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ダンジョン商売  作者: もぎ すず
第一章 ダンジョン生成できるようです
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012 商売の難しさよ

 今回は少しだけ早く、ダンジョンから戻ってきた。ナメクジのせいだ。

 時間があまったので、今後のことについて話し合うことにした。


 ちなみに俺がシャワーを浴びている間、先輩たちは祖母からスキルについての話を聞いていた。

 とくに〈ダンジョン生成☆4〉について、詳しく聞いていたらしい。


 そもそも『ダンジョン商売』については、祖母が言い出したものだ。

 異世界では普通に行われているという。その辺の話を聞いていたのではないかと思う。


「ようやくヌメリが落ちましたよ」

「災難だったな」


「今度、ナメクジが出たら、先輩の魔法でお願いしますね」

「考えておこう」


「いや、絶対お願いしますよ」

 臭いし、気持ち悪いし、かぶれるし、あれと剣で戦うのはもう嫌だ。


「それでいま、〈ダンジョン生成☆4〉の詳細を聞いていたのだが、すごいものだな」

「ええ、そうですね。でもなんで一度に複数のダンジョンを生成できるんでしょうね」


「カレーを作るのに、一人前も四人前も変わらないし、そういう感じだろうか」

 ダンジョンとカレーを一緒にするのもアレだが、言いたいことは分かる。


 一度に複数のダンジョンを造ると言っても、同じダンジョンなのだ。

 使用する魔力は増えるが、そのへんは魔石で代用できる。


 祖母はいま、自分の魔力だけでダンジョンを造っている。

 足下に魔法陣が浮かび、ダンジョンへ移動する感じだ。


 同じ事を床に魔石を置いてやることも可能だという。

 ダンジョンから出るときは石碑を触るのだが、出てくる先はやはり魔法陣の上。


 ただし、別のところに帰還用の魔法陣を設置してある場合は、そっちが優先される。

 祖母が以前、「ダンジョンを造るというより、はじめからあるダンジョンに繋ぐ感じ」と言ったのは、これが理由だ。


 異世界のどこかにあるダンジョンへの入り口を開いているに等しい。

 同一のダンジョンに限り、複数同時に造れるところがすごい。


 先輩は以前、インスタンスダンジョンと表現したが、まったくもってその通りで、中で探索者たちが一緒になることはない。完全に独立したダンジョンが複数構築されるのだ。


「魔石を使えば、一度に50でも100でも造れるんだぞ。こんな凄いことはない」

 先輩は興奮している。


「そうですね。異世界でもそれを商売にしているみたいですし、こっちでやるのは構わないんですけど、現実的な問題がいろいろありますよね」


「なんで? 普通に宣伝して、ダンジョンに入りたいヤツを募集すればいいんじゃないの?」

「勇三くん、昔ならそれで通ったかもしれないが、いまは世間がうるさい」


「んなこと言ったら、何もできない気がしますけど」

 勇三は「とりあえずやってみる」派のようだ。


「昭和の時代なら通用しただろうね。でもいまは無理だと思うよ」

「めんどくせえな」


「先輩はどうしたらいいと思います?」

「質問に質問を返すようだが、孫一くんはどう思っているんだい?」


「俺ですか? う~ん、関係各所に連絡を入れて、最低でも役所? まあ、国から許可が得られたらいいと思ってますけど、それでようやくスタートですかね」


「そうだな。私はね、先に事実を広めたらいいんじゃないかと考えているんだ」

「事実を広めるんですか? 口コミで広げていくものと思っていましたけど」


「最初はそう思っていたんだが、考えを変えてね。もしダンジョンの事実を世間に広めたらどうなると思う?」

「収拾がつかなくなると思います」


「そうだな。そこでダンジョンに入れないとなったら?」

「世間から文句を言われますよ」


 このダンジョン、だれでも入れるんだぜ。だけどお前たちは入れてやらない、とかするんだろうか。

 ものすごいヘイトを溜めそうだ。


「文句どころの騒ぎじゃなくなるだろうね。ダンジョンなんて、好きな人にはたまらないはずだ。殺害予告だって出るかもしれない」


「そこまで分かっていて、世間に広めるんですか? それなのにダンジョンに入れない……?」

 先輩の考えが分からない。


「ああ、入れない。ダンジョンに入りたくても、こっちが断る。すると、世間は大いに騒ぐ」


「騒ぐでしょうね。特大に炎上する光景が目に浮かびますよ」

