008 コレクター、貴族に絡まれる
玉座の間から出た俺とカリウスは、廊下で休憩を兼ねて雑談をしていた。
流石に王様を前にすると精神的な疲労がすごい。らしい。俺は特に気にしていなかった。もし何かあったら全部ぶっ壊して洗脳でもすれば終わる話だ。ダメだったらその時さー。
「はぁ、ルディオ王子と面識があったのか。すごいな」
「らしいね」
「らしいってなんだ」
しまった。
「いや、特にそれといった関わりないし。向こうが一方的に知っているというか」
「王子に一方的に知られるって……お前ならありそうだな」
「まあね」
はい、何とか誤魔化せた。
こういう時に変人属性は役に立つ。無茶苦茶なことがあっても、「まあこいつなら……」で済む。
誰が変人だおい。
と、セルフツッコミをしていると再び王座の間の扉が勢いよく開いた。本日二度目である。
そして開けたのは同一人物。その扉壊れない? 大丈夫?
「レエエエェェクトォォオオオオオ!!!」
「!?」
「はあ……」
面倒ごとが向こうからやってきた。
休憩なんかせずにさっさと街に繰り出せばよかったのだ。それでも王都は廻ってるんだから。
先ほど見た偉そうな顔をした(実際偉い)ルディオ? がこちらに詰め寄ってくる。なにさ。
「貴様ァ! 落ちこぼれの分際で第四魔術師を見たとは何事だ!」
「落ち着けって、ラジオ」
「ルディオだ!」
え、じゃあその頭のアンテナなに? アホ毛にしたってピンとしすぎでしょ。
そしてアホ毛というチャームポイントがあるにも関わらず顔が気に食わない。どうなってるんだ、アホ毛あって好かれないとか異常だぞ。
「それで、えーっと、第四魔術師だっけ? それが何」
「何って、人間の力ではたどり着けない第四魔法を見たんだろうが! この俺よりも先に落ちこぼれの貴様が第四魔法に触れることなどあっていいはずがない!」
「無茶苦茶だなぁ」
ラジ……ルディオも魔術師なのだろう。魔術師ならば、人知を超えた魔法をお目にかかりたいと。そういうわけだ。
そして、自分より先に落ちこぼれの底辺である俺がそれを見たから怒っていると。なんだそれ。
「誰かと思えば男女じゃん、女子トイレはあっちだぞぉ?」
「どの面下げて王都に戻ってきたんだよ。弱小領地に逃げたくせにさぁ!」
ナチュラルに会話に参加してきた二人は、青髪と赤髪の男だった。服装からして貴族だろう。
こいつらは俺を知っているらしい。なるほど、落ちこぼれとして有名だったのか。
ちょwww俺有名人じゃんwww通知止まらない(笑)
にしても当然のようにルディオの左右に立つとは。にらみつけるさん増えちゃったよ。ファ〇ヤーとサ〇ダーとフリー〇―なの?
「やあ! 久しぶりだねダニエル! ブライアン!」
「は?」
「あ?」
なんかキレられた。
だって名前知りませんですしおすし。
「ま、そんなのはどうでもいいんだ。それよりさ、弱小領地って何?」
そこだけは聞き逃さなかった。
俺の領地を馬鹿にしやがったな? ゆるざんっ。
「こいつ……! へっ、自覚がないなら教えてやるよ。トワ領はなぁ、他のどの領地に比べても落ちこぼれのカスなんだよ。お前みたいになよなよした女男にはぴったりの場所だぜ?」
赤髪貴族は馬鹿にするようにそう言った。
それを聞いて、青髪貴族とルディオは下品に笑う。おいおい、貴族がそんな笑い方していいのかよ。お下品ですわよ。そうわよ。
しかし落ちこぼれの領地か。確かに周りからの認識はそうだろう。土地の資源は確かに少ない。
「そう? 俺はそうは思わないね。あそこの村人たちは優秀な人材だよ。みんな相当見る目が無いんだね」
「なんだと?」
もう全員青筋を浮かべているので誰がそう言ったのか判別がつかなかった。俺には全員同じ声に聞こえるんだ。ごめんね。
これを大学生全員同じ顔に見える現象と名付ける。人の顔とか覚えるの苦手なんだ俺。
ああそうだ。トワ村の村人たちが優秀だと思っているのは本当だよ。
俺が種の栽培をお願いしてから、村人たちは寝る間も惜しんで必死に研究をしていた。
そしてこの数日で発芽したのだ。早い、早すぎる。これもひたすら農業を続けてきた村人たちのおかげだ。俺がやったらもっと時間がかかっていただろう。
現に俺がプランターで家庭菜園している花は発芽していないのだ。なんでだ。
すごい。農民すごい。かてなぃ。どぉせゥチゎ農業できないってコト。今野菜切った。もぅマヂ無理。全部任せょ。
「お、おいレクト。その辺にしておいた方が……」
「トワ村を馬鹿にされたんだよ? ならやり返さなきゃでしょ」
止めに入ったカリウスに、俺は真顔でそう言い放った。
自分の所有物を侮辱されたら、手を出されたら誰だって怒る。やられたらやり返してあげなければ失礼に当たるというもの。
俺の言葉を聞いて、三人組が再び吹き出した。
「やり返すだと? ぷっ、ははははは!!! 落ちこぼれのお前が? このルディオ様に?」
ルディオに続いて、隣の二人も指をさしながら笑い出す。
ま、俺は馬鹿にされても特に気にしないんだけどさ。こうも俺は偉い! って態度の人間はムカつくな。なんだろう、生理的に無理。女になったからかな。いや女にはなってねーよ。
とりあえず何を言っても笑われるだけだ。やり返すのは成果を上げてからでも構わない。
俺は三人に近づき、目の前で止まる。
「あん?」
キャスケットのツバを持ち、それを持ち上げながら顔を上げる。
そして、至近距離で睨みつけた。これで俺もにらみつけるさんの仲間入りだ。
息を吸い込み、小さく一言。
「後悔しないでね」
「……うっ」
三人は俺の顔を見て顔を赤くした。
挑発したのだ、怒ってもらわないと困る。怒って怒って、冷静な判断ができなくなればいい。
流石にここで暴力に走らなかったか。まあいい、どうせ近いうちにトワ村が認められるのだ。
馬鹿にしていた相手が日の目を浴びる。それはこいつらにとってとてつもない屈辱だろう。その日を楽しみにしていろ。
「ま、久しぶりに会ったんだしお土産にこれあげるよ」
俺は懐から筒状のアイテムを取り出し、ルディオに渡した。
咄嗟に渡されたため、ルディオは拒否することもできずに受け取る。
俺はそれを確認した後、ピンを抜き小走りでカリウスの元へ戻った。そして、背を向けて歩き出す。
「な、なあ。何を渡したんだ?」
渡しているところを見ていたのだろう。カリウスはそんなことを聞いてきた。
俺は背後から聞こえてくる悲鳴を聴きながら、渡したアイテムの名前を素直に伝える。
「『スタングレネード』」