第1話 元神官の悪い目覚め
ー言葉は刃である。目には見えないのに人を傷つけ、場合によっては殺すことさえ可能である。まるで言葉に霊力が宿っているかのようにー
(何が起こったんだ……めまいか……?)
頭が痛く、視界は暗い。この背中の冷たく固い感触が私の頭痛に拍車をかける。私はいつものように自分の畑で育てている作物に愛情を込めて大きくなれよと言っただけだ。倒れるほどの疲れなど無いはずなのだが……
「やべぇよ兄ちゃん、やりすぎてデウス死んでしまったんじゃないか?」
(誰だこの声……)
聞きなれない子どもの声がする。裏切りに耐え兼ね人との接触をできるだけ絶っている私には人の声を聞くこと自体が珍しくも感じる。だがしかし……
「大丈夫だ。能無しのデウスが死んだところで俺らのおもちゃが無くなるだけだ、気にするな! 父上にはデウスが階段から転げ落ちたと言っておけば大丈夫さ!」
(兄ちゃん? 父上……? 私は1人で暮らしているはず。寺の孤児たちが山奥まで遊びに来たのか? しかしそれではデウスとはなんだ……?)
ゆっくりと目を開くと見たことの無い風貌の子どもが2人でこっちを見ていた。江戸の世で生きて40年以上。このような子どもたちは見たことが無い。
「なんだよ生きてるじゃねぇか! ビビらすんじゃねぇこのくそデウス!!」
「ぐあぁ……っ」
思いっきり腹を蹴られた。この金色の髪をした子どもたちは異国の子どもだろう。この野蛮さも納得だ。異国の者たちは暴力と圧力で将軍様たちも頭を抱えているというしな。
バシャ!!!
……などど蹴られた腹の痛みを堪えながら考えていると、今度は兄ちゃんと呼ばれていたやつからバケツにめいいっぱい入っている水を浴びせられた。冷水は皮膚を刺すように冷たく、滴る水は水たまりの上で小さな波紋となっている。
「おっとゴミがあると思って水かけたのによく見たらデウスじゃねぇか! ちゃんと掃除しとけよ! じゃあな、あはははは」
(……何が起こっている? どうして異国の子にここまで虐げられなければならない。そもそもここはどこだ? そして奴らは私のことを『デウス』と呼んでないか? ……デウスとは誰だ?)
そのとき、自分のものではない記憶が入り込んできた。デウスと呼ばれる子どもの記憶……魔力皆無の判定、それから先ほどの2人の子ども……兄たちからの理不尽な暴力。そして今私がいる場所で2時間に及ぶいじめの記憶まで。そして私は悟らざるを得なかった。
私は何かしらの理由で山奥の小さな神社の畑で死亡し、2人の兄たちによる凄惨ないじめにより死んだデウスという子に憑依転生したのだろうということを。