093 コレクター、大王にお願いする
すげー試合だった。
時間的にはとても短く、ほんの数分だけしか戦闘を行っていない。
なのに、とても熱いものを感じた。今までのエリィからは考えられないような吹っ切れた攻撃に、それに対抗する業火の拳。
あの真っ向勝負でエリィに対する気持ちが大きく変わった。あいつは強くなる。間違いない。
「ガハハッ! まさか全員が勝ち上がるとはな!」
場所は変わって、俺は今運営のいる部屋に来ている。
俺とドレイクの試合が始まる前に大王に会いに来たのだ。
「これを機に人間に対する考え方を変えてほしいな」
「うむ、正直舐めていたな。ロンテギアには同じような強さの者がいるのか?」
「……それはまだだけどね。でも、人間にも可能性ってのはあるんだ。他種族だけじゃないよ」
全体で見たら人間は弱い。それは仕方ない。
しかし、人間からも天才は出るのだ。俺はまあ、参考にしてはいけないけれど、カリウスは参考になる。
魔法とも武技とも違うあの能力。あれこそが可能性だ。
「して、なぜわざわざここに来たのだ」
「俺とダラカの試合なんだけど、まず観客にも被害が出ると思う」
「であろうな」
「ってことで、防護壁とか作れないかな」
そう、俺は大王に防護壁を作るようにお願いしに来たのだ。
俺とドレイクの試合は今までの試合とは比べ物にならないくらい被害が出るだろう。
特にドレイクだ、あいつの炎は大きすぎる。あと、俺の攻撃もそれなりにね。
「知らぬかもしれんが選手に魔法使いがいる場合〈魔法壁〉で魔法の影響が出ないようにしている。それでも心配ならば、もっと腕のいい魔法使いを呼ぶがどうする?」
「じゃあそれでお願い。あと、それも壊れたら心配だしすぐに避難できるように兵士を増やして」
「そこまでする必要があるのか」
「あるよ」
次の試合、俺は“【魔術師】”で戦う。
なので魔法対炎になるのだ。観客席に被害が出ないわけがない。
「ふむ……よいだろう。おい、今の話は聞いていただろう? 急ぎで第三魔法使いを集めよ。兵士の数も増やせ」
「は、はい!」
ありがたい。これで心置きなくドレイクと戦うことができる。
それでもまあ、心配なことはあるので第五魔法を使う時は気を付けなければ。
「既にお主には全面的に協力するつもりではあるが、決勝も期待しておるぞ」
「後悔はさせないようにするね」
ドレイクとの戦闘は、一回勝っている。
それも竜の状態での戦闘でだ。
今回は人の状態での戦闘なので、勝つことができれば完封したことになる。
身体が小さくなればそれだけ当てにくいので、逆に強くなっているかもしれない。
特にあの青い炎。エリィ相手でさえまだ使っていなかったのだ。それに、俺は青い炎と戦ったこともない。
今から楽しみで仕方ない。トワの森での戦闘で、何度か魔法で戦ったことがあるが、強力な魔法は使うことができなかったのだ。
* * *
第三魔法使いが集まるまでの間、俺たちは待機所で休息を取っていた。
俺は魔力だけでなく、体力もかなり使ったのだ。さらに精神的な疲れも癒す必要がある。
そして、魔力を多く使ったのはエリィも一緒だ。
「おはようエリィ」
「ん……あ、あれ? 私……」
「いい戦いだったよ」
魔力を削られ気絶したエリィが目を覚ましたので、俺は素直にそう声を掛ける。
「そっか、負けちゃったのよね私」
「そりゃあね。というか、ドレイクをあそこまで追い詰めるとは思わなかったよ」
最後の攻撃で、ドレイクもかなり消費していた。
もしあの攻撃の後にまだ動けていたら、強力な一撃をドレイクに入れることができたかもしれない。
正直俺もあの攻撃は避けるのがやっとだと思う。武技で受ければ何とかなるかな? 魔法は……ダメだね、火力が足りない。
避けて、その後に魔法を使う方がいいと判断するだろう。
一発一発の攻撃が強力な武技並みのドレイクがおかしいのだ。
「私ね、戦おうと思うの。強くなって、みんなの役に立ちたい」
「帰ったらトワの森で修行だね」
「そうね、もっと本気でやるわ」
何はともあれエリィが一歩踏み出してくれたのはとても嬉しい。
本当ならトワの森での修行に参加してほしかったのだが、毎回錬金術の方が大切だと言って参加しなかったのだ。
もちろん錬金術も重要だが、こうして強くなろうと思ってくれたことはとても喜ばしい。
「そういえば、オルタガは大丈夫かな」
オルタガは悪魔の国だ。その国の国宝がジャスターたちに奪われてしまったら、いよいよピンチになってしまう。
アルゲンダスクの国宝は確実に手に入りそうだが、それでも国宝は二つ。ロンテギアの国宝は相手が、オルタガの国宝はまだオルタガに残っている。
ここでの用事を終わらせて早いとこオルタガに向かいたいところだ。
そのためにも、ここで最高の戦いをする。
そう決心し、俺は試合開始を待つのだった。




