011 スキル使用
祖母から、スキルを伝授された。
ということで、A3ダンジョンに挑戦してみようということになった。
ついでに『ダンジョン採取』も体験してみることにした。
これは探索の合間に苔や草、鉱石などを採取するのだが、難易度の低いダンジョンでは、採れる量も種類もお察し。
採取してもあまり旨味はない。
ゆえに今回は、「お試し採取」の意味合いが強い。
祖母にも言われたが、ダンジョンに入るようになって一ヶ月弱。
しかも放課後のみの探索だ。これで有用な採取素材が手に入るほど、ヌルい仕様ではないだろう。
「これが『採取カマ』と『採取カゴ』だよ。一応これでも魔道具だから、取り扱いには注意するんだよ」
カマもカゴも魔石をはめ込んだ魔道具になっていて、使用していくと少しずつ魔石に内包されているエネルギーが消耗されていく。
異世界では安価な魔道具として流通していて、☆1の魔石が使われている。
こちらの世界にはもちろんないので、手に入れるには祖母に頼るしかない。ちなみに魔石は交換式だ。
「こういう採集道具は、〈魔道具作製〉のスキルがないと作れないってのは、結構厳しい仕様だね」
普通の採取道具で刈ったとしても、刈り取った直後、苔も草も鉱石もすべて黒いもやとなって消えてしまうのだ。
ダンジョン内で何度も試したが、一度として素材が採れたことがないから、無理なのだろう。
つまり採取に関しては、全面的に祖母頼みなのだ。
いま進んでいるのは『虫系A3ダンジョン』。
たまに苔が見つかるので、それをカマで削り取っていく。
剣で削ったところ、やはりここでも『もや』になって消えてしまった。
異世界では、スキルで造ったダンジョンと、天然のダンジョンでも同じらしい。
「これは……羽音?」
通路の奥から、羽音が近づいてくる。ブーンという低音だ。
「なんか飛んで来るけど、ハチ?」
「黒いし、ハエじゃねーか?」
「たしかに黒いな。アブの魔物かもしれない。何にせよ、攻撃するぞ。私がいく」
先輩が〈火弾☆1〉を放った。
ゴルフボール大の炎が飛んでいき、魔物に当たった。
魔物がのけぞり、地面に落ちる。
「おらぁ!」
勇三が剣でとどめを刺した。ドロップ品はなし。
「先輩の〈火弾〉スキル、速度出てましたね」
「ああ、剛速球くらいは出ていたな」
「狙いは?」
「わりとつけやすい。思ったところに飛んでいってくれる感じだ」
アブのような魔物は、縦横に1メートルくらいはあった。
A3ダンジョンになると、魔物の大きさもそれなりだ。
体当たりされたら怪我しそうだが、剣や魔法で迎撃するのは難しくなさそうなのが救いだ。
「もう一度、私にやらせてくれ」
「いいですよ」
次にやってきたのは、ハサミムシのような魔物。
先輩は〈火弾〉3発で、それを倒した。
「A2より敵が確実に強くなっているな」
「虫系といっても侮れませんね。そのうちゲジゲジみたいな、気持ち悪いのが出てくるんじゃないですか?」
「……それは嫌だな」
「クモとかカマキリくらいならまだいいんですけどね」
「クモが出るなら、サソリやムカデも出そうだな」
「昆虫系じゃなくて、虫系でしたからね。A1にいたのも芋虫でしたし」
「難易度が低くても、見た目がキモいのは、精神を削られそうだ」
「……んじゃ次はオレな。〈身体強化☆1〉を試すぜ」
「分かった。勇三、頼むぞ」
「おう、まかせとけ」
苔を採取しながら、ダンジョンを進む。
ほどなくして、先ほどと同じハサミムシに似た魔物が出てきた。
勇三が前に出たので、俺はすぐ援護に入れるよう、近づいて様子を窺う。
「いくぜえ!」
駆け寄った姿はいつもより速い。剣を振り下ろす速度もだ。
見ていて分かるくらいには、〈身体強化☆1〉が効いているのが分かる。
勇三がザクザクと魔物を斬り刻み、もやとなって消えたのを確認すると、こっちを向いて親指を立てた。
「いい感じだ。剣も軽くなったし、身体が自由に動かせた気がする。これならA3でも問題ないぜ」
「ああ、見ていても分かったよ」
俺たちが習得したのは〈身体強化☆1〉だが、これは☆1から☆5まであるらしい。☆5の〈身体強化〉は、どこまで強くなれるのか。
「孫一もやってみると分かるぜ。これは使える」
「そうか。じゃ、次は俺の番かな」
すぐ次の魔物と接敵したが、どうやら俺の幸運値は低いらしい。
ステータスに幸運値はないはずなので、たまたまだと思いたい。
というのもいま俺の目の前には、ナメクジの魔物がいる。
「――これと戦うのか」
なぜ俺のときだけ、ナメクジなのか。
ナメクジだから素早さはない。
のっそりとしているので、身体強化を施さなくても問題なさそうなレベルである。
体高は1メートルと少し。身体の長さは、2メートル以上。
特徴的なのは、ぬめっとした肌。
テカテカひかっていて、体表面全体に粘液がまとわりついているのがよく分かる。
「孫一、行けよ」
「ああ、分かっているんだけど……」
ナメクジを気持ち悪いという人の心がよく分かった。
これだけ大きいと、近寄りたいという気持ちが少しもおきない。
「ええい、やるしかないか」
心の中で身体強化を念じる。
身体が活性化され、自分のできることが増えていくのが分かる。
感覚的に、どのくらい強化されたのか予想できるので、その感覚に従う。
一気に間合いを詰めて、ナメクジの首と思われるあたりに、剣を振り下ろした。
――ザシュ!
抵抗はあったが、力任せに押し込んだら、そのまま首を切断した。
首かどうか分からないが。
「うわっ、粘膜がかかった」
腕にかかったのを拭っていると、ナメクジは黒いもやとなって消えた。
「ナイス一撃。それと魔石が落ちたぜ」
「ほんとだ。けど、こいつとはもう、戦いたくない」
感触が気持ち悪かった。
あと粘液が当たったところがヒリヒリする。
このあと粘液が当たったところがかぶれはじめたので、俺たちはダンジョンから脱出することにした。
祖母に聞いたら、ナメクジの粘液はすぐ洗い落とした方がいいらしい。
いそいでシャワーを浴びたら、肌がアレルギー症状みたいにぶつぶつと赤くなっていた。
「今度からナメクジは、先輩に魔法で倒してもらおう」
シャワーを浴びながら、俺はそんな風に考えていた。