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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
27/99

026 冬休み

 冬休みに入った。

 例年はダラっとテレビを見ながら、たまに思い出したように1年を振り返るくらいだ。


 だが今年は違う。俺の隣には、玲央(れお)先輩と勇三(ゆうぞう)がいるのだ。

「今日は魔法なしで行くぞ」


 先輩がやる気を(みなぎ)らせている。

 気持ちは分かる。先輩はこの冬休みで、大幅なレベルアップを狙っているのだ。


 冬休み初日から、1日2回ダンジョンに入っている。

 というか、先輩と勇三は我が家に泊まっているので、合宿状態である。ダンジョン合宿だ。


 母は「あらあら、お友だちが増えて良かったわねえ」とニコニコ顔だ。

 まあ、いつもニコニコ顔なのだが。


 1回目の探索は、朝6時から12時まで。

 安全マージンを十分とった上での探索だが、これだけでもうヘトヘトだ。


 だが冬休みはこれでは終わらない。

 昼食と休憩を挟んで、午後3時から9時まで2回目がある。


 はっきり言って異常だ。

 しかも先を見据えて、いろいろ試しながらの探索である。


 今回は剣と盾を使った体捌きと、連携の練習。

 魔物の攻撃を盾で受けて、反撃して倒すというもの。


 ボクシングで「ワンツー」というのがあるが、あれはワンのタイミングでワンとツーの2発を打ち込むらしい。

 音にすると「パン、パン、パパン」となる。


 いまやっている練習もそれに近い。盾で受けて、ワンクッションおいてから剣で反撃ではなく、受けたときに剣で反撃する感じなのだ。

 ()(せん)とでもいうのだろうか。これが意外に難しい。


「剣が遅れている! これがうまくできないと、戦闘時間ばかり伸びてしまうぞ!」

 先輩の(げき)が飛ぶ。


大猿(おおざる)が意外にすばしっこいんですよ」

「すばしっこいからこそ、相手が攻撃してきたタイミングを狙うんだ」


「そうですね」

 分かっているのだが、それが難しい。


 巨獣系A3ダンジョンだと、レベル9の俺たちでも、結構ギリギリだ。

 5人ならば余裕もあるのだろうが、3人だと全員が戦うため、他へのフォローができなくなる。


「先輩、せめて遠距離で頭数を減らしません?」


「それに頼り切りになるのが怖い。いまは実感できないかもしれないが、ここで踏ん張った経験が生きる時がきっとある」


「分かりました」

 巨猿は、2、3体まとめて出てくることが多いので、いつでも気が抜けない。


 だが、この苦しい戦闘を続けると、剣や盾の扱いに慣れてくるのは分かる。

 そもそもこれは現実(リアル)の戦闘。


 ゲームのような職業(ジョブ)の概念は存在しない。

 持っているスキルをどう使っていくかが、生き残る鍵となるのだ。


 自分の引き出しをたくさん持っておいて損はないはずである。

 だからこの練習だって、無駄にならない……のだけど、ダンジョン合宿の最中にやるのはどうなのだろうか。


「おっ、あそこに宝箱があるぞ」

「本当だ。珍しいね」


 勇三がさっそく駆け寄っていく。

 宝箱は、月に1個見つかるかどうか。毎日ダンジョンに入っていてもこんなものだ。


 宝箱が出る確率はかなり低いとみていい。

「宝箱もA1よりA2、A2よりA3の方が出やすいんだっけ?」


「そうらしいね。階層を深く進んでいけば出やすいという話もあるけど、それは確率的な問題だと思う」


 各階層に宝箱が出る確率を1%だとしたら、10階、20階と進めば見つかることだってあるだろう。

 深い階層に進めばそれだけ、判定が行われたことを意味する。


「……で、今回のお宝は何かな?」

 勇三が宝箱を開ける。すると中から、1本の瓶詰めポーションがでてきた。


