065 コレクター、鱗片を見せる
帽子を人質に取られてから、俺は急激に成長した。
強くなりたい、帽子を取り返したい。その気持ちがどんどん強くなり、カリウスに真っ向勝負で勝つことができたのだ。
今まで以上に、戦闘中の集中力が上がっているのが分かる。余計なことを考えない、油断をしない。反射的に怯えてしまうこともなくなった。
あとは、この感覚を帽子がある状態でも保てるようにし、さらにドレイクに勝つだけだ。
「見逃さない。絶対に……!」
ドレイクとの戦闘中のことだった。
一瞬、世界が遅く見えたのだ。
そして、ドレイクが赤く、地面には赤い足跡が見えた。
「……今のは」
「むっ。これ、集中せんか」
「あ、ごめん。よし……やるぞ!」
気のせいか。いや、それにしてはやけにリアルだった。
普通、足跡が見えるようになるだろうか。相手の動きが遅く見えるだろうか。
もしこれが集中した末の技術なのだとしたら……使える。
「もう一度……!」
再び集中し、目を凝らす。
魔力を回し、身体能力を向上させる。まだだ、まだ足りない。もっと……!
「いけるっ!」
溜めこんだ魔力を一気に解放させる。
魔法の詠唱がないバージョンといったところか。
魔力の解放と共に、俺の視界は白と黒に切り替わる。
まさか成功するとは。技の効果だろうか、集中力も格段に上昇し、ほんの少しの動きにも気が付くようになる。
音も、鮮明に聞こえてきた。布の擦れる音、土を踏む音、そして呼吸。
これを自由に扱えるようになれば、俺はさらに強くなることができる。
「そこだ!」
「ぬおっ!?」
ドレイクが動いたと同時に、不意を突いて攻撃を仕掛ける。
相手が動こうと思ったタイミングを狙って攻撃したのだ。動きを予測されたかのような動きにドレイクは驚きを隠せずにいた。
「やるではないか、ではこちらからもいかせてもらうのじゃ!」
「ふっ!」
ドレイクの攻撃を避ける。避ける。避ける。
今までは捌ききれなかった猛攻撃を、何とか対処できるようになっていた。
爪が襲い掛かり、それを躱す。次は……蹴りだ!
「ふぬぅ、これを避けるとは。やるのぉ」
「まだまだぁ――――あっ……」
このままいける。そう思い地面を強く蹴った。つもりだった。
俺の身体は、動くことなく地面に倒れる。顔を思い切り地面にぶつけてしまった。痛い。
身体の自由が無くなった瞬間、視界に色が戻る。先程まで鮮明に聞こえていた音も聞こえなくなっていた。
「レクト、大丈夫か?」
「な、なんでこんな……」
俺だけの力、ゲーム内でのレクトに頼らない力をやっと見つけたと思ったのに。
きっと、まだ使いこなせていないんだ。体力も、集中力も足りていない。
使う機会があるとすれば、制限時間を考慮しての短期決戦だろうか。
その後、なんとかポーションを飲んだ俺は復活して休憩を取った。
話し合いということでドレイクも、カリウスも休憩に入る。
その中で、俺は先程見つけた力を説明した。
「なるほどな。実はオレも、何か不思議な力が出てきたんだ」
「カリウスも?」
なんと、俺だけでなくカリウスも不思議な力を使えるようになったらしい。
この世界はゲーム内での概念などが適用されていたり、適用されていなかったりする。
おそらく、これは『トワイライト』には存在しない能力だろう。
「ああ。剣がな、光ったんだ」
おいおい、それは剣からビームが出ちゃうやつじゃないだろうな。
やっぱりセイバーなら剣からビームくらい出さないとね。
「最初、俺はレクトが言っていた武技って奴かと思ったんだ。だが、この光は木を抉った。刀身は木に当たらなかったのにだ。剣を止めた後も光っていて、慌てて力を抜いて解除したんだ」
「確かにそれは武技に似てるけど、リーチが伸びる武技なんて聞いたことないね」
武技には必殺技が多く、長く発動させるようなものは少ない。
〔スラッシュ〕だって、魔力を消費するただの斬撃なんだ。何回も繰り返しているだけで常に剣が光っているわけではない。
技を発動させた後に剣が光るということは、それは武技ではなくカリウスの生み出した技なのだろう。
「それを発動させた後、とてつもなく疲れた。多分、今レクトが使ってた技と同じように集中力だとか、魔力とか、いろんなものを消費するんだろうな」
今のところ、体力、魔力、集中力が無くなったのを感じている。気絶しなかったのは、気力だけが先に行ってしまったからだろう。
このまま使用するとまともに戦闘できないので、集中力などの消費を少なくしていきたい。
「練習すれば、時間も伸びるかな」
「どうだろうな。だが、やる気は出てきたぜ。この技を物にしてみせる」
「俺も。今のがあれば、ドレイクにも勝てるかもしれない」
「言うのぉお主。じゃが、確かにあの動きはやっかいじゃった。楽しみじゃな」
勝てる可能性が出てきた。それだけで俺のやる気は最高潮だ。
通常の戦闘の集中力も上がっているし、この技があれば弱点であった剣士としての戦闘経験の無さをカバーすることができる。
そして何より、帽子を取り返すことができるのだ。数日中には取り返してみせる。もう限界なんだ。
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