010 レベル5へ
「先輩、後ろから来てます!」
「なにっ!?」
「勇三、前を任せていいか?」
「おう!」
グレイキャットという猫型の魔物が、前後からやってきた。
「挟みうちか。これっ、最初から狙われてたんじゃねーの?」
「だとしても、倒すしかないだろ」
獣系A2ダンジョンに来たが、6階に下りてから苦戦しっぱなしだ。
獣系の魔物は素早いのが多く、見つけたと思ったときにはもう攻撃圏内に入り込まれている。
いまだレベル4で、だれもスキルを持っていない俺たち3人では、少々荷が重い。
一体を勇三に任せて、俺と先輩で後方の一体を相手取る。
先輩が攻撃を受けている間に俺が斬りかかる。
魔物は突くより、斬るか潰した方がいいと祖母から教わった。
魔物は生命力が高く、点での攻撃だと倒しきるのに時間がかかるという。
三度目でようやくグレイキャットの首を落とす。
魔物が黒いもやとなって消えるのを見届ける間もなく、勇三へ駆け寄る。
「勇三、いま行くぞ」
「おう、頼むわ」
3人で囲んでグレイキャットを倒したとき、身体が痺れた。
何度か感じたので分かる。レベルアップしたのだ。
「おおっ!? もしかしてレベル5か?」
「そうみたいだな……さっきの戦闘、マジ疲れた」
レベル4に上がってから8日目、念願のレベル5に上がることができた。
学校が終わってからの数時間程度だと、やはり日数がかかる。
だが、体力がつくまでは無理もできない。
「さっきは危なかったな」
「虫系ダンジョンと違って、こっちは難易度が高いね」
すぐにA3ダンジョンに向かうのではなく、A2ダンジョンでもっと経験を積もうということになり、難しいタイプのダンジョンを祖母にお願いしたら、ここを造ってくれた。
「とりあえず帰って、ステータスを確認しようか」
「そうですね」
近くの帰還用台座に触れて、俺たちはダンジョンから脱出した。
ステータス棒で確認したら、ちゃんとレベル5になっていた。
すぐ祖母のところへ行き、ステータスの伝授をお願いした。
「よくやったね。これでいっぱしの探索者になれるよ」
スキルのひとつも持っていないようでは、恥ずかしくて探索者とは名乗れないという。
「できれば自力でスキルオーブを入手したかったんですけど」
「易しいダンジョンほど宝箱は出ないからねえ」
実はまだ、一度も宝箱を見ていない。
A1とA2ダンジョンでもごく希に見つかるらしいのだが、運が悪いのか。
魔石のドロップ率もかなり悪い。
これもA1のような易しいダンジョンだと仕方がないらしい。
魔石はA1からA5のどのダンジョンでも同じものがドロップする。
A1ダンジョンよりA5ダンジョンの方がドロップ率が高く、そのへんはうまくできている。
Aダンジョンの魔石、異世界だと☆1ダンジョンの魔石と呼ぶが、それはあまりにありふれたもの。
異世界で売ろうとしても、日本円で数百円でしか買い取りしてくれないという。
そんな石ころよりマシな魔石でも、1時間ほど真面目に狩りをして、1個ドロップすればよかったねとなる。
これを3人で分けるなら、異世界で生活するなど夢のまた夢。早晩破産するだろう。
「はいよ。これであたしが伝授できる人数は、残り2人になったね」
「おばあちゃん、ありがとう」
スキルの伝授は人数制限があり、スキルをだれかに1つでも伝授したら、1人分と数えられる。
つまり俺や玲央先輩、勇三には他のスキルを自由に伝授できるが、新たにスキルを伝授できるのは残り2人となった。
俺たちのステータスは以下の感じだ。
鬼参玲央:レベル5、生命値11、技能値23(総合値:34)
〈火弾☆1〉
夕闇孫一:レベル5、生命値22、技能値12(総合値:34)
〈身体強化☆1〉
座倉勇三:レベル5、生命値17、技能値18(総合値:35)
〈身体強化☆1〉
レベル5になったので、ようやくスキルを使うことができる。
「そうだ、おばあちゃん。宝箱はまだ見たことないんだけど」
「☆1だと、難易度の高いダンジョンに入らないと、ほとんど見ないね」
「やっぱりそうなんだ。ドロップ素材も魔石ばかりだし」
「はじめてまだ半月少々だろ? 先は長いさ」
祖母の言う☆1ダンジョンは、俺たちがいまAダンジョンと呼んでいるもの。
☆1、☆2、☆3とか言いにくいので、ABCで統一している。
魔物からのドロップ品は、魔石と魔物固有の素材のみ。
宝箱には、武器、防具、アクセサリ、魔道具、ポーション、スキルオーブのどれかが入っている。
この辺はゲームでも馴染みがあるので、すんなりと理解できる。
宝箱から出る武器、防具、アクセサリには、銘がついている。
それらを持って念じると、名前が浮かんでくるのだ。
スキルを持った生産職人でも同じことができるが、よほど熟練の生産職人でないと、ダンジョン産と同じものは制作できないようだ。
宝箱から出てくる魔道具はこれまた特殊で、魔道具職人が作製できないものが、多数存在している。
ポーションは宝箱から以外にも、ダンジョン産の素材で作製することができるので、こちらはスキルで作成したものがよく出回っているらしい。
そしてスキルオーブ。
これが一番特殊で、宝箱からしか取得できない。
レベルアップや鍛錬では取得できないため、探索者はダンジョン探索に精を出すことになるという。
そしていま祖母から聞いた話。
難易度の低いダンジョンからは、ほとんど宝箱が出ない。
魔物からのドロップ品も少ないことから予想できていたが、やはりというか、世知辛い。
「各ダンジョンには、5つの難易度があるだろう? 当然1よりも5の方が宝箱は出やすい。けれどね、☆1のダンジョンならば☆1相当のものしか出ないんだ。スキルオーブなら、☆1のものだけが出る。☆2からは、☆2以下のものが出るんだけどね」
「おばあちゃんが造れるダンジョンは、最高で☆4でしょ? スキルもアイテムも☆4が最高になるよね」
「基本はそうなるね。ただし、宝箱から『押し上げの珠』という使い捨ての魔道具が出ることがあってね。それを宝箱に使うと、☆1つ分や☆2つ分、中身がアップするんだよ」
「じゃあ、☆4のダンジョンで出た宝箱に使うと……?」
「『押し上げの珠☆2』を使った場合、宝箱の中身は☆6相当になる」
宝箱の中身が不明の状態で使うのだろうけど、それでもかなり有益な魔道具ではなかろうか。
「あたしはそれで〈転移☆7〉を得たんだよ」
「へえ……運が良かったんだね」
押し上げの珠を宝箱に使って、有用なスキルを得るなんて、どれほど運がいいのか。
まあ、それで調子に乗って、この世界に来たみたいだけど。
というわけで、孫一くんたちはようやくスキルを覚えました。
いまはダンジョン探索中心ですが、少しずつ『ダンジョン商売』の方も動き出していくことになるでしょう。
さて本作品は、難しいことを考えず、さらっと読めるよう心を砕いています。
読みやすさを重視し、読み返さなくても読者の皆様がより没入できるよう、物語を進めている感じです。
明かされていない部分、細かいところが気になるという方は、「そういうものなんだな」と思っていただけると幸いです。
では明日から18時に1話ずつ更新となります。