018 検証は大事
茂助先輩が、スキルの効果を検証したいというので、俺の〈身体強化☆1〉でいろいろ実験してみることにした。
「まさか陸上競技のタイムを計るとは思いませんでした」
敵に近づくときや、剣を振るときの速さは、体感でも違うのが分かっている。
「こういうのは、シンプルなもので違いを計った方がよいでござる」
「わかりました。それで、100メートル走なんですね」
ゴール地点に茂助先輩がスマートフォンを構えている。
俺の足元にも置いてあり、10秒後に鳴るようにセットしてある。
――ピリリリリリ
アラームとともに俺はスタートした。
まずは素の状態でのタイムだが。
「13秒5でござる」
「あれ?」
夏頃に学校で測ったときは、14秒7か8くらいだった。
1秒以上、タイムが縮まっている。運動部に所属していない俺が、こんなに速いはずがない。
「身体を動かし続けていたから、いい結果が出たとも考えられるでござるが、おそらくレベルアップの効果も入っているでござる」
「あっ、そうかもしれません」
たった5レベル上がっただけで、結構な成果じゃないか。
「次は身体強化した状態で頼むでござる」
「分かりました」
100メートルを1本走ったあとだが、レベルアップの効果なのか、息切れもほとんどない。
先ほどと同じ条件で俺は100メートルを走った。
「……で、結果が12秒5で、また1秒もタイムを縮めたのかよ」
今日はめずらしく、俺の部屋に勇三が来ている。
「レベルアップとスキルの補正ですごいことになっちゃったよ」
「あいかわらずあの人は、おもしろいこと考えるな」
今回の測定は、スキルデータベース化の一環で、客観的な事実が知りたいと茂助先輩が言いだしたことがはじまりだ。
言われた通り、一通りの検証に付き合ったが、結果は驚くものだった。
俺や勇三では「動きが速くなった」とか「力が強くなった」と思うだけで、検証しようとは思わなかったので、これはかなり有用な実験だったと思う。
「幅跳びや高飛び、重量挙げ、持久走までやったんだけど、平均して2割くらい、身体能力が上がっていたんだ」
最後は学校にあるトレーニング施設を借りて行ったが、レベルアップで素の力も上がっていた。
周囲の視線が突き刺さるほどの結果が出た。
「そのわりに、身長と体重は変わらなかったと?」
「変わってない。レベルアップの身体向上って、どこから来るんだろ?」
「魔力とかが身体に巡ってるとか?」
「茂助先輩は、身体を動かすときに魔力が補助してくれているのかもって言ってた」
「バッテリー乗せた自転車みたいにか」
「ああ、そんな感じ」
「するとレベルアップするごとにバッテリーが高出力かつ大型になっていくわけ?」
「そう考えると面白いね」
「そんで、茂助せんぱいは?」
「ダンジョンで魔法の検証をやっている」
そう、俺の部屋で勇三と駄弁っている意味。
いま先輩たちは、A1ダンジョン内で、〈火弾☆1〉の検証作業をしているのだ。
「考えてみれば、魔法も不思議だぜ。何発撃ったら魔力切れなんてのもないし」
「少し休めば回復するしね」
魔法というか、あれもスキルの扱いだからだろう。
魔法の発動も、通常の運動となんら変わりないらしい。
魔力が切れたら気絶するとか、そういう仕様ではない。
頭痛とか倦怠感が襲ってくる感じでもない。
倦怠感はあるのだが、それは剣を振るのと変わらない。
疲れても、少し休めば回復してくる。魔法も同じだ。
イメージとしては腕立て伏せに近い。
休み休みならできるが、連続でやるとすぐに限界がくる。
少し休めば回復するけど、さらに連続しようすると疲れが溜まってくる。
自分の体力と相談しながら続ければ、それなりにできるし、慣れれば長時間の使用が可能になってくる。
スキルの魔法は、かなり便利な存在なのだ。
玲央先輩と茂助先輩が戻ってきた。
「おかえりなさい、どうでした?」
「うむ、エコだな」
「エコってなんですか?」
ちょっと笑ってしまった。
「少ない労力で魔物を倒せる。すなわち、エコだ」
玲央先輩がドヤっている。
「映像に残したので、あとで見てみるとよいでござる。火魔法は優秀な魔法でござった」
単発の発射実験からはじまって、どれだけ早く次弾を出せるか、発射直前で溜めができるか、発射した弾を曲げられるのか、命中率と到達距離はどうなのか。
延焼するのか、どれだけ近くにいると被害が出るのかなど、思いつく限りの実験を行ったという。
「……相変わらずですね、茂助先輩」
「何事にも、実験あるのみでござるよ」
茂助先輩が注目したのは、威力や速度ではなく、とっさの命中率だった。
前方に撃った直後、次弾を撃つ姿勢のまま後方に方向転換しても、わずかな時間で狙いを定めることができるらしい。
これは、複数の敵に囲まれたときに有効で、遠くから仲間を援護することが可能となっている。
「この〈火弾☆1〉のスキルは、お二人も覚えて損はないと思うでござる」
「なるほど。じゃあ、レベル10になったら、覚えてみようかな」
レベルをあげていけば、覚えられるスキルの数が増えるが、レベルの低いうちは、優先度の高いスキルから覚えていきたい。
「そうだな、じゃ次は〈火弾☆1〉にするか」
勇三も同じ気持ちのようだ。
「ただひとつ、問題があるでござる」
「ん? なにかありましたか?」
「玲央氏に聞いたところ、ダンジョンの外でも〈火弾〉は使えるようなのでござる」
「うむ。庭の池に向かってな。撃った」
「あー、危険ですね」
一般の人が魔法系のスキルを得た場合、それで事故や犯罪がおきる可能性がある。
ただ、それはどんな道具でも一緒。包丁やバールを本来の用途以外で使う人はいるし、車やバイクだって、十分凶器だ。
ようは、人に向けて使うか使わないかの違いでしかない。
「スキルが一般化したら、法で規制するんじゃねーの?」
「銃刀法みたいにか……スキル所持に届け出とかもありそうだな」
「被害が出た出ないにかかわらず、使ったら罰則という感じになるんでしょうかね」
「先のことだが、そういうのもありえるかもしれないな」
「ダンジョン商売は一日にしてならず、ですね」
やはり、いろいろと考えることが多そうだ。