063 コレクター、修行する
カリウスと合流した俺は、そのまま馬車でトワ村に帰ることにした。
今までどこか焦りがあったためか、村が近づいてきて安心する。
帰ってきたんだな。ここで自分が強くなれたと確信できれば、自信を取り戻すことができるかもしれない。
「領主様、シャムロットの外交、大丈夫だったっぺか?」
「割と何とかなったよ」
「流石領主様だべ!」
あったけぇ……
村人たちが出迎えてくれるのでにこやかに対応した。
挨拶を済ませた村人たちは農作業に戻り、再び村の日常が動き始める。
ほんの少しだけシャムロットに行っていただけなのに、なんだか久しぶりな感じだ。
今日はもう休んで、明日から頑張ろうかな……
「レクトおおおおおおおおおお!!」
「おうわっ!?」
なんて思っていたら、ドレイクが全速力で突進してきた。
これは休めそうにない。
「寂しかったのじゃぞ! すんごい暇じゃった!」
「そんなこと言われてもなぁ」
「じゃから遊べ!」
「……!」
遊ぶ、か。
ドレイクの基準の遊ぶはシャレにならないが、丁度いい。
一刻も早く自信を取り戻さなければならないのだ、今日から修行を初めてもいいだろう。
「よし、なら相手してくれる?」
「相手じゃと?」
「うん。剣の腕を鍛えたくてさ。戦ってよ」
武器を取り出し、ドレイクに真剣な眼差しを向ける。
「おいレクト、大丈夫なのかよそれ」
「考えてみてよ。あの炎竜ドレイクの相手をするんだ、格段に強くなれる気がしない?」
「それは……そうだな」
『トワイライト』とは違って、この世界ではレベルの概念がない。だが、それに似たものは存在している。
鍛えれば筋肉はつくし、戦闘訓練をすれば強くなれる。つまり、戦って相手を倒さなくても経験値は手に入るのだ。
相手が炎竜ドレイクならば成長速度も上がるだろう。質のいいポーションを作ればより経験値が入るように、質のいい戦闘をすればより経験値が手に入るのだ。
俺にそれが適用されるのかは疑問だが、少なくとも人型人外での最上級の戦闘訓練にはなるだろう。
「いいじゃろう。思えば剣を扱うお主の相手は初めてじゃな」
「カリウスも、よろしく頼む」
「任せろ。無理はするなよ」
「なるべく頑張るよ」
広場では目立つ。戦闘を行うなら、裏の森だろう。
俺、カリウス、ドレイクの三人で裏の森に移動し、木が少なく開けた場所で戦闘を行うことにした。
「まずは、どうする?」
「レクトからじゃ!」
「よしきた。じゃあやろう」
初戦はカリウスが見学だ。
「待て待て。本気の殺し合いもいいが、ルールを決めた方がいい。最初に強力な一撃を加えた方が勝ち、これでどうだ?」
「つまりどういうことじゃ?」
『トワイライト』で言う初撃決着モード、ってやつか。
PVPの時によく使われるシステムで、ギルド内でもよくやっていた。
タンク職とか魔法使いが不利だからレアアイテム分配の時にはやらなかったけどね。
「最初の一撃で終わる殺し合いかな?」
「そんな感じだな。殺し合いだと思ってくれて構わないが、勢い余って本当に殺しちまったら元も子もない」
「なるほど、完全に理解したのじゃ」
殺す気で行っていいけどあくまで最初の一撃で終わることは忘れるなってことだね。
まあ、その最初の一撃が致命傷になれば死ぬのだ。そんな一撃を入れられた時点で実力不足なので、もしそうなったら受け入れよう。
むしろ、こっちから攻めるくらいの気持ちで行かねば。
「道具の使用は?」
「構わない。むしろ使ってくれ、それがお前の強さでもあるんだろ」
「……だね」
道具、アイテムの使用許可が出た。
確かに、俺は他の人と違って装備も道具も最強の物が揃っている。
それを使いこなせるか、それが今後の課題でもあるだろう。
「用意……」
ドレイクが拳を握りしめ、俺はストレージから取り出した剣……いや、刀を構える。
ジャスター戦で使用した『ツムカリ』である。今までの二刀流での乱暴な戦いはやめだ。今回からは技術を要する軽さ、扱いやすさを優先した武器を選んだ。
ちなみに、『竜殺剣グラム』も使おうと思えば使えるが、本気で殺すための戦闘ではないのでドレイク相手には流石に使えない。
さあ戦闘が始まる。いざ尋常に……
「始め!」
勝負!
