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073 コレクター、バーに入る

 獣王戦に出場することが決まり、俺たちは大王への用事を終えて城下町に戻ってきた。

 さあここからどうするかというところ。獣王戦の予選は近日行われるということで今は特にやることはなかったりする。

 ドレイクとエリィはしばらく旅行ということになっているし、シウニンさんは公認でアルゲンダスクに来ているので期限の心配はない。

 つまり、好きなことをしていい。


 宿屋だけ決め、後は個人の好き勝手にアルゲンダスクの街を観光することにした。

 エリィとドレイクが一緒に観光を。戦闘能力のないシウニンさんにはカリウスがついていくことに。

 俺? 俺はボッチです。どちらかのペアについていっても良かったが、たまには一人の時間が欲しいなと思ったのでソロで活動させてもらう。

 そんな矢先。


「おっ、可愛いねー。観光? 一緒に遊ばない?」


 一人になった途端、道行く獣人にナンパされまくる。今回は狐の獣人だ。

 そうだった、俺ってば容姿がいいんだ。おまけに身長も……男にしては低いので誤魔化しが効かない。

 喋ったところで男にも女にも聞こえる声なので意味は無し。股間露出させて歩いたら解決するが論外。


「急いでる……わけじゃないけど、興味ないんで」

「えー?」


 知らん人と遊ぶハードル高すぎるでしょ。

 フルダイブVRMMORPGでさえ知らん人とパーティー組むの躊躇うのに、より現実に近いこの世界でとかストレスがマッハ。


「見ない顔だし観光でしょ? 色々教えてあげるからさー」

「色々……」


 大王やトレバーさんから獣王戦の日程や簡単な説明を聞いたが、まだまだ知らないことは山ほどある。

 例えば、前回優勝者だとか、上位常連勢についてだとかだ。それを知れたら対策もできるだろう。


「じゃあ、行こうかな」

「決定ね。それじゃついてきてー」


 狐の獣人はそう言うと、路地に入っていった。

 俺もそれについて行き、暗い路地に足を踏み入れる。

 一緒に遊ぶのが目的だったようだが、この路地に何があるというのか。


「どこに向かってるの?」

「知り合いの酒場だよー」

「へー」


 狭い通路の先に、地下へと続く階段があった。

 その下に木製の扉が見える。こんなところに酒場があるのか。穴場かもしれない。わくわくする。

 店内は暗く、そこまで広くもない。酒場、というよりバーだねこれ。雰囲気は悪くない。


「何飲む?」

「おすすめで」

「マスター、おすすめ二つ!」

「あいよ」


 狐の獣人はカウンター越しに立っていた大柄な犬の獣人に注文を伝えた。

 そして、シェイカーにお酒を数種類入れると、蓋をして降り始めた。うん、やっぱりバーじゃないか。


「えーと、今度獣王戦があるんだよね? それについて教えて欲しいなって」

「獣王戦? 可愛い顔して野蛮な祭りに興味あるんだ」

「普通の大会じゃないの?」


 貴族の剣術大会のように一対一で争うのが野蛮というのは分からなくもないが、この世界観でそれを野蛮と感じるとは思えない。

 よっぽどの箱入り娘……ティルシアみたいな子ならそう思っても仕方ないだろうが、遊んでいそうな狐の獣人が言うのは違和感がある。


「相手を戦闘不能にした方が勝ちの大会だからねー。運が悪いと死んじゃうんだよ」

「殺しちゃったらどうなるの?」

「特に何もないよ。まあ世間体は悪くなるだろうけどねー」


 ということは最初から殺すつもりで襲い掛かってくる出場者もいるかもしれない。

 そういえば説明の時にトレバーさんが「どうか命だけは大切になさってください」と言っていたような気がする。

 これはそういうことか。大王が出場するだけでいいと提案したのも分かる気がする。かなりの度胸試しになるね。


「ほら、お待たせ」

「あ、どうも」


 マスターに青い液体が注がれたグラスを渡される。

 おお、これが噂のカクテルってやつか。チビッと一口。


「あまっ」

「どう?」

「甘いけど美味しい」


 カクテルって、ジュースとお酒を混ぜたりするんだっけか。

 現実だとお酒なんてほとんど飲まなかったから、どのくらいで自分が酔うのかなんて分からない。

 でもまあ、甘くて美味しいからちびちびと飲もう。


「他に聞きたいことはある?」

「獣王戦の上位勢についての情報、とか?」

「何、賭けでもするの? 意外とギャンブル好きだったり?」

「まあ、そんなところかな」


 そうか、賭けもあるんだ。

 もし俺に賭ける人がいればおめでとうと言わざるを得ない。大穴にもほどがある。

 三連単とかあったりするのかな。俺ならレクト、ダラカ(ドレイク)、カリウスで賭けるね。倍率すごそう。初見で当たるわけがない。


「今回は毒使いのドグマと、格闘王ダルファンが注目されてるねー」

「ほお、詳しく」

「ドグマは『ポイズンダガー』を使った一刺しで決着をつけるから厄介。ダルファンは……シンプルに力が強い。ってところかなー」

「毒使いと、格闘王……ね」


 麻痺毒を使えば簡単に相手を戦闘不能にすることができる。予選は俺もそれでいい気がする。

 格闘王は……普通に脅威だ。格闘術とか、達人の動きは本当に分からない。いくらこちらが修行したとしても、格闘術だけは舐めてかかってはいけない。


「それ以外は優勝候補とかいる?」

「いやー、常連で有名なのはその二人くらいだね。国が大きいから毎回全く知らない奴が上がってくるんだよ」

「なるほど」


 漫才の賞レースみたいなものか。

 あれ、毎年定連がいたり、無名な芸人が上がってきたりして面白いんだよね。

 現実世界に戻ったら見たい番組ナンバーワンだ。日本が恋しい。


 そんなこんなで適当に会話をしていると、がちゃりと音が聞こえた。

 俺以外に客が来たのか。そう思いながらカクテルに口を付けると、部屋の空気が変わった。

 これは……殺気?


「ん、いらっしゃいま……テメェ、客じゃねぇな?」


 マスターも気づいたのか、シェイカーを置いて壁に掛けられていた槍を手に取った。

 入ってきた男は、どこにでもいそうな普通の獣人。だが、目の色が違う。瞳が紫色に光っているのだ。

 さらに、首輪のようなもの……チョーカーを付けている。簡単な作りの服を着ているため、そのチョーカーだけがやけに浮いていた。

 って、なんか俺を見てない?


「イタ」

「え、俺?」

「オレ、レクト、ツカマエル」


 なぜかカタコトでそう言うと、俺に向かって歩き始めた。

 身の危険を感じた俺はカクテルを置いて背を向けずに店の奥にじりじりと下がった。

 レクト、捕まえる? 俺はこんな獣人を知らないし、追われるようなことをした覚えはない。


「な、なんだあいつ……目が……」

「客は下がってな。お前もだ。ここは任せておけ」

「おおっ! 頼んだマスター!」


 カウンターを飛び越えたマスターは、槍を持って俺と狐の獣人の前に立った。

 俺が戦おうと思ったが、マスターにやらせてもいいかもしれない。一応、可愛い女の子と思われているのだ。大人しく隠れておこう。

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