「『石化払いの水』だ。ハズレか」

 ☆1のダンジョンで石化攻撃を使ってくる魔物は少ない。


 しかも徐々に石化がはじまるため、すぐにダンジョンを出て治療すれば大事に至ることはない。

 かといって、☆2で受けた石化はこのポーションでは治らない。


「倉庫行きだね」

 とりあえずいま必要のない素材やアイテム類は、すべてわが家の倉庫に保管してある。


「スキルオーブが出てほしかったが、そんな簡単にはいかねえよな」

 俺たちは探索を続けた。




 合宿を4日ほど続けた結果、俺たちのレベルが10に上がった。

 これでスキル2個目を習得できる。


 その日は途中で探索を切り上げて、祖母に新しいスキルを伝授してもらった。

 俺と勇三は〈火弾☆1〉で、レオ先輩は〈身体強化☆1〉だ。


 レベル5ずつにスキルを一つというのは、かなり厳しい縛りだと思う。

 次に俺が覚えたいスキルは〈閃刃☆2〉だが、レベル15までお預けだ。


 玲央先輩は〈調合☆2〉を覚えたいらしい。

 それでポーションを作製したいと言っている。



 レベル10になった俺たちのステータスは以下の通り。


 鬼参玲央:レベル10、生命値18、技能値33(総合値:51)

 〈火弾☆1〉〈身体強化☆1〉

 夕闇孫一:レベル10、生命値32、技能値19(総合値:51)

 〈火弾☆1〉〈身体強化☆1〉

 座倉勇三:レベル10、生命値26、技能値26(総合値:52)

 〈火弾☆1〉〈身体強化☆1〉


 無事、スキルを2つ取得したので、わが家でお祝いした。

 そろそろだろうと思っていたが、実際にレベルがあがってみると、嬉しさはひとしおである。


 積極的に強い敵を狩り続けた結果、レベルアップの速度も上がってきたように思える。

 翌日は、朝の探索だけ行って、玲央先輩と勇三は家に帰っていった。


 午後はフリーだ。ひさしぶりの半休。

「孫一や、お(やしろ)御札(おふだ)を取りにいっておくれ」


「ああ、もうそんな時期なのか」

 我が家の神棚にある御札は、毎年元旦につけ替える。


 年末のうちに、来年の御札をもらいに行かねばならない。

「行って帰ってきて4時間くらいかな」


 御札をもらうには、武蔵御嶽神社(むさしみたけじんじゃ)まで行く必要がある。

 武蔵御嶽神社は御岳山(みたけさん)の山頂にあるため、行って帰ってくるだけでも大変だ。


 我が家からだと、青梅線(おうめせん)御岳駅(みたけえき)まで向かい、そこからロープウェイで山頂付近まで乗って、最後は30分ほど山を登らねばならない。


「どうせなら、駅から走ってみなさい。鍛錬になるだろ」

「えっ、1時間以上かかるよ」


 祖母の無茶振りがはじまった。

「走ればすぐだよ」


 たしかに鍛錬にはなるだろう。

「……まあ、仕方ないか」


 いまはまだ昼を回った頃。

 走れば暗くなる前には山を下りられるだろう。


 というか、暗くなったら遭難してしまう。

 さすがに近場の山で遭難は勘弁してもらいたい。


「じゃ、行ってくる」

 俺は御札を取りにでかけた。



本日12月31日をもちまして、今年の投稿は終了となります。

来年のスケジュールですが、1月4日からを予定しています。

三が日だけお休みをいただきます。


お暇な方は、同時連載中の『男女比がぶっ壊れた世界の人と人生を交換しました』をお読みいただけたらと思います。


それではみなさん、よいお年をお迎えくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 先が楽しみなので、続く事を願ってます。 男女比の方はちょっと私には不向きでした。
[一言] 祖父の代も何も 祖父母共に向こう側の人間で 行き来できるのは祖母だけって設定だったのでは?
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