「はああああああ!!!」
叫びながら、刃先をドレイクに向け突撃する。
大きな動きはせずに刀を見たまま避けたドレイクは、しゃがみ込んで俺の身体の内側に潜り込んでくる。
「甘い、のじゃ!」
「ぐっ……!」
流石は伝説のドラゴン、凄まじいパワーだ。
しかし一撃は受けていない、ドレイクの拳が俺の腹に触れる直前に後ろに飛んだのだ。
『トワイライト』でよく使われていた相手をひるませる、怖がらせるための作戦だったが、ドレイクには通用しなかった。
戦闘中に、そんなことで恐怖しないのだ。俺がその立場だった場合、恐怖で判断が鈍ってしまうかもしれない。まず、そこからだ。
「〔イグニスアスタリスク〕!」
刀身が真っ赤に燃え、四連続攻撃を発動させる。
武技も今後使うことになるだろう。今出せる全てを先頭にぶつける。
空中に蜘蛛の巣のように、赤い剣の軌跡が残る。
「わしに炎は……効かぬ!」
「だよね、でも……〈落雷〉」
「なんじゃとぉ!?」
炎を掻き分け進んできたドレイクに対し、一つの羊皮紙を向ける。
詠唱と共に羊皮紙は燃え尽き、そこから魔法陣が現れ〈落雷〉が発動する。
羊皮紙に魔法を閉じ込めたアイテム、スクロール。これを使うことで【魔術師】以外でも強力な魔法を使用することができる。
「スクロール……! それも第四魔法……!?」
カリウスが驚くのも無理はない。
この世界でのスクロールはせいぜい第二魔法まで。
俺は第五魔法のスクロールも所有しているので、【剣士】のまま【魔術師】の最高魔法を使用できる。
スクロールなので威力は下がるが、一々『職業の書』を使う必要がないので、一つ弱点が無くなったと言える。
〈落雷〉の電撃により、ドレイクの身体が痺れ動きを封じることに成功する。
今のうちに強力な武技で……!
「それっ! 紅蓮の炎じゃ!」
「うあっ!?」
こちらから攻撃を仕掛けようとしたその時、ドレイクが真っ赤な炎を放出し、攻撃してきた。
咄嗟に避けることができなかった俺は、その炎に巻き込まれてしまう。
耐性があるため大きなダメージにはならないが、前がよく見えない。
「そこじゃあ!」
「がはっ……!」
いつの間にか回り込まれていたドレイクに、がら空きの背中を正拳突きされる。
肺の空気が一気に抜け、口から出る。
完全に強力な一撃だ。炎も纏っていたのか背中が燃えるように熱い。
「そこまで。ドレイクの勝ちだ」
「はっはっはー! まだまだじゃのぉ!」
「うっ、悔しい……」
近接戦闘はまだまだだとは理解していたが、まさかここまで出し抜かれるなんて。
ゲーム内と違ってよりリアルな戦闘、緊張感だけでなく恐怖も強く感じる。
簡単にビビって判断力を失ったのだ。まだ俺には戦闘能力が足りない。
「お疲れ、ゆっくり休んどけ。ドレイク、悪いけど連続でできるか?」
「もちろんじゃ!」
かぁー! 自信を取り戻すだけじゃ足りないなぁ。
実際に戦闘に慣れる。これが目標になりそうだ。
ストレージからポーションを取り出し、それを飲みながら二人の戦闘を見学することにした。




