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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
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017 学校で

 俺が通う私立葉南(ようなん)高校は、国分寺市にあるちょっとした進学校だ。

 通う生徒も、お坊ちゃん、お嬢ちゃんが多い。


 俺は最初、この学校に行く気がサラサラなかった。

 育ちの良い者が通う学校というイメージがつきまとっていたからだ。


 だが、悪友の勇三がそこを受験すると言い出した。

 俺と勇三の家は国分寺市にある。もう少しつけ加えれば、学校の近所に住んでいる。


 歩いて通えるところに学校があり、勇三がそこを受験する。

 つまり俺は、勇三についていったわけだ。




「なあ、もし日本にダンジョンができたら、入ってみたいか?」

 俺はクラスメイトとの雑談の合間に、そんな疑問を挟んでみた。


「ダンジョン? そりゃ入るでしょ」

「おれは別にいいかなぁ」


「俺も入らないと思う」

「マジ? 一度くらい行ってみるべきじゃ?」


 意外にも答えが拮抗した。

 高2年生という肉体的にも上り調子のいまなら、もっと興味を持つかと思ったのだが。


「なんで? ダンジョンだよ? 普通入るだろ」

「ゲームや小説と現実は違うだろ」


「そうそう。現実にダンジョンがあったら、臭いし疲れるだろ。無理だわ」

「わざわざ危険なことをする必要はないしな」


 進学校だからか、坊っちゃん嬢ちゃんが多いからか、理性的な回答が目立つ。

 俺は黙って、会話のなりゆきを見守っていた。


「よく聞く話で、『探検』と『冒険』は違うって言うじゃん」

「探検家を冒険家と呼ぶなって話だな」


「ダンジョンって、そこいらの冒険より危険なわけじゃん。行ったヤツの話を聞けば十分じゃね?」

 だれかがそんなことをいうと、周囲が「そうかもな」と納得しだした。ダンジョンに入らない派が優勢になった。


 ちなみに探検は、未知なる場所へ赴くこと。

 一方冒険は、危険があることが分かっていても、あえてそこへ踏み込む行為を指す。


 普通の洞窟が探検ならば、火山ガスが蔓延している洞窟へ酸素ボンベを背負って入っていくのが冒険となる。

 たしかに魔物がいるダンジョンに赴くのは『冒険』なのかもしれない。


「茂助先輩のいう『動画から入る』というのは、いい案なのかもしれないな……」

「孫一、なんか言ったか?」


「いや、こっちの話。 ……たとえばだけど、未知なるものがほとんどなくて、そこまで安全とは言わないけど、事前に危険が分かっている場合だったら、どうする?」


「そこまでお膳立てされたら、1度や2度は入ってみるかもしれない」

「だいたい分かったら、継続して入るか決められるしな」


 予想通りの言葉が返ってきた。

 これも茂助先輩の言う通りだった。データベース化は、あったほうがいい。


 ダンジョンの中に危険があり、命をベットして入っていくよりも、予測できる範囲の危険しかない方が、人々の食指は動くようだ。


「ありがとう。参考になったよ」

「……?」

 友だちから「変なやつ」と言われた。




「……というわけで、友だちに聞いたところ、ダンジョンの安全が確認された方が、みな興味を持つようなんです」


 昼休み、いつものメンバーに、今日から茂助先輩が加わった。


「たいまつの明かりをたよりに一歩、一歩進むのも楽しいと思うが」

 玲央先輩は、意外にもダンジョンにロマンを求めているようだ。


「同じことするんでも、危険が少ないほうがいいんじゃねーの? でも、オレたちがしているのも、あまり変わってませんよね」


「無理はしていないし、御祖母様から安全と思われるダンジョンを造ってもらっているか。たしかにな」

 俺たちはいまA2とA3のダンジョンに入っている。


 3人で探索していることを差し引いても、簡単なダンジョンしか経験していない。

 正直『冒険』という感じがしない。


「つまり、必要なのは印象操作だな」

 玲央先輩が、フフッと悪い笑みを浮かべた。


「ダンジョンの中は危険で、そこに赴くのは冒険」というイメージを「危険が少ないダンジョンの中なら、安全に探検できる」に置き換えるのだ。


「ダンジョンが怖いというイメージを払拭させるために、動画配信が必要なんですね」

「ダンジョンを商売にするなら、その方がいいでござる。それと会社化するときに、楽になるでござるよ」


「会社化ですか? でも、お金なんてありませんよ」

「小遣い程度でも、起業できるでござる。あとで、動画収入を増資(ぞうし)にあてるでござる」


 茂助先輩の説明によると、こうだ。

 現在、小額資本で株式会社がつくれる。極端な話、1円からでも起業できるわけだ。


 ただ起業しても意味はないので、ちゃんと利益をださなければならない。

 会社を設立した瞬間から、国に税金を納める義務が発生するからだ。


 ではどうやって利益を出すのか。

 それをまず動画配信で行うのだと茂助先輩は言った。


「いま見ているこの動画も編集して、会社経由でアップロードするでござる。絶対に人気になるでござるよ」


 たとえば一人数万円ずつ出し合って、10万円で起業したとする。

 動画配信によって出た利益を増資にあてることができるらしい。


「会社が大きくなればそれだけ多くのお金が必要になるでござる。個人の利益はあとでいくらでも回収できるでござるから、まずは企業の資本を盤石にするでござる」


 資本は多ければいいというわけではなくて、資本の額によって支払う税金は違うし、利益が出れば、それ相応の税金を支払うことになる。


 増資には、税引き後の利益からしか使えないらしい。

 余剰金をしっかりプールさせておけば、大きな買い物をするときに銀行に頭をさげて融資を受ける必要もないだろうとのこと。


「そういう金銭的な話はパスな。オレはよく分からねえ」

 資産家の息子のわりに、勇三はその手の話が苦手だ。


「簡単に言うと、本格的な始動をする前に会社をつくって、小金を貯めておこうって話だよ」

「うん、まあ、それでいいんじゃねーの?」


「今後のためにもまず、ダンジョンが安全であることを示さねばならないな」

 先輩の言う通りだ。


「レベル上げと同時に写真撮影ですか。またA1ダンジョンから入り直しですね」

「ああ。ちなみにアイテムの写真は、御祖母様におまかせした。異世界で撮ってきてくれるそうだ」


「あー……異世界ですか」

 公園より簡単に行けるしな。写真だけなら、それでいいか。


 なんにせよ、ダンジョン商売の話が徐々に具体的になっていく気がした。



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― 新着の感想 ―
[一言] ファンタジーを現実に落とし込むって夢が広がるよね
[一言] リスクの話しだけしてリターンの話ししないなら、そりゃ行く気なくなると思うわ
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