057 コレクター、遺跡に入る
廃墟を探索していたカリウスとエリィに報告すると、今度は廃墟ではなく辺りの森の探索をすることになった。
ゴーレムが配置されているということはそれなりに目立つということ。ならば見通しの悪い地上からではなく空から探すのが無難だろう。
「そっちはどう?」
「ダメね、森ばっかり」
俺は〈浮遊〉を、エリィは天使の羽を使い空から森を観察する。
が、地上がほとんど見えないほどに葉で覆われており建物は見つけられない。
それほど大きな建物ではないのか、諦めて地上探索に戻ろうと思ったその時、黒い影が高速で動いているのが見えた。金色の光も見える。あれは……目だろうか。
「あれ、ジャスターだよね」
「ほんとね。どこへ向かってるのかな」
木から木へ、高速で移動するジャスターは迷いなく進んでいた。
果実を探している様子はない、ということは……
ジャスターの進行方向に視線を向ける。ほとんど葉で隠れているが、石造の建物が見えた。
あそこに向かっているんだ。しかも独断で。これは注意せねばなるまい。
俺は地上に向かって加速した。斜めに落ちることで着地の衝撃を減らし、数メートル滑った後に停止する。
「どぅわっと!?」
「どこに行こうとしてるのさ」
突然空から現れた俺に、ジャスターは素っ頓狂な声を上げ飛び上がる。
「いや、一応確認だけでもと思ってよ……な?」
「はぁ、それよりもまず報告でしょ。もうすぐカリウスが来ると思うからここで待つよ」
「……へいへい」
カリウスには松明を持ってもらい空を飛ぶこちらを観察してもらっている。
もう空も暗くなっているため、地上にいるカリウスを見つけることは困難なのだ。逆にカリウスは羽が発光しているエリィを目印に移動してもらっている。
少し経つと、空中で目印になっていたエリィが地上に降りてきた。
遅れて、カリウスも到着する。これで全員揃った。
「あれは……遺跡か」
「コケとツタだらけだ。これを空から見つけるのは難しいね」
遺跡であろう平べったい石の建物には、コケやツタが大量に生えており、かなり森に同化していた。
ジャスターの進行方向に注目していなかったら見落としていただろう。そのくらいには緑色なのだ。
中に入ると、地下へ続く階段が伸びていた。まさか迷宮か……? と思ったが扉は一つしかない。
外装と違い中はとても綺麗で、神聖な雰囲気すら感じられる。本当に何百年も前に作られた建造物なのだろうか。
そして。
「ゴーレム、ねー」
中央に鎮座する白亜の石像。
古代文明とは思えないほどに綺麗なそのゴーレムは、おそらく失われてしまった技術により創られた守護者なのだろう。
『トワイライト』にはあんなゴーレムはいなかった。いても岩のようにごつごつしたゴーレムだ。あそこまで綺麗ではない。
「でも動かないわよ?」
「近づいたら動くんだろ、警戒しろよ」
遠目からゴーレムを観察するが、まるで動く気配がない。
魔力すらほとんど感じない。もう既に機能を停止しているのではないだろうかと思うほどだ。
それならそれに越したことはない。楽なのはいいことだ。
とりあえず部屋の中に入って……
「……っ!」
見られている。
「どうしたんだよ、急に止まって」
「いや、なんでも。気を付けてね」
魔法で目線を感じるだろうか。
失われてしまった魔法は、今の魔法と比べるとどうなのか。
魔法の研究は長く続けられ、確かに魔法技術は発達した。多くの人間、魔族が魔法を使いこなせるようになり、魔術師人口も増えているという。
しかし、技術では天才は作れないのだ。
過去の魔法が現代に比べて劣っているとは限らない。本物の天才が、現代では到達できないレベルの魔法を操っていた可能性もある。
「ビビってんのか? 仕方ない、僕が先に行ってやるよ」
そんなことを微塵も思っていないであろうジャスターは、すたすたと部屋に入っていく。
すると、ゴーレムの目が青く光った。白亜の身体に、青い光の線が走る。なにあれ、かっこいい。
あれは本当に魔法なのだろうか。あんなの、SFに出てきてもおかしくないだろう。
「なんだありゃあ!?」
「あーもー! 行くよ!」
案の定大声を出しながら驚いているジャスターを横目に、俺は壁沿いにゴーレムに攻撃するチャンスをうかがう。
カリウスとエリィが武器を構え、ジャスターも遅れながら武器を構える。
「――――」
金属が軋むような、腹に響く音が轟く。
重い金属音だ。どこまでも機械的で、魔法らしくない。
「やあああああ!!!」
エリィの矢が発射される。が、どれも弾かれてしまった。
マジ? 『ワルキューレウェポン』で弾かれるってよっぽどの防御力だよ。
「おっらあああああ!!」
続いてカリウスがエクスカリバーを勢い良く振るう。
ゴーレムは腕でガードし、カリウスを押し返す。
流石にダメージは入ったようで、斬られた腕には大きな亀裂が走っていた。
だが、その亀裂も徐々に塞がっていく。自動回復か、厄介だね。
ジャスターはそもそも防御力の高い相手と戦うのは苦手なようで攻めあぐねていた。
「おい! さっさと第五魔法を使えよ!」
ジャスターは観察していた俺を見てそんなことを言ってくる。いやいや、そっちも戦ってもらって。
そもそも、地下の部屋で第五魔法なんか使おうものなら天井が崩壊する。崩壊しない威力だとしても部屋の中にいる生き物は全員死んでしまう。俺含めて。
「こんな狭いところで使ったらみんな死んじゃうよ?」
「ぜってぇ使うな! この役立たずがァ!」
「使えって言ったのそっちじゃん!?」
文句しか言わないジャスターだったが、痺れを切らして戦闘に参戦する。カリウスの攻撃の後に追撃することで、ゴーレムの復元能力が多少遅れる。
なんだ、やればできるじゃないか。よし、見ているだけじゃダメだね。俺も戦わないと。
「〈雷撃〉」
詠唱と共に〈雷撃〉がゴーレムに向かって放たれる。
が、直撃した瞬間に雷撃が弾け、消えてしまった。
まあ、そうなる。ああいう上位のゴーレムは魔法防御力が高いのだ。
「エリィは頭を狙って! カリウスとジャスターはそのまま入れ替わりながら攻撃!」
『職業の書』で【弓使い】を選び、〈瞬間倉庫〉で弓を装備する。
久々の【弓使い】だ。カリウスとジャスターに当たらないように狙わなくてはならない。
武器は『月光弓アルテミス』。月の装飾が施されたランク5の弓である。
ゲーム内で超火力固定砲台と呼ばれた俺の実力、見せてやる。




