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082 騎士、クマと戦う

 小さな森に入ると、平原とは違ったモンスターが現れるようになる。

 生息地域が変わったからか、それともゲーム的な要素で出てくるモンスターが変わったか。どちらにせよ今までにない動きをするモンスターだらけだ。

 俺はその動きを体験するために【剣士(ソードマン)】で戦闘を行っている。


「む、近くにおるな」

「分かるのか?」

「わしはドレイクじゃぞ?」


 そう言われてしまったら何も言い返せないようで、カリウスは剣を構えてストロングベアを待った。

 俺も耳を澄ませ、モンスターの気配を察知しようとする。

 ……いた、遠いけどのそのそ歩いてる。

 ってあれ、だんだん速く……


「来るよ!」


 そう叫びながらカリウスから離れた。邪魔をしてはいけない。

 俺たちがカリウスから離れると、遠くから走ってきたストロングベアが飛びかかってきた。

 カリウスは引っ掻き攻撃を剣で受け止める。おお、力が強いってのは本当だったか。カリウスがきつそうにしている。

 ストロングベアの見た目は筋肉モリモリなクマだった。毛色は青で、身体の至る所に傷跡が残っている。

 その全てが切り傷なので、おそらく何人もの剣士がこの魔獣に敗れてきたのだろう。


「う、おおおおおっらあ!!!」

「ガアアアアア!!!」


 そんなストロングベアに対し、カリウスは力で対抗してきた。

 お互いがお互いを弾き飛ばし、再び攻撃し合う。

 離れているとはいえ近くにいる俺たちを狙わないのは、戦闘に夢中になっているからかそれとも真正面からの戦いにこだわっているからか。


「何よあの戦い方……」

「あれがカリウスの戦闘スタイル。自分の力をとにかくぶつける、だよ」


 もちろん剣を使った細かい動きもできるはずだが、カリウスは真正面からの勝負を選んだ。

 大技で一気に決めに行く。隙を探すわけではなく無理やり作る。そういう戦術なのだ。


「グオオオオオオオ!!」

「うおおっ!?」


 ストロングベアが腕を振り回し薙ぎ払うかのような攻撃を始めた。

 防御しながら後退するカリウス、あそこに突っ込んだら豪快に振り回される腕に当たってしまう。

 細かい動きをしながら隙を探っていたらあの攻撃を受けてしまっていた可能性がある。


「そろそろ身体が温まってきたぜ!」


 そう言いながらカリウスが両手で剣を持ち、身体の前で立てた。

 『騎士剣エクスカリバー』が黄金の光を放ち、カリウスの周りにも黄金の光が現れる。

 あれの正体は何なんだろうか、なんて思いながらもパワーアップしたカリウスの戦闘を見守る。


「ふっ、はっ! はああ!!」


 速い。明らかにカリウスの手数が増えている。

 先程よりも回数の多い攻撃に、ストロングベアは受け止めきれずにのけぞった。

 その隙を狙ってカリウスの剣がストロングベアの身体に当たる。

 しかし毛皮が厚いのか、血は出たものの致命傷には至らなかった。

 なるほど、これが身体中にある傷跡の正体か。


「まだ浅いか……!」


 もしあの場面でカリウスが剣の長さを変化させたら深い傷を負わせることができただろう。

 外から見ればあの時ああすればいいと言えるのだが、実際に戦ってみると咄嗟の判断は難しいものだと痛感する。

 戦っている本人にしか分からない物は確かにあるのだ。スポーツとかにも言えるね。


「グ、ウオオオオオオオウ!!!」


 ビルドアップ! ストロングベアは筋肉を盛り上げ、サイドチェストなどのポージングを取った。

 え、この世界にもそういうポージングってあるの?

 何はともあれストロングベアも本気を出してきた。攻撃を食らったらひとたまりもないだろう。

 後半のぶっ壊れモンスターみたいなものだ。ここにいていいのかこんなのが。


「おお! クマもパワーアップしたのじゃ!」

「すげぇ! 頑張れカリウス! 負けるな!!!」

「何よあのポーズ……」


 ちゃっかり筋肉だけでなく観客席も盛り上がっていた。

 ここにポップコーンとコーラが無いのが惜しい。かっとばせー! カーリウス!


「ヴォウ! ヴォオオオオウ!」

「近づけねぇか……!」


 ブォンブォンと物凄い音を立てながら腕を振り回すストロングベア。

 それに対し上手く近づくことのできないカリウスは距離を保ちながら出方を見る。

 痺れを切らしたストロングベアが範囲攻撃ではなく一転攻撃で飛び上がりながら両拳を叩きつけてきた。


「なんつー……パワーだ……!」


 それを正面から受け止めたカリウスはガリガリと剣を押されていく。


「はあああああああああああああ――――!!!」


 しかし、ここで押し負けるわけにはいかないと言わんばかりにカリウスも気合を入れていく。

 黄金の光が増していき、一気に放出された。

 剣が伸びただけでなく、剣からの力強い光がストロングベアを押し上げたのだ。

 両手を上げながらのけぞるストロングベア。大きな隙ができた。


「これで、終わりだ!!!」


 さらに剣から光を放出し、地面を蹴った。

 振り下ろした剣はそのまま、ガードの外れたストロングベアの肩から力強く切り裂いていく。

 ストロングベアは血をまき散らしながら仰向けに倒れた。

 決着がついたか。俺たちは肩で息をするカリウスに駆け寄った。


「お疲れカリウス。どうだった?」

「久しぶりに本気の戦いをした気がするぜ。あの光を使うまで時間がかかっちまった」


 確かに最初は光を放っていなかったし、最初の光と後半の光は大きく違っていた。

 ゲーム的な目線からの予想だが、何かしらのゲージでもあるのだろうか。

 ゲージを溜めたら光が強くなる……みたいな。それともただ調子が出るのが遅かっただけか。


「お主、手を抜いとったじゃろ?」

「バレてたか」

「ええ!? あれで手を抜いていたの?」


 カリウスの言葉にエリィが声を上げた。

 俺は少し気付いていたが、どのくらい抑えていたのだろうか。


「おう。あの光を出すことに意識を集中させてたからな。普通に戦えば、光無しでも十分倒せる」


 だろうね。カリウスは普通だったら一気に倒せていたはずなのに、様子を窺いながら戦っていたのだ。

 手を抜いていたのは自分の戦い方などへ意識を向けていたからであり、相手の動きを観察するためでもあった。

 ただ倒せばいいというわけではないのだ。

 俺が戦う時も、何かしら意識しながら戦闘をしようか。

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