083 村娘、空中戦をする
ストロングベアの戦闘が終わり、俺たちは一つ目の森を抜けた。
そして、次の目的地であるマジカルコンドルのいる森に向かう。
さて森に入ろう、そう思ったところで鳥特有の高音の鳴き声が聞こえた。
「エリィ! 準備!」
「わ、分かったわ!」
まだ戦わないだろうと思っていたのか、エリィはどうすればいいか分からずにおろおろしていた。
戦闘経験が少ないため咄嗟の判断ができないのは仕方ないが、マジカルコンドルは大丈夫でもジャスターやリスティナを相手にすると危ないかもしれない。
セラフィーがいるのである程度の安全は確保されているが、さてエリィの実力はどうだろうか。
「ピュィーーーッ!!!」
「く、来る!」
木々の中から紫色のコンドルが飛び出してきた。太陽と被り、逆光で反応が遅れてしまう。
よく見ると、急降下しようとしているようだ。それに気づいたエリィは羽を生やし、『ワルキューレウェポン』から光を放つ。
戦闘中は応援や観察をするため、俺たちは草原に座り込んだ。ふう、やっと座れる。
「工夫とかよくわからないから、さっさと終わらせるわ!」
弓の形になった『ワルキューレウェポン』から光の矢が射出される。
エリィに向かって突っ込んでくるマジカルコンドルはその光の矢を正面から受けた。光が弾け、攻撃が入ったかと思われたが、マジカルコンドルはその光を突き破って進み続けていた。
「そ、そんなっ!?」
突破されると思っていなかったエリィは光で盾を創りガードする。
クチバシが盾に突き刺さるが、そこはランク4の武器、突破されることはなくエリィを守り切って見せた。
「エリィ! あいつは多分魔力で壁を作ってるから光の矢じゃ止められないよ!」
「なら、剣……? それとも槍かな……」
『ワルキューレウェポン』は選択肢が多いため迷うのはよくわかる。
実際、『トワイライト』でも選択肢が多く万能ではあるが器用貧乏ということであまり使われてはいなかった。
剣だけ、弓だけという戦闘スタイルならば感覚で戦うことができるのだが、やはりこの武器は使い慣れなければ強みは出ないか。
「ピュイイイイイイイ!!」
「っ……! 迷ってる、暇がない……!」
おそらく魔法で加速しているマジカルコンドルが何度もクチバシで突こうと突撃している。
そのたびに盾を創りガードしているが、このままでは決着がつかない。
「だったら、上を取る!!!」
エリィは天使の羽を広げ、マジカルコンドルよりも高い位置に飛んだ。
これで滑空による加速が無くなった。だが魔法で加速しているのだったらそれでも突進はされるはずだが、果たして。
「ピュイイイイーーーー!!!」
「火!?」
マジカルコンドルは突進ではなく、火の玉を飛ばしてきた。
〈火球《ファイヤーボール》〉と全く同じ大きさ。なるほど、第一魔法を使うモンスターか。
『トワイライト』にも魔法を使ってくるモンスターは多く存在していた。
「おお、モンスターが魔法を使うのか。すげーな」
「うむ。強力なモンスターには魔法を使う者もいるのじゃ」
この世界で魔法を使うモンスターがいるとは。
シャムロットの冒険者活動でも魔法を使うモンスターとは戦わなかったので存在していないと思っていたのだが……
「そりゃーーーっ!!」
エリィの光の矢がマジカルコンドルの〈火球《ファイヤーボール》〉を相殺する。
ほお、あの光の矢を相殺するとは。相当強い〈火球《ファイヤーボール》〉なのだろう。
その後も空中での遠距離戦が続く。エリィもマジカルコンドルもお互いに近づけないでいた。
「……このままじゃ、近づけないわ」
負けはしないが、決定打がない。
俺だったら魔法を避けて無理やり近づくが、エリィにその技術はない。
相手の魔力切れを待つか? いや、それじゃ時間がかかりすぎる。
「ピュィーーーーーッッッ!!!!!!」
マジカルコンドルの出す魔法の勢いが増した。
緑色の刃とさらに大きく範囲が広くなった炎。
〈風刃〉と、〈火炎〉だ。
「第二魔法……!」
モンスターが二種類の魔法を、しかも片方は第二魔法を使ったことに軽く感動する。
魔法に長けたエルフやフェアリーがなんとか第四魔法を使える世界で、モンスターが第二魔法を使うとは。一番強いモンスターはあの白亜のゴーレムかと思っていたが、まだまだ強い奴はいそうだ。
しかしエリィがあれに対抗できるだろうか。
光の矢は相変わらず相殺しているが、少しでも止めたら風の刃と炎が飛んでくる。
自発的に創った盾ならば防げるが、自動発動してくれる盾は連続では防いでくれない。
創った盾の場合防ぐ範囲が狭いため攻撃が当たってしまう。そのため光の矢を止めるわけにはいかない。
さあどうするエリィ。
「いっけえええええ!!!」
何やら叫んだエリィは、弓を構えたまま巨大な光の矢を射出した。
いや、あれは光の矢ではない。光の槍だ。
その光の槍はマジカルコンドルに直撃し……身体を貫いた。
え?????????
「ほー、あの武器は便利じゃな。弓を使いながら槍も放てるとはの」
「いや、不可能なはずなんだけど……ええ?」
「ん? 不可能ってどういうことだよ」
俺の言葉に反応したカリウスが少し興味を持ち聞いてくる。
「あの武器はゲーム内のシステム上、武器の形にした状態で別の武器を作ることはできないんだ。だから、あの状況を突破するには無理やりにでもあの場から動いて魔法を避けるしかないと思ってたんだけど……」
「よくわからねぇが、それが出来ちまってるんだろ?」
「俺もよくわかんないよ! なにあれ!!」
ゲーム内で再現できないことをエリィはやって見せたのだ。
もう混乱しまくり。ゲームを基準に行動していたので今後の戦い方も変わってくるかもしれない。
それを言ったらまた特殊な武器の出番も増えるし……あーもうわからん!
「ど、どうだった!?」
「ええと、強いには強いけど戦闘技術で相手に負ける可能性が高いから、動くことも意識して戦うといいと思うよ」
どうだったかと聞かれたので軽くアドバイスを送る。
エリィの戦闘技術が足りていないので、武器でのごり押しになってしまっている。
あれではやはりジャスターやリスティナには対抗できないだろう。
って、今はそれどころじゃない!
「それはそれとして! なにあれ! なんで弓で槍を射出できるの!?」
「や、やってみたらできたのよ……なんでそんなに焦ってるのよ」
「レクトの世界だと弓を装備してるときに槍は作れないんだとよ」
「そうなの?」
エリィも知らずにやったということか。
そうなると、この世界では『トワイライト』のルールに縛られない方がいいのかもしれない。
考えてみればカリウスの『騎士剣エクスカリバー』の光もゲームだと考えられないし、カリウス自身の能力とも思えない。
これはまだまだ武器たちに謎があるな……今度時間があるときに実験してやる。
その後俺たちは、ホーンラビットを探しながらドレイクの戦うグレンライオンのいる山の麓へ向かった。




