたくいただくことにするが、見た目はまあ……食欲が失せることこの上ない。


 ほかにも滋養強壮にいい薬草サラダなどもあるので、健康には良さそうだし、縁起物として一口ずつ食べておけば、健康になれるんじゃなかろうか。


「孫一、おまえんちって、毎年こうじゃないよな?」

「父さんがいたからね。さすがに不明な食材は使ってなかったと思う」


 少なくとも、食卓にはのぼらなかったはずだ。

 それでもみな、好奇心半分で、異世界料理を口に入れていた。


 見た目はあれでも、存外おいしい……ということもなく、素材が味を主張しすぎていて、カレーの中に入れてもカレーが負けるんじゃないかと思われた。


「そういえば、私たちのドロップ品の中にも肉があったが……」

 先輩は思い出したのだろう。だが、それは禁句なのだ。


「うちの冷凍庫に入ってますよ。虫の肉ですけど、焼いて食べます?」

「うむ。忘れた。何のことかな?」


「たぶんそれで正解です」

 いくら食用だろうとも、食べたくないのである。とくに正月は。


 この新年会だが、茂助先輩が持ってきたおせち料理ばかりがよく減った。

 とても助かったとだけ、言っておこう。



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― 新着の感想 ―
[一言] HARIBOは異世界グミだった?
[一言] 続きを楽しみにしてます
[良い点] 異世界ゲテモノおせち [気になる点] タラバやズワイ蟹だって蜘蛛に近い種だし茹でればいけそうですね…
感想一覧
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