 吊し上げられる未来が。


「そこでいまからダンジョンを解禁する。これでみんな入れるようになると言えば、どうなる?」

「みんなこぞって、俺を先に入れろと殺到すると思います」


「だけど、こう言うんだ。みなさんに入ってもらおうとしたら、政府から駄目だって言われましたって」

「そこで許可の話ですか」


「一般市民の強い要望が極限まで高まった状態でダンジョンに入ることを許可する。だけど、私たちはよくても、国がノーといったから、やっぱり無理でしたとなる」


「ヘイトは完全に国に向きますね。許可を出さない国が悪者になる未来がみえます。それを回避するには、探索の許可を出すしかなくなる……」


「そういうことだ」

 先輩は、意外に悪辣(あくらつ)なことを考えていた。


「たとえばですけど、そんなことをしなくても、国が簡単に許可を出すとかは……」

「まずないだろうな。さまざまな安全が確認できない限り、何年かけてでも検証すると思う」


「何年も!?」


「たとえばダンジョンから持ち帰った魔石や素材などは安全なのか。ダンジョンの中には危険な病原菌はないのか。そもそもダンジョンの空気を吸って平気なのか。チリ一つに至るまで、安全性を確認するんじゃないかと思っている」


「さすがにそれは……」

「農薬って、どうやって開発されるか知っているか?」


「急に話が変わりましたね。まったく知りませんけど」

 これまでの人生で、農薬に興味を持ったことなど、一度もない。


「野菜についた残留農薬が話題になったことあるだろ? そのとき調べたのだが、それはもう大変な苦労をして、安全性を検証していることが分かったんだ。農薬を撒いたあと、どれだけ畑や土に残るのか、水で洗い流せるのか、無害と言われる量を摂取して本当に害がないのか、子孫の遺伝子的には影響がないのか」


「子孫って……」

 数十年や百年先にならないと、分からないのでは。


「マウスで実験するんだ。何世代にもわたって骨格標本も保存しておく。安全性が確認できたと思って報告書を提出するのだが、たとえば子孫の遺伝子に欠陥がないか、もう少し詳しいデータがほしいと国から言われた場合、また検証しなおさなければならない。するとマウスを使っても、2年コースらしい」


「発売がさらに2年遅れるんですか」

 開発費が膨らみそうだ。


「そうだ。売っている農薬を見たことあるが、あれだけ高いのもうなずける」

「発売までこぎつけたのは、苦労の結晶なんですね」


「ダンジョンについてはどうだろうか。我々は専門家ではないからね。お金を払って、専門家に安全性を確認してもらうことになるけど、ダンジョンの専門家はいないし、魔物の専門家も同じだ。いったいどれだけの年月が必要なのか」


「農薬でそれなら、気が遠くなりそうです」


「だが、たとえば魔物から攻撃されて怪我をしたとする。孫一くんがさっき受けた粘膜もそうだが、それを地上に持ち帰ったとき、変な病原菌を一緒に地上に持ち込んだ可能性があると言われれば、反論できない」


「可能性があると言われれば、たしかにそうですね」


「そのため、ありとあらゆる検証をすると言われても、魔物の種類は膨大だ。魔物のすべての要素を検証するなど、物理的に不可能だと思う」


「それ、はじめから頓挫(とんざ)しているのでは」

「検証しない場合、どこかで不審死がおきたときにダンジョンのせいにされたりする可能性もあるしな」


「面倒ですね」

 やっぱり、こっちの世界でダンジョン商売は不可能なんじゃなかろうか。


「それらを考えたら、真正面から許可を貰いに行くのは下策だと判断したわけだ。あと、法律の専門家を雇わないと駄目だろうな」


「なんか、一気に商売が難しく感じてきました」


 自分たちだけで楽しむのなら、他に知られることもないので自由だ。

 それを商売にしようとすると、なんだかとても難しく思える。


「難しいね。私もつくづくそう思ったよ」




相変わらず12月は忙しいです。感想返しは、1日おきくらいになるかもです。

朝、日が昇らないうちに出かけるんですけど、車のフロントガラスにシート敷くの忘れて霜で真っ白になってました。出かける直前に気づいて「ぐあああ」となったのは内緒です。


農薬の話は本当です。ソースは、農薬研究所へ見学にいった私。

ネズミの骨格標本とかずらずら並んでいるところで説明を受けました。

ちなみに普通の人が見学を申し込んでも許可出ないと思います。(普通の人は見に行かない)

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