第62話 受け継がれる命
「そんな……国王さまを殺すなんて……そんなこと出来るはずがないじゃないですか!」
デウスは王命を拒否した。この国の王を殺す。そんなことが出来るはずがない。しかし……
「寝ぼけたことを言うな!! この戦いに大勢の命がかかっているんだ! 見てみよ! 彼女らを!!
皆が大切なものを守るために圧倒的な力の暴力にあらがっているんだぞ! それでも敵わない。敵うとすれば、お前の持つ力だけだ! それがわからないのか!!」
デウスは必死に戦っている皆を見た。
「生命の根源たる水よ 多くの命を育む大海よ
青く優しい大海は 同じく多くの命を奪わん
表裏一体の厳しき母よ 我が呼びかけに応え
彼の者らに裏の顔を見せつけよ! 大海の怒り!!」
フィリアの高位水魔法で悪魔たちに大海が押し寄せる。
「地帝龍!!」
フェリスの掛け声で地帝龍が悪魔たちの頭上に大きな鉄球を生成する。
「燃え盛る命たる炎の渦よ 周りを巻き込み燃え広がれ
燃える命は回帰せん 炎の竜巻!!」
フィリアの火魔法で地帝龍が生成した鉄球を熱する。鉄球はみるみるうちに赤くなり、溶け始めた。
熱された鉄球は悪魔たちを襲う大海に落ちていく。
「ペガサス! 皆を護って!!」
ペガサスが広く光の結界を張った。その結界は悪魔たちと大海、鉄球を包んだ。その時だった。
……ドーン!!!
結界内で激しい爆発が起きた。その爆発は神獣であるペガサスの結界ですら耐えるのはギリギリというほどの激しさだった。水蒸気爆発である。
フィリア、ルナ、フェリスの3人による連携が成した攻撃だった。だが悪魔たちは……
「いやー、さすがにダメかと思ったわ」
「まぁ悪魔になってなきゃさすがに死んでるわな、とっくに。じゃ、お返しといくか! ……影移動」
「……ぐっ」
「……がっ」
「……っ」
3カ所で衝撃波が起きる。影移動で瞬時に移動した悪魔たちが3人を殴り飛ばしたのだ。
殴られる瞬間、ペガサスの光の結界で衝撃が和らげられた。……が、たかが知れてる。
3人は地面から起き上がることも出来ず、しかし地面を這い戦う意志を見せている。
「あいつら……」
「デウスよ。あれをみてもまだ儂を殺さないと言うのか? 儂を殺して力を得て、奴らを倒せ。改めて言おう。これは王命である」
「……っ」
デウスは考えた。国王さまの命を奪わずに状況を打破する方法を。1人も死なせずに悪魔たちを倒す方法を。
結果として……そんな方法などなかった。デウスに、誰も死なせずに皆を救う力などない。
国王を殺し、神懸りで悪魔たちを倒す。それが一番少ない犠牲で済む方法だった。
「国王さま……王命、お受け致します。約束は出来ませんが、戦いが無事に終わって僕が生きていたら、きっと国王さまを生き返らせます。だから……ごめんなさい……」
デウスは涙した。自分の無力を恨んだ。国王を殺すことでしか何も出来ない自分が嫌で嫌で仕方なかった。国王を殺すためのナイフを持った右手は、悲しみに震えていた。
「デウスよ。そう背負うな。今は前だけを見よ。そして……ルナを頼んだぞ」
「はい、もちろんです。デウス=リーグレットの名にかけて……」
「そうか、ならもう安心して逝けるな」
そういって国王はデウスの右手を自分の首に持ってきた。そして……
「頼んだぞ、デウスよ」
そう言い残した国王は、そのナイフを握ったデウスの手を自ら首に誘導し切りつけた。
「国王さま! レックスおじさん!!!」
デウスは国王から溢れる血と霊力を呆然と眺めていた。
そしてハッと我に返る。
「あいつら……絶対に殺してや……る……」
そういうデウスは、霊力を身にまとって悪魔たちを睨みつけていた。風はデウスの悲しみと恨みによって燃え上がる冷たい霊力を撫で、悪魔たちの方へ吹き抜けていった。




