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061 病弱王女、黄金の果実で元気になる

 せっかくなので『黄金の果実』のカットは俺が担当することにした。

 うさぎの形に切った林檎だ。黄金のレアアイテムを可愛く切ってしまったことによる背徳感で気持ちよくなっちゃう。

 まあそのまま食べるには少し見た目が怖いからね。なにせ皮が黄金なのだから。


「ティルシア、入るよ」


 うさぎカットの林檎が乗った皿を片手に、ティルシアの部屋に入る。

 カリウスとエリィには以前と同じく部屋の外で待ってもらっている。

 部屋に入ったのは俺とタランテさんだけだ。


「……レクト、様?」

「ティルシア、レクト様が『黄金の果実』を取ってきてくださったの」

「……本当? わ、かわいい……」


 うさぎカットは好評のようだ。

 ロンテギアにこの林檎の切り方を広めてみるのもいいかもしれない。

 今回カットした『黄金の果実』は全体の半分だ。全部食べさせないと病気が治らないのか、一口食べれば治るのか、それが分からないため様子見として半分食べさせる。


「ほわ……おいしい」

「それはよかった」


 美味しいらしい。俺も食べたい。

 なんて思っていると、ティルシアの顔に生気が蘇った。

 四つにカットされた『黄金の果実』のうち、一つを食べ終えた時点での効果だ。


「あれ、身体が軽く……これが、効果?」

「そうだよ。どう?」

「立てる、かも……」


 しかし不治の病とは何だったのか、生まれつき身体が弱かったとも聞いたが。

 先天性心疾患、かな。さらに長期的な風邪により身体も弱っていた。と。

 昔は杖があれば立つことができたそうだが、果たして……


「うわっ、っととと……」

「おっと、大丈夫?」


 ベッドから出て立ち上がろうとするが、体勢を崩して転びそうになってしまった。

 咄嗟に身体を支え、手を取った。華奢な体だが、以前よりも力を感じる。


「うん、久しぶり……だったから。もう、立てる……」


 治っていない、というわけではないらしい。久しぶりに立ち上がるのだから当然か。

 ティルシアは俺から手を離すと、バランスを取るようにしながら立った。

 その光景を、タランテさんは目に涙を浮かべながら見つめていた。


「わぁ。一人で、歩けた……」


 ベッドから離れ、部屋の中をゆったりとした足取りで歩きだすティルシア。

 やがてその足取りは早まり、遂には小走りにまでなっていく。


「すごい……! 走れる、走れるよ!」


 『黄金の果実』の効果で力が湧いているのだろう、寝たきりの状態から即座に小走りができるようになったのだ。

 嬉しそうに部屋を駆け回るティルシアに、タランテさんはボロボロと涙を流し始めた。


「よかった……本当によかった……レクト様、ありがとうございます。この御恩、どうお返しすればよいか……」

「最初に言ったでしょう、俺が求めるのはロンテギアとの交友関係の改善。それだけでいいですよ」

「ええ、必ず。近いうちにロンテギアに赴きましょう」


 それにしても、独特な雰囲気は病気が治っても変わらない。

 明るくはなったが、それでも大きく変わったかと言われたら答えはノーだ。

 だからまあ、変わりすぎない方が実感が湧くというか、彼女を壊さないまま救うことができたと考えられるから、よかった。


「はっ……! レクト様、あの……ありがとう、ございます」

「いいよいいよ」

「あの、レクト様は何者なんですか……?」

「元英雄で、小さい領の領主かな? ああ、今は王子代理でもあるね」


 そう口に出してみたが、改めて自分の肩書がおかしいことになっていることに気付く。

 トワ村、トワ領は、規模で見ると一番小さい。しかし領主である俺は王子代理であり、ライトと同一人物ということになっており……

 これは、渋滞しすぎてティルシアの思考が爆発してしまうのではないだろうか。


「なんか……すごい、ですね……!」


 あ、大丈夫そうだ。


「そうだ、タランテさん。この本、廃墟で見つけたので渡しておきますね」


 俺は廃墟にあった本、もとい日記をストレージから取り出し、タランテさんに渡す。


「本、ですか」

「ええ、これは女王である貴方が持つべきです。『黄金の果実』も、残りはそちらの国で使ってください」


 半分になった『黄金の果実』もタランテさんに渡す。

 あの日記の内容を見てしまっては、エルフ以外に使おうとは思えない。使うとしても、それはエルフが判断し使うべきだ。

 半分ではなく完全な状態であれば俺のコレクションに入れてもよかったんだけどね。


「何から何までありがとうございます。では、『神秘のカギ』をお渡しするので、奥に行きましょうか」

「分かりました」


 俺がタランテさんに連れられて部屋から出ようとすると、ティルシアに服を掴まれてしまった。

 ティルシアは寂しそうな顔をしながら俺のことを上目遣いで見てくる。くっ、それは卑怯だ。


「レクト様……もう、行っちゃうの……?」

「ごめんね、他にもやることがあるから帰らないといけないんだ」

「わたしも、ロンテギア、行きたい……!」

「じゃあ楽しみに待ってるから、ぜひ来てね」


 よし、これでなんとか言いくるめることができた。

 エルフとして見た場合、ティルシアは子供だ。だが、人間から見た場合その年齢は普通に大人なのだ。

 寝たきりということもあり精神年齢が低いのかもしれないが、それでも駄々をこねたりはしない。常識的な判断もできるのだ。

 ドレイクよりもいい子な気がしてきたぞ。


 部屋を出た俺は、二人と合流し『神秘のカギ』が保管されている部屋に案内される。

 見るのは二度目だが、やはり綺麗なアイテムだ。文字通り神秘が詰まっているような美しさを感じる。

 俺はそれをありがたく受け取り、シャムロット城を後にするのだった。



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