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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
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015 レベルアップの効果( ※千在寺茂助)

 ~千在寺茂助視点~


 孫一たち3人がダンジョンに入っている間。

 千在寺茂助は、夕闇蓮吹流(ハスフィキール)と居間でお茶を飲んでいた。


嬉野(うれしの)のお茶でござるな」

「おや、分かるのかい」


「拙者の祖父が好きだった銘柄でござれば。ただ、祖父はこれほど上質なものは(たしな)んでいなかったようですが」

「年寄りの唯一の贅沢だよ」


 居間にズズッと茶をすする音が響く。


「して祖母殿(そぼどの)。ダンジョンとは一体、いかなる存在でござるか?」


「さて、あたしはそういう研究をしたことがないからねえ。ただ一つ言えるのは、あたしがいた世界と同一のものだということくらいかねえ」


「……それは祖母殿のスキルが関係しているのでござろうか」


「おそらくね。あたしが造ったダンジョンは、あっちの世界で造るのとまったく同じ。出てくる魔物も、宝箱から得られる素材やアイテムもすべて同じ。これまで違いは出たことはなかったね」


「そうでござるか。それともう一つ。魔法陣を使ってダンジョンに入るのは、先ほど見させていただきました。出るときは、別の場所も可能であるとか。その出口を異世界にすることは可能でござろうか?」


 蓮吹流(ハスフィキール)は、湯飲みの柄を眺めながら、首をゆっくりと振った。


「それは無理だね。ダンジョンを造るとき、入口と出口がなければ駄目なのさ。出口を離れたところにといっても、十数メートルが限界かね。出口を異世界にするのは……どう考えても不可能だね」


「そうでござったか」

「あたしも、一度でいいから、息子を異世界に連れて行ってやりたいと思ったけどねえ。方法がないのさ」


「異世界には、〈転移☆8〉以上を持つ者がいるのではござらんか?」

「それはさすがに怖くてね」


 二人の間に沈黙が流れる。


「……なるほど。理解したでござる」

〈転移☆8〉ならば、異世界と日本を自由に行き来できるだけでなく、多くの人を運び込めるのだ。


 どちらかの世界に、重大な影響を及ぼしかねない。

「信頼できる人が見つかればいいんだけどねえ。聞いたことあるのはすべて、国のお抱えさ」


 たとえ〈転移☆8〉を持つ者個人が信頼できる者であっても、国に属している以上、国家の意思と無関係ではありえない。

 それゆえ、蓮吹流(ハスフィキール)は決断できないのだろう。


「まあ、あたしももうすぐお迎えが来るし、後は野となれ山となれなんだけどねえ……さすがにそれは無責任だろ?」

「……あと50年は生きるつもりだと伺い申しましたが」


「これまで生きた時間より短いさねえ」

「それはそうでござるな」


 しばらく会話が止み、せんべいを囓るパリパリとした音だけが居間に響く。

 茂助と蓮吹流(ハスフィキール)は、今日はじめて会ったばかりだが、両者の間には気のおけない雰囲気が漂っていた。


「そういえば、レベルについて聞くのを忘れていたでござる」

「レベルの何が聞きたいんだい?」


 茂吉はさきほど、ステータス棒を握った。

 頭の中に浮かんだ数値は、1、5、17というもの。レベル1、生命値5、技能値17とかなり『技能値』に偏っていた。


「レベルアップで生命値と技能値が上がるようですが、それで実際の身体能力は上昇するのでごさろうか」


「もちろん、向上するさ。レベルアップとはそういうものだからね」

「では、祖母殿も?」


「ああ、500円玉くらいなら、ぐにゃっとできるかね」

「それはまた……すごいでござるな」


 魔法があり、魔道具がある。

 ダンジョンがあるのだから、探索者は超人のような力も発揮できるのだろう。


「そうでもないと、生きていけない世界だからねえ」

 レベルをあげないと、死に直結する世界。平和な日本で暮らしていれば、実感できない感覚だろう。


「眉唾な話ですが、飛騨山中で行き倒れた異世界人の話があるでござる。その者、ひどく身体が損傷し、地元の医師もさじを投げたとか。しかし、数ヶ月ほど生き延びたとあるでござる」


「あたしは、こっちの世界に来るのに、相当苦労したんだけどねえ。やはり、世界を超えるのは、生半可なことじゃ無理だと悟ったよ」


「その割には、頻繁に行き来していると聞いたでござるが」

「一度渡ってしまえば、あとは問題ないのさ。それでその異世界人は、どうしたんだい?」


「自分は別の世界から来たと言い残して、この世を去ったでござる。50年以上も前の話らしく、詳しい資料も残ってなく……そういえば、不思議な石をひとつ残したと言われているでござる」


「ほう、どのような石だい?」

「黒曜石のように漆黒な丸い石で、覗くと石の中で花火がぽん、ぽーんと弾けているのだとか」


「魔石とそっくりじゃないか」

 蓮吹流(ハスフィキール)は、床の間に飾られている花びんの首を持って左右に振った。


 ジャラジャラと音がする。


 花びんを傾けて、中のものを数個取り出す。

「これが魔石だよ」


「拝見するでござる」

 茂助が魔石を手にとり、重さを確かめたり、光にかざしたり、目を近づけてみたりする。


「どうだい?」

「中で星が弾けているでござるな」


「魔石はすべてそうさ。中に溜まった力が外へ出ようとして弾けているんだと言われているね」

「なるほど……とすると、あの異世界人の話はあながち、嘘とは言い切れない気がするでござるな」


「その魔石はどうしたんだい?」

「現物は失われ、話はただのネタとして扱われているでござる」


「向こうの世界の同胞なのかもしれなかったねえ」

「さようでござるな」


 茂助はすっかりぬるくなった茶をすすった。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 茂助氏もポーションがあるからガラスの膝と言わず健康の為にパワーレベリングすれば良いのにと勝手に思ってます。
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