023 アイテムの名前
DDチャンネルを開設してから、一週間が経った。
一定のアクセスはあるものの、とくにバズるといったこともない。
コメントは相変わらず、「見せ方がうまいですね」など、作り物であることが前提のコメントのみ。
この時点で、「異世界に行ったんですね」とかあったら、逆に怖いが。
おもしろいのは、『玲央先輩』すらもCGだと言い出す人がそれなりにいることだろうか。
つまり、ダンジョン、人、魔法すべてが作り物ということだ。
「あー……薄暗いダンジョンの中だし、フル装備ですものね」
ヘルメットとマスク姿が、真偽を分からなくさせている要因だろう。
「どこまで実写か判断ついていないでござるな」
どこまでどころか全部実写なのだが、それに気づく人はいないだろう。
しかし、よりにもよってすべてCGとは。
「そろそろ次の動画をアップロードするでござる」
「早くないですか?」
「CGの世界なら早いでござるが、それでも事前にモデリングしてあったと思うだけでござる」
「あくまで、CG基準なんですね」
「無論でござる」
茂助先輩に聞いたところ、やはりわざとCG関連のサイトにURLを載せたらしい。
真相は見た人に委ねるらしく、CGだと思う人にはそう思わせておくらしい。
その方があとで驚きが大きいだろうとのこと。
「それで、次は何の動画なんです?」
「魔物でござる」
「戦闘シーンですか」
「いや、戦っているシーンはまだ出さないでござる。データベース化が完了した魔物の中から、比較的単独で映っていて、あまり刺激的でないものを選んだでござる」
見せてもらったものは、悪魔系A1ダンジョンに出てくるインプが歩いている動画だった。
ガニ股でヒョコヒョコと近寄ってくる姿は、愛嬌がある。
「これ、写真を取りにいったときのですね」
「そうでござる。直前まで攻撃してこないので、いい絵が撮れているでござる」
俺たちの声はカットしてあり、魔物のインプがただ近づいてくるだけの映像だ。
「これもCGって思われるんですかね」
「間違いなくそう判断されるでござる」
茂助先輩はなんだか楽しそうだ。
「せっかくレベル8になりましたし、頑張っていい映像をたくさん撮ってきますよ」
「頼むでござる。……そういえば、学園祭のとき、島原氏になにかしたでござるか?」
「島原先輩にですか?」
向こうから絡んできただけで、別段何かをした記憶はない。
「下級生の間で『イケメン三銃士』の評判が下がったと、もっぱらの噂でござる。島原氏は、孫一氏は絶対に許さないと息巻いていると聞いたでござる」
「マジですか? そんな怒らせることしたっけな……」
「下級生の……とくに1年生の間で、島原氏の噂が広がったようでござる」
「1年生の間ですか……ああ、思い出した。『イケメン三銃士』の意味は本来と違うから、別の3年生に本当の意味を聞いてみればって言いました」
「なるほど。それででござったか。逆恨みされているようでござる。気をつけるでござるよ」
「分かりました……けど、自業自得じゃないのかなぁ」
そもそもあのあだ名が登場したのは、俺が入学する前の話なのだ。
真の意味を1年生が知ったとして、俺が悪いわけではないと思う。
「そういえば先輩、データベース化は進んでいますか?」
「祖母殿と一緒に、進めているでござる。魔物の名前はこっちの世界で一般的なものを使用したでござる。アイテム名などは、それを持ったときに頭に浮かんだ名前でござるね。効果は祖母殿が教えてくれたでござる」
「手に持って名前が浮かんでくる……あの不思議現象ですね」
ダンジョン産のアイテムを持って念じると、なぜか頭の中に名前が浮かんでくる。
自分たちの国の言葉で正確な名前を知ることができるし、偽物を掴まされたなんてこともなくなる。
言語が違えば、頭の中に浮かぶ名前も違うため、多言語に対応させるには、実際に一つずつ検証しなくてはならない。
幸い、祖母が異世界でポーションなどを手に持って、日本語で念じていると、それにふさわしい名前が浮かんでくる。
それを書き写してもらっている。
そうやってアイテムを一つ一つ、データベース化しているのである。
「気の遠くなる作業ですね」
「それでもアイテムなら何とかなるでござるが、問題はスキルオーブでござる」
ダンジョンの宝箱から出るスキルオーブは、実際に触らないと正しい日本語が浮かんでこない。
だが、そうそう近くにスキルオーブがあるわけない。
正式な名前を知るには、だれかが習得しているか、実物がなければならないのだ。
「この辺もゆっくりやるでござる」
「とりあえず俺たちも、なるべく多くの宝箱を見つけられるよう、がんばりますね」
現在レベル8だが、A3ダンジョンをメインにして、たまにA4ダンジョンへ行く程度だ。
危険もなく安定してA3ダンジョンで狩りができるようになったのだから、進歩だと思っている。
だが、先は長い。果てしなく感じるほどには長い。
Aダンジョンの中では、A5ダンジョンが一番ドロップ品が多く、宝箱も出やすい。
はやく安定してA5ダンジョンで狩れるようになりたい。
それにはレベルアップだけでなく、仲間を増やす必要がある。
そう……仲間が。
なにはともあれ、茂助先輩は夜にインプの動画をアップロードした。
どんなコメントがつくか、実は少し楽しみだったりする。




