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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
24/99

023 アイテムの名前

 DDチャンネルを開設してから、一週間が経った。

 一定のアクセスはあるものの、とくにバズるといったこともない。


 コメントは相変わらず、「見せ方がうまいですね」など、作り物であることが前提のコメントのみ。

 この時点で、「異世界に行ったんですね」とかあったら、逆に怖いが。


 おもしろいのは、『玲央(れお)先輩』すらもCGだと言い出す人がそれなりにいることだろうか。

 つまり、ダンジョン、人、魔法すべてが作り物ということだ。


「あー……薄暗いダンジョンの中だし、フル装備ですものね」

 ヘルメットとマスク姿が、真偽を分からなくさせている要因だろう。


「どこまで実写か判断ついていないでござるな」

 どこまでどころか全部実写なのだが、それに気づく人はいないだろう。

 しかし、よりにもよってすべてCGとは。


「そろそろ次の動画をアップロードするでござる」

「早くないですか?」


「CGの世界なら早いでござるが、それでも事前にモデリングしてあったと思うだけでござる」

「あくまで、CG基準なんですね」


「無論でござる」

 茂助(もすけ)先輩に聞いたところ、やはりわざとCG関連のサイトにURLを載せたらしい。


 真相は見た人に委ねるらしく、CGだと思う人にはそう思わせておくらしい。

 その方があとで驚きが大きいだろうとのこと。


「それで、次は何の動画なんです?」

「魔物でござる」


「戦闘シーンですか」

「いや、戦っているシーンはまだ出さないでござる。データベース化が完了した魔物の中から、比較的単独で映っていて、あまり刺激的でないものを選んだでござる」


 見せてもらったものは、悪魔系A1ダンジョンに出てくるインプが歩いている動画だった。

 ガニ股でヒョコヒョコと近寄ってくる姿は、愛嬌がある。


「これ、写真を取りにいったときのですね」

「そうでござる。直前まで攻撃してこないので、いい絵が撮れているでござる」


 俺たちの声はカットしてあり、魔物のインプがただ近づいてくるだけの映像だ。

「これもCGって思われるんですかね」


「間違いなくそう判断されるでござる」

 茂助先輩はなんだか楽しそうだ。


「せっかくレベル8になりましたし、頑張っていい映像をたくさん撮ってきますよ」

「頼むでござる。……そういえば、学園祭のとき、島原氏になにかしたでござるか?」


「島原先輩にですか?」

 向こうから絡んできただけで、別段何かをした記憶はない。


「下級生の間で『イケメン三銃士』の評判が下がったと、もっぱらの噂でござる。島原氏は、孫一氏は絶対に許さないと息巻いていると聞いたでござる」


「マジですか? そんな怒らせることしたっけな……」

「下級生の……とくに1年生の間で、島原氏の噂が広がったようでござる」


「1年生の間ですか……ああ、思い出した。『イケメン三銃士』の意味は本来と違うから、別の3年生に本当の意味を聞いてみればって言いました」


「なるほど。それででござったか。逆恨みされているようでござる。気をつけるでござるよ」

「分かりました……けど、自業自得じゃないのかなぁ」


 そもそもあのあだ名が登場したのは、俺が入学する前の話なのだ。

 真の意味を1年生が知ったとして、俺が悪いわけではないと思う。


「そういえば先輩、データベース化は進んでいますか?」


「祖母殿と一緒に、進めているでござる。魔物の名前はこっちの世界で一般的なものを使用したでござる。アイテム名などは、それを持ったときに頭に浮かんだ名前でござるね。効果は祖母殿が教えてくれたでござる」


「手に持って名前が浮かんでくる……あの不思議現象ですね」

 ダンジョン産のアイテムを持って念じると、なぜか頭の中に名前が浮かんでくる。


 自分たちの国の言葉で正確な名前を知ることができるし、偽物を掴まされたなんてこともなくなる。

 言語が違えば、頭の中に浮かぶ名前も違うため、多言語に対応させるには、実際に一つずつ検証しなくてはならない。


 幸い、祖母が異世界でポーションなどを手に持って、日本語で念じていると、それにふさわしい名前が浮かんでくる。

 それを書き写してもらっている。


 そうやってアイテムを一つ一つ、データベース化しているのである。


「気の遠くなる作業ですね」

「それでもアイテムなら何とかなるでござるが、問題はスキルオーブでござる」


 ダンジョンの宝箱から出るスキルオーブは、実際に触らないと正しい日本語が浮かんでこない。

 だが、そうそう近くにスキルオーブがあるわけない。


 正式な名前を知るには、だれかが習得しているか、実物がなければならないのだ。

「この辺もゆっくりやるでござる」


「とりあえず俺たちも、なるべく多くの宝箱を見つけられるよう、がんばりますね」

 現在レベル8だが、A3ダンジョンをメインにして、たまにA4ダンジョンへ行く程度だ。


 危険もなく安定してA3ダンジョンで狩りができるようになったのだから、進歩だと思っている。

 だが、先は長い。果てしなく感じるほどには長い。


 Aダンジョンの中では、A5ダンジョンが一番ドロップ品が多く、宝箱も出やすい。

 はやく安定してA5ダンジョンで狩れるようになりたい。


 それにはレベルアップだけでなく、仲間を増やす必要がある。

 そう……仲間が。


 なにはともあれ、茂助先輩は夜にインプの動画をアップロードした。

 どんなコメントがつくか、実は少し楽しみだったりする。



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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったのでブクマしました。 こういうほのぼの系好きです。 どこかの話のあとがきに触れてましたが、タイトルの[ダンジョン商売]だけだと確かにちょっとインパクト弱すぎですよね。かといって完…
[一言] 逆怨みするイケメン三銃士に合掌
[良い点] (あ、これエクスカリ『パ』ーに騙されるやつだ)
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