084 炎竜、火力勝負をする
「結局ホーンラビット見つからなかったぁ……」
アルゲン山脈の麓に向かうまでの間、草原を駆け回っているであろうホーンラビットを探していたのだが、結局見つけることはできなかった。
当然、ホーンラビットの森にも入った。のに、いなかったのだ。おそらく草原を駆け回っているのだろう。
「おーい、早う出てこんかー。このわしが相手してやるんじゃぞー」
麓に到着した俺たちは、グレンライオンを探しながら歩いている。
対人以外でのドレイクの戦闘を見るのは初めてなので楽しみだ。
道中咆哮が聞こえたのでその方角に進む。
木々が減り、岩場ばかりが目立ち始める。そうなると視界も良好になり、遠くまで見渡せるようになるのだが……
いた。遠くの岩陰から陽炎が出ている。あそこだけ高温なのだろう。
「よーっし! ぶっ殺すのじゃー!」
物騒なことを言いながら走り出すドレイクを見送りながら、観戦できる場所を探す。
適当に座りやすい岩を持ってきて並べればいいか。
全速力で突っ込んだドレイクは、陽炎が揺らいでいた岩を片手で粉砕した。やば。
「グルルルルルルル……ガァウ!!!」
「キシャー!」
岩陰から飛び出し吠えてきたグレンライオンになぜか鳴き声で返すドレイク。それ威嚇になってないだろ。
グレンライオンは、巨大なライオンのたてがみが炎になっている。
フレイムキメラに近いが、尻尾はヘビになっていないし胴体は山羊ではない。
見た目だけならばただの巨大な炎のライオンだが、フレイムキメラよりも強いのは確かだ。
「うわ……化け物ね……」
「あの炎が相手だと接近戦は難しそうだな。レクトならどうする?」
「火炎耐性の装備にするか、魔法で倒すか、かな。普通の装備で戦うならたてがみの炎を避けながら炎の少ない胴体を斬りつける……とか?」
燃えるたてがみが邪魔で近づくことができない。
ゲーム内の戦法は熱を感じないのが前提の動きなので通用しない。この世界の人が戦うのならさっき言ったように避けて胴体を斬りつけるくらいしかなさそうだ。
「ほらほらほらほら! 貴様の炎はその程度かぁ!? ぬるすぎるのじゃ!!!」
「ガアアアアアアアアウ!!」
完全に楽しんでいるドレイクは炎に炎で対抗していた。
グレンライオンの火炎放射に対し、ドレイクは両手から炎を放出する。
炎と炎がぶつかり合い、凄まじい熱風が辺りを包んでいた。
「あっちぃな……こういう時鎧が邪魔だぜ」
「ねえレクト、あれないの? 涼しくなるネックレス」
「ああ、『冷気のネックレス』ね。えーっと確か……」
シャムロットの火山で使った『冷気のネックレス』を二人に渡す。
俺も同じものを装備し、熱気から身を守った。ふう、涼しい。
「炎対炎で勝てるの?」
「火力が強い方が勝つでしょ。圧倒的な火力で飲み込んで、全てを焼き尽くす。漢だね」
「漢だな」
「いや、ドレイクは女の子でしょう……」
そんなことは分かってる。心意気の話をしているのだ俺は。
そうこうしているうちに、ドレイクは火力をどんどん上げている。
おそらくどの程度の火力で上回ることができるのかを試しているのだろう。
「バァァァァアァアアアァァァァァニング!! なのじゃああああああああ!!!!」
「ガァァァァァァウ!?」
勢いに乗ってしまったドレイクは、試しているのも忘れて火力を一気に上げた。
すると、炎が青く色を変える。その炎はグレンライオンを火炎放射ごと包み込んだ。
炎の放出を止めたドレイクは、こちらを見ながら親指をぐっと立てた。いや、サムズアップじゃないが。なんすかそれ。
「これがわしの新形態! ブルードレイクじゃ!」
そう言いながら笑うドレイク。今まで真っ赤だった服装や髪の毛には青色のグラデーションが入っていた。
角も青と赤になっており、全身の色が変わっただけでがらりとイメージが変わっている。
あれは……炎の温度を極限まで高めた結果一時的に姿が変わる、ということだろうか。
「ガ、ガァウ……!」
「ぬ、まだ生きておるのか」
グレンライオンは焼けこげ息絶えたかと思っていたが、自らの身体の一部が炎であるからか身体の至る所に焦げが見えるだけでまだ生きていた。
そればかりか、逃げるわけでもなく立ち続けていた。すごいね、まだ戦えるんだ。
「ならばわしの最強の技で沈めてやろう。覚悟するのじゃ」
ドレイクは両手に青い炎を宿しながらゆっくりとグレンライオンに近づく。
両手の炎は形を変え、細長い棒のような形状に変わる。
左手でその棒をなぞると、棒がさらに形を変えた。あれは、剣か?
「蒼炎剣」
そう呟きながらドレイクは剣を下に構え、振り上げた。
地面を抉るように炎の剣を振るうと、その衝撃波が地面を裂きながら真っ直ぐにグレンライオンに向かっていく。
そして、その抉れた地面から青い炎が吹き出した。
衝撃波がグレンライオンまで辿り着くと、グレンライオンは炎に包まれながら胴体を両断された。
「ガ、ァウ……」
「楽しかったのじゃ、炎の獣よ」
小さく呟きながらドレイクは蒼炎剣を炎に戻し、消した。
そのまま姿は以前のような真っ赤な服装と髪の毛に戻る。やはり一時的なものだったか。
「どうじゃったどうじゃった?」
「いや……流石だね。後で今の状態のドレイクと戦わせてよ」
「オレもだ!」
「ぬっふっふ、いいじゃろういいじゃろう!」
自慢げに笑うドレイク。あの炎を相手にするならやはり火炎耐性のある装備に身を包んだ方がいいかな。
そういえばエリィ一人だけ黙ってるな。どうしたんだろ。
「どしたの、エリィ」
「……いや、あはは……なんか私なんかがここにいていいのかなって」
ドレイクと対等にやり合っている俺たちに対し、自分の実力不足などを痛感したのだろうか。
まあ、エリィが強くなるのは自衛のためというところが大きいしセラフィーがいるからそこまで気にしなくてもいいと思うよ。
「おいおい、それを言ったらオレだって似たようなもんだろ。エリィと戦ったら空中から一方的にやられるぞ」
「遠距離の相手との戦闘がカリウスの課題だね」
カリウスは接近戦専門なので空中戦は他の人に任せればいいのだが、対応できるのならできた方がいい。
あの剣の光を利用して攻撃ができるかも? まだまだ修行が必要そうだね。
「よし、次はホーンラビットだよ!」
今まで見つけることのできなかったホーンラビットを探し、完膚なきまでに叩き潰す!
足が速いということで、一度逃げられたジャスターと同じような特徴の敵と戦いたかったのだ。
さあ草原に駆けだそう! 絶対に見つけてみせる!




