090 天使、久しぶりに喋る
結論だけ言おう。エリィ、ドレイクの戦闘は特に面白みもなく終わってしまった。
当然というか、強者ではあっても優勝候補として名前も上がらない相手なのだ。『ワルキューレウェポン』を使うエリィは武器の性能で一気に倒し、ドレイクは普通に殴り倒していた。
俺とカリウスももちろんのこと、苦戦なんてせずに勝ち進んだ。カリウスは木剣を使い気絶させ、俺は面倒になり『パラリシスダガー』で麻痺させた。
俺とカリウス、エリィは既に準決勝が決まっており、もうすぐ戦うドレイクが勝てば四人全員が四位以内になる。
よそ者がランキング制覇しそうになり、会場は困惑しながらも盛り上がっていた。中にはブーイングする者もいたが、強さを競う大会なので何の意味もない。
「やってくれましたね……」
「おっ、トレバーさん。どうしたんですか」
「どうしたんですかじゃないですよ、なんですかこれ。なんなんですかこれ。なんすかこれ」
若干キャラ崩壊しているトレバーさんに問い詰められるが、俺たちが強いとしか言いようがない。
「んー、皆が強いとしか。ド……ダラカは人間じゃないから普通に強いでしょう? エリィは俺が渡した武器と、中にいる天使……セラフィーの影響で強くなってます」
今エリィが普通の剣を使って戦った場合、間違いなく勝ち上がることができないだろう。
『ワルキューレウェポン』とセラフィーの魔力が無くなったらちょっと戦闘経験があるただの錬金術師だ。
「カリウスは武器の性能もありますが木剣での戦いで優勝候補に食らいついたので素の強さもあります。俺は……武器とか、装備で強くなってます」
鍛えてはいるが、俺だって普通の剣で戦った場合楽勝はできないだろう。
『トワイライト』でのパラメーター補正があるため筋力や速さなどには自信があるが、それでも技術的な面はまだまだ劣る。
でもドグマに勝てたのは誇っていいよね? 最後に『ツムカリ』を使ったのは観客に被害が出そうだったからで、そうじゃなかったら拳で倒してたし。
「え? ドグマ相手にほぼ素手で戦ってませんでした?」
「あー、こいつ無駄にコンプレックスあるんだよな。お前は素でも十分すぎるくらいに強くなってるよ」
「そうかなぁ?」
コンプレックスかぁ、確かにあるかもしれない。
自分がズルをしているという感覚はあるのだ。そして自分がこの世界に関わっていいのかとも。
だから素の強さが欲しかった。せっかく自信をつけたのだ、素の強さも認めないと。
「素人が少し修行しただけでああなるんだから強いに決まってるだろ」
「強い相手と戦ってるからだよきっと」
「おっ、言うなぁ。でもまあ、確かにそうなのかもな。お前やドレイクと戦うようになって急激に自分が成長していることに気付いたし」
この世界の剣士は魔力による加速や筋力増強などで、異常な動きができるようになる。
そう、それはゲーム内での動きに近い。
そして強い人と戦えば、この世界にあるのかは分からないが経験値を多く手に入れることができる。
カリウスは急激にレベルが上がり、スタータスが一気に上がったような状態なのだろう。
「ドレイク?」
「ダラカ! ダラカな!」
「もう隠す意味あるのこれ」
がっつりドレイクの名前を言ってしまいトレバーさんに不審がられてしまった。
正直もう隠す意味なんてない。ただ警戒されたりして、説明するのが面倒なだけなんだ。
「ええと、ドレイクとはまさか……?」
「まあ、ご想像の通りです。後、俺は『トワイライト』に出てくるライトと同一の存在です」
ジークフリートとシグルドみたいな感じかな。違うか。違うね。
「『トワイライト』の……なるほど、強いわけです」
「あれ、あんまり驚かないんですか」
「いや、シウニンさんにレクト様はとんでもない人だから気を付けた方がいいと言われてまして。これでもかなり驚いてるんですよ?」
「なるほど。シウニンさんめ」
初見のリアクションが面白いからいいのに、先に匂わせをしていたとは。
まあ引くほど驚かれてしまうよりは何倍もマシか。
「何の話してるのよ?」
「あ、エリィ。お疲れ様」
連続での試合で身体を休めていたエリィが戻ってくる。
戦い慣れていないと、長く戦うこともできないのだ。正直俺も疲れている。
「えっとね、ドレイクの話とかトレバーさんにしちゃったよ」
「え!? いいの?」
「もう十分信用されてるからねー。大王に直接伝えるのは……流石に面倒だからトレバーさんに任せたいし」
「なっ、それが狙いですか……!」
だって大王にライトですって言ったら絶対何かやってくれって言われたりして面倒そうじゃん。
興味を持ってくれるのは嬉しいが、本題からズレてしまってはいけない。とまあ言い訳してみたが本当は「ライトなら何かやって見せよ」みたいなのが嫌なだけなのだ。
どうせ今回の試合で実力を見せるのだから信じそうではあるが、魔法も見せろとか言ってきそう。
逆の立場なら俺も何か言ってる。他に武器はないのかとか、持ってるアイテム全部見せろやうへへへとか言っちゃう。
「ふぁいやああああああああああああ!!」
突然、熱風が闘技場を包んだ。
いや、俺たちが試合に集中していなかっただけで突然ではないか。
咄嗟に下の試合を見ると、遠くに吹き飛ばされた獣人が見えた。中央には拳を突き出したドレイク。
一撃で終わらせたらしい。歓声は上がらずどよめきしかない。一発殴るだけでこの熱風。恐怖しかない。
「私、棄権しようと思ってるのよねー……」
「全力で戦ってよ。これ、領主からの命令だから」
「ううっ、うちの領主が鬼だわ……」
肩にぽんと手を置くとエリィがそんなことを言い始めた。
心外だな。俺はエリィのためを思って言っているのに。
「エリィ、案外行けるかもしれないぜ?」
「馬鹿しかいないわ……」
同じくもう片方の肩に手を乗せたカリウスにもそんなことを言う。
まあ……うん。エリィに勝ち目があるかと聞かれたらあれだね。
「自分でできるところまで戦ってみてよ。もう無理って思ったら、セラフィーと交代していいからさ」
「それなら……」
エリィがほんの少し妥協したタイミングで、目の色が金色に変わった。
「戦っていいんですか! やったー!」
「久しぶりセラフィー」
久々にセラフィーと会った。
別に話したいことがあるわけじゃないが、あまり会話をしたことがないので仲良くなりたい。
エリィは身体を操られるのが苦手らしくほとんど肉体を貸さないのだ。おかげで友達にもなれてない。
「はい、お久しぶりですレクトさん!」
「そんなキャラだっけ」
「だって久しぶりに身体動かせるんですよ? 見てるだけっていうのも退屈なんです」
想像もできないが、ただ見ているだけ、聞いているだけで何をするでもない時間が過ぎていくのは苦痛でしかないだろう。
そう考えるともう少し身体を貸してあげてもいいのではと思ってしまう。ほんの少し前まで天使として生きてきたのだから。
「んんんんっ! とにかく、やれるだけやってみるわ」
「エリィ、たまにはセラフィーに身体貸してあげなよ」
「……そうね。でも今はダメだから!」
目の色を戻したエリィがそう言ってくれた。セラフィーとゆっくり話せる日が楽しみだ。
次は……準決勝、俺とカリウスだ。全力でぶつかろう。
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