060 魔術師、計画を進める
* * *
「たっだいまぁ~」
ピンク色の髪をした悪魔により、薄暗い部屋の扉が開かれる。
月明かりに照らされた部屋には、ローブを着た一人の男が佇んでいた。直前まで存在に気が付かなかった悪魔はぎょっとしながらもその男に近づいていく。
「やあ」
「珍しいね~ミカゲさんがいるなんて」
ミカゲ、と呼ばれた男は悪魔の言葉に顔をしかめた。
そしてため息を吐くと、額に手を当てながら口を開く。
「君に預けていたらうっかり無くしてしまいそうで不安なんだ。渡してくれないかい」
「慎重だなぁ~、まあいいや。ほら、これだよ」
悪魔はミカゲに銀色に輝く何かを渡し、それと一緒に金属製の紋章も渡した。
ミカゲは指示していない物を渡され不思議に思うが、目的の物はあるので一安心する。
「確かにこれで間違いないね。こっちはなんだい?」
「『王証』? とか言ってたよぉ~」
「なんだって? お手柄じゃないか」
ミカゲは驚きながら『王証』を見つめる。『王証』を持っていれば王族を名乗れるのだ、その恩恵は大きい。
「これそんなにいいんだぁ~。じゃあご褒美欲しいなぁ?」
「そんなことを言われてもね。そうだ、なら君のお気に入りを捕まえてこようか」
「えぇ~、別にいいよぉ。自分で手に入れるもん」
「そうかい」
ミカゲは魔力を感じ取ると、その方向に視線を向けた。すると、部屋の中央に青い光が現れた。
強く発光すると同時に、光から人型の物質が飛び出してくる。
それは黒猫の獣人、ジャスターだった。ミカゲはジャスターの目が赤く光っているのを見て〔シャドウビースト〕を発動させたことに気が付く。
そして、ジャスターの耳が欠けているのを見て激しい戦いだったのだと察した。
「っぶねぇ! 本気で殺しに来てただろあいつ……!」
「やあジャスター。随分焦っているようだけどどうかしたのかい」
『転移石』を使い帰ってきたジャスターにミカゲは声を掛けた。
ジャスターにした指示は『黄金の果実』を採ってくること。想像以上にモンスターが強かったのだろうか。
「ミカゲさん! あいつだ! レクトだよ! あのヤロー見たこともない武器で僕の耳を斬りやがった!」
「レクト様に会ったの!? なんて羨ましいっ!」
「うるせぇ黙ってろ!」
身体をよじらせながら嫉妬する悪魔に、ジャスターはイライラしながら怒鳴り散らす。
しかしピンク髪の悪魔はジャスターを無視し、ほわんほわんと妄想の世界に飛び立っていた。
構っていても仕方ないと、ジャスターはシャムロットであった出来事をミカゲに詳しく話す。
レクトが第五魔法を使うこと、日本出身であること、プレイヤーがどうこうと言っていたこと。
その全てを聞き、ミカゲは顎に指を置きながら思考を巡らせる。そして、一つの結論に至る。
「『トワイライト』計画の実験台か。まさか、邪魔をしてくるとは思わなかった」
ミカゲは小さく呟き、ため息をつく。今日何度目だろうか。胃薬は部屋にあったはずだ。
そこまで考え、一つ不安が芽生える。相手が強大な力を持っているのなら、ジャスターは『黄金の果実』を持って帰れなかったのではないだろうか。
作戦が崩れている。そう考えただけでミカゲは胃の痛みを強く感じた。
「まさか、『黄金の果実』が手に入らなかった、なんて言わないよね」
「そ、そんな怖い顔すんなよ。ほら、これだろ」
怯えるジャスターから『黄金の果実』を受け取ったミカゲは、それを目の前まで持っていき観察する。
金色の林檎、間違いなく『黄金の果実』の見た目と酷似している。
「これは……」
類似はしている。だが、ただの林檎のように軽く、まるで魔力を感じなかった。
導き出される答えは――
* * *
「偽物?」
「うん。本物はこっち」
『黄金の果実』を奪われてしまったという事実に皆気分が沈んでいたが、俺が取り出した本物の『黄金の果実』を見て全員が声を上げた。
「レクト、どういうことだ?」
「この『金の塗料』を使ったんだ。ジャスターに奪われたのは表面が金色になっただけのただの林檎ね」
俺はアイテムストレージから『金の染料』と『塗装筆・小』を取り出し、カリウスに見せる。
言ってしまえば金メッキである。この世界でこのアイテムを試した時、本物の金には劣るがかなり近い物に仕上がりテンションが上がったことをよく覚えている。
ゲーム内では小物であれば塗装することができ、芸術性のある人が様々な武器や装備を塗装していた。
ちなみに俺は使っていなかった。そのままのアイテムを楽しみたいからだ。
「採取した時のあの一瞬で入れ替えたのか。すごいな」
「でしょ。いやぁ、思いついた時は自分でも天才かと思ったね。でも、あの時本気でジャスターを殺そうとしたけどダメだった。侮れないね」
「ああ、オレもまさかあんな動きをするなんて思わなかったよ」
森の中を飛び回り、高速で移動する戦術。
カリウスは経験があるからか、俺よりもジャスターを視認していた。
俺はただ力を持っているだけで、力を使いこなせるわけではないのだ。そう考えるとまだまだ弱い。
全てを上回ることなんてできないのだから、油断をしてはいけない。
「とにかく! 『黄金の果実』があるのなら王女様の病気を治すことができるのよ。早く食べさせてあげましょ」
「そうだね」
本来の目的である王女様、ティルシアの不治の病を治せるのだ。
さあ王城に向かおうと思ったその時、王城から世界樹へ続く道でシャムロットの女王であるタランテさんが走ってきていることに気が付く。
「はぁ、はぁ、『黄金の果実』を手に入れたのですね!」
こちらからも駆け寄ると、タランテさんは俺たちの前まで来て止まり、息を切らしながらそう言った。
期待の籠った眼差しだ。もしこれでジャスターに奪われたと言ったらどうなっていただろうか。想像してしまっただけで申し訳ない気持ちになる。
「ええ、早く行きましょう」
「……はい!」
感極まった、という表情でタランテさんは目に涙を浮かべた。
一刻も早くティルシアに『黄金の果実』を渡したい。タランテさんも加え、駆け足で王城へ向かった。
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