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097 コレクターvs黒猫

 ジャスターとの試合、簡単に提案してしまったけれどもしかして俺かなり不利なんじゃないだろうか。

 だって疲れてるどころの騒ぎじゃないよ。足切断された後にドレイクと戦ったんだもの。

 というわけでやる気はあるけど身体がついてきてくれないかもしれない。その部分に不安は残るがやるしかない。

 三倍『ツムカリ』だぁ!


「後悔するんじゃねェぞ」

「そっちこそ」


 手をコキコキと鳴らしながら戦いに備える。

 ジャスターの武器はその速さ。前回はそのスピードについていくことができずに苦戦したが今は違う。

 体力こそ少ないが集中力が上がっている。攻撃を見切り、尚且つ攻撃を入れる。

 ジャスターは俺が弱っていて、しかも前回反応できていなかったことでこの勝負に乗ったのだ。

 必ず速さで勝負してくる。間違いない。


「レクト様~! 準備はいい~?」

「ん、おー、いいよー」

「僕にも聞けよ……」


 なぜか俺にだけ確認をしてきたリスティナに返事をし、武器を構える。


「それじゃあ始めるよ~。よーい……どんっ!」


 運動会かよ、というツッコミを入れたくなるが今は集中しろ。

 開始の合図と同時に、ジャスターはやはり高速で走り始めた。

 まず一発目、爪で正面からの斬りつけ。これを『ツムカリ』で受け止める。

 流れるように攻撃をしてくるジャスターはそのままの勢いで通り過ぎ、再び飛びかかってくる。


「ふっ……!」


 やはり速い。だけどこの平らな闘技場ではジャスターの動きは制限される。

 動きも読みやすいため攻撃を受けることはない。しかしこちらから攻撃するとなると話が変わってくる。

 真っ直ぐの速さは予想以上で、こちらが攻撃を仕掛ける余裕なんてない。


「へっ、このままだとテメーの体力が無くなるぜ?」

「……」


 俺の体力が先になくなる、か。確かにそうだ。

 既に何戦もしている俺の方が先に体力切れで負ける。だからなるべく動かず体力を温存しているのだが。

 やはりこちらからも攻めるべきか。


「チッ、なんか言えよ……そらそら、もっと速くするぜェ!」


 もっと速く!? と驚きつつも加速していくジャスターの動きについていく。

 大丈夫、全部防御できている。俺には見えている。


「なんで見えてんだよ……!」


 通り過ぎれば振り向いた時には既にこちらに飛びかかっている。

 少し横ステップで位置をずらした攻撃を混ぜてくるので予測も難しくなってくる。

 でも、それでもしっかりと見えている。ジャスターの動きが分かる、見失うことなんてない。


「ここ!」

「んなァ!?」


 試しに飛びかかってくる位置に刀を振るうと、爪に当たったらしくジャスターを弾き飛ばすことに成功した。

 なんだ、案外攻撃通るじゃん。これなら次からカウンターを狙ってもいいかもしれない。


「クソッ、もっとだ、もっと加速してやる!」


 ここに来て速度が上がるとは。

 一発一発受けるごとに速度が上がっていく。異常なまでの速度だが、どういうわけか俺の身体はその速さについていけている。

 確実に成長している。速さに慣れるよう修行もしていたのだ。

 ホーンラビットの時もそうだが、こうして実際に高速で動く敵を相手にしたときに自分が成長していることを実感できる。

 今だって、前だったらただの影でしかないジャスターの動きが見えているのだ。狙うなら、今!


「……たりゃあ!!」

「ぐっ……がああ!」


 今度は確実に傷を負わせた。

 腕から血が垂れている。惜しいな、切断までいければよかったんだけど。

 斬られた本人は、信じられないといった表情で俺を見つめていた。


「う、嘘だ。そんなわけ無ェ……! テメーは、つい最近まで僕の動きが見えていなかったはずだ……!」

「来ないの?」

「あまり舐めるなよ。ここからが僕の本気だ」


 ジャスターの目がさらに赤く光る。

 再び正面から突っ込んできたと思ったら、今度は背後ではなく地上から少し離れた位置までジャンプしていた。

 何のつもりだ、と思っているとジャスターの足元が歪んでいるように見えた。

 次の瞬間、ジャスターは何もないはずの空中を蹴った。


「ええええええええ!!!!!」


 驚きを隠せない。どういう理屈だ。いや、魔法のある世界で理屈を考えても仕方がない。俺だって意味の分からない動きができるのだ。今更すぎる。

 それにしたって空中ジャンプ、本当に存在していたとは。『トワイライト』でもできなくはないけど、せいぜい一回か二回だったはず。

 今こうして思考している間にも、ジャスターは着地せずに何度もこちらに襲い掛かっている。となると『トワイライト』のスキルではないのか。


 しかしこのままではまずい。今までの地面を蹴るタイミングなどで動きをある程度予想できたが、これでは予想ができない。

 完全に感覚で防御している。立体的な動きは森の中でのホーンラビットを思い出させる。


「〔キルタイム〕」


 発動時間は短いが、これがジャスターの切り札ならこの技で勝って見せる。

 〔キルタイム〕を発動させると、先程とは打って変わってジャスターの動きがさらに見えるようになる。

 世界が少しだけ遅く感じる。ジャスターの姿がはっきりと見える。


「ひゃははははは!!! そんな技で僕が倒せるかよォ!!」


 ひゅんひゅんと飛び回るジャスターは、猫というよりは虫だ。

 この感覚、ゲーム内ではなく現実で覚えがある。そう、それは夏の日のこと。

 身体の周りを飛び回る忌々しい蚊、ハエ。ああ、そう考えたら鬱陶しく思えてきた。

 それなら、ハエ叩きのように叩いてしまえばいい。

 ひゅん、ひゅん……そこっ!


「――御免っ!」


 ホーンラビットを斬りつけた時と全く同じ動き。身体をずらし、そして刀を振るう。

 相手の動きを完全に見切り、一撃で勝負をつける。


「え……?」


 ジャスターは俺に斬られ顔からずざざっと落ち、地面に転がった。

 太ももの辺りから綺麗に切断された、右足だけを残して。


「ジャ、ジャスター!?」

「あ、足が……僕の足がァ!」


 地面を這いながら切断された右足に近づこうとするジャスター。

 もう俺を倒そうという意思は感じない。戦えもしないだろう。

 一方審判役のリスティナは、口をあんぐり開けて驚いていた。


「俺の勝ち、でいいよね」

「う、うん。流石レクト様! じゃない、ちょっと何してるの~」

「あ、足……足が……」

「そんなのミカゲさんに頼めば何とかなるんじゃな~い? 分かんないけどっ!」


 ジャスターは自分の足が切断されたのがよっぽどショックだったようだ。もっと冷静だと思ってた。

 でもまあ気持ちは分かる。切断された身体の一部が腐敗し始めたらもうくっつかないもんね。

 無論俺は回復してやろうとは思っていない。ここで死ぬならそれまでだ。

 それにしてもリスティナは最初こそ驚いていたが反応は冷たい。仲悪いのかな。


「――――全く、何をしているんだいキミたちは」

「っ!?」


 勝った勝ったと油断していると、突然落ち着いた男の声が聞こえてきた。

 振り返ると、その場にいるはずのない男が、そこにいた。

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