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067 王女、来ちゃった

 キャスケットを取り返しうっきうきになった俺は、相も変わらず修行を続けていた。

 確かにドレイクを倒すことはできたが、まだまだ〔キルタイム〕の精度を上げていきたいのだ。

 今日もいい汗を流した。これはもう復帰も近いな、なんて思っていると村人の一人が焦りながら森にやってきた。

 ありゃ、修行してるのバレてたか。大方不安にさせないためにエリィ辺りが言ってくれたのだろう。


「レクト様にお客様だべ! エルフのお嬢さんが村に来てるっぺよ!」

「エルフ?」


 わざわざエルフが小さな村に何の用なのか。

 というか訛りが強いなトワ村の村人は。いやこの人が強すぎるだけか。どこ出身? 栃木? ごめんねごめんね?


「トワ村にお客様なんて珍しいな」

「なんかあったら呼ぶから、二人はそのまま訓練してていいよ」

「ん、了解だ」

「了解じゃ!」


 戦闘服のまま向かうのもあれなので、久方ぶりの【魔術師(ウィザード)】に職業を変更し魔術師ローブを着込む。

 ああ、やっぱりこの服装も馴染む。武神装備も悪くはないが、やはり私服に近いのはこちらのローブだ。

 村の入口に向かうと、そこには薄紫色の髪が特徴的なエルフが立っていた。


「来ちゃい、ました……」

「なんで???」


 そう、そこにいたのはただのエルフではない。シャムロット王国の王女様であるティルシアだ。

 不安になるほど細かった腕は綺麗で健康的な太さになっていた。それでも細いけどね。

 いやそうじゃない。なんで? なんで? どうして? お偉いさんが単独でトワ村に来ちゃったよ。何してんのほんと。

 思い出してみれば、別れ際にロンテギアに行きたいとか言っていた気がする。いやそれはわかるけどなんでトワ村なのさ。


「私がご説明いたしましょう」

「シウニンさん、いたんですか」


 シウニンさんは説明しよう! とばかりにそんなことを言いながら馬車からぴょこっと顔を出した。

 この人が連れてきたのか。一体どういった経路で知り合ったと言うのだ。


「いやなに、実はティルシア様はお忍びでロンテギアの観光に来ていたらしいのです。その途中、レクト様はどこにいるのかと質問されましてね」

「たまたま知り合いだったシウニンさんが案内した、と」

「そういうことです」


 それでシウニンさんが馬車を手配してくれたわけだ。

 一応俺の名前はそれなりに広まっているのでトワ村、という村にいることは時期にバレていただろう。

 その時は別の馬車を探していたのだろうか。どうせ来るなら楽な方がいいだろう。ありがとうシウニンさん。


「まあ二人共知り合いだから普通に入って大丈夫ですよ。シウニンさんは何か用事ありますか?」

「ええまあ。『グリーンクローバー』などの品質の確認をしようかと」

「おっ、ならいいものがありますよ。後で見せますね」

「なんと、それは楽しみです」


 状況を知らないティルシアが頭上にクエスチョンマークを浮かべながらニコニコと笑顔を浮かべる。

 シウニンさんには悪いが、ティルシアの相手を優先しよう。


「とりあえず、せっかく来たんだし観光する? この村で見れるものなんて花畑くらいだけど」

「花畑……! 見たい、です!」


 トワ村には特産品、商品があるが、観光地にはなれない。

 土地が広くないのもあるし、あっても狭い平原と森だけだ。

 なので見れるものと言ったら『ピンクブロッサム』くらいなのだ。ちなみに、俺はトワ村の花畑はロンテギアのどの花畑よりも綺麗だと思っている。

 え、他国と比べたらどうかって? 単純に知らないんだよね。日本に帰る前に、世界を観光してみるのもいいかもしれない。


「これが『ピンクブロッサム』の花畑だよ。どう?」

「綺麗……! 小さくて、いっぱいあって、かわいい……」


 ピンク色の花畑と、紫髪の美少女。うん、映えるね。

 写真を撮って観光パンフレットにしたいくらいに綺麗な絵だった。


「絵になりますね。うん、『グリーンクローバー』もいい品質です」

「シウニンさん。実は俺、アルゲンダスクの外交にはこの二つの花を使おうと思ってるんです」

「ほう?」


 次の外交は、世界を救うために重要な外交だ。

 大国アルゲンダスクを味方につけ、尚且つ国宝を手に入れる。英雄ライトとして赴いたとしても、シャムロットのように上手くはいかないだろう。


「この花を他国に売る、それだけで交渉が上手く進むと思うんですよね。なのでシウニンさんも外交に協力してくれません?」

「ほ……はいっ!?」

「正直交渉とか苦手なんですよ。なのでお願いします!」


 そう、俺は交渉が苦手なのだ。

 強行突破で何か条件を付けてもらい達成する、という作戦もあるが、そもそもそこに行くまでに門前払いされてしまうかもしれないのだ。

 ヘッタクソなプレゼンでアイテムの魅力を半減、いや激減させてしまう可能性すらある。

 最初に商人さんに紹介した時は、効果を淡々と言うだけだったのだ。国同士のやりとりがあれでいいはずがない。


「えぇ、正気ですか……? 一般の商人ですよ、私は」

「いやいや、出世したじゃないですか。恩返しとでも思ってどうか!」

「恩返しって、それはずるくないですか!? はぁ、分かりました。期待しすぎないでくださいね」

「やった! ありがとうございます!」


 次の外交にシウニンさんの同行が決定し安心していると、背中をちょいちょいっと突かれた。

 おっと、ティルシアをほったらかしにしていた。申し訳ない。

 しかしそれなりに二人で話をしてしまっていたが、その間ずっと花畑を見ていたのだろうか。


「レクト様、これ……花冠、できた」

「おおっ、定番の。ありがとうね」


 ティルシアが持っていたのは、『グリーンクローバー』で作られた花冠だった。

 この世界ではかなり上位のアイテムなのだが、まさか花冠になるとは。

 一応その材料は商品なんだけども、可愛いからヨシ。


「ああ……貴重な『グリーンクローバー』が……」

「ほとんどは薬になるしいいんじゃないですかね」


 当初の値段はそれなりに高かったのだが、大量に収穫できることと、ポーションを作れる人間がエリィのみということで価格は低くなっている。

 なので別に少し個人的に使っても問題はない。

 それはそれとして勝手に畑の植物を採っちゃダメと叱っておいた。

 後でタランテさんにも伝えなきゃね。


 さて次はどうしようかと考えていると、森の方から激しい音が聞こえてきた。

 二人もそれに気づいたようだ。まあこの二人ならいいか。


「実は森で戦闘訓練をしてましてね。見ていきます?」


 俺は二人を森に案内することにした。

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