056 コレクター、廃墟を調べる
ジャスターが見つけた廃墟はいくつもあり、その集まり方から見て元々村だったことが分かる。
木の部分は朽ちており、石で作られた土台だけがその形を保っている。
何十年、いや何百年も前にこの場所が使われていたと考えると領主である自分には来るものがあった。
いつかトワ村もこのように過去の村として発見されるのだろうか。
「もう家としては使えねぇぜこれ」
ジャスターの言う通り、屋根や壁も朽ちているので雨風を凌ぐことを目的に使うことはできない。
むしろ、中途半端に残った壁がいつ崩壊するか分からないので危険だ。
「でも村の中心は開けてるわよ」
「ここを集合場所にして辺りを探索するのもいいかもね」
廃墟自体は使えないが、目印にはできる。
少し離れてもここに戻ってくればいいので、探索拠点を固定してもいいかもしれない。
「んじゃ、僕は向こうを調べてくるぜ」
「一人で?」
いくら村を中心に行動すると言ってもジャスターを一人にしていいのだろうか。
「心配すんなって、今更裏切るかよ。僕だって危険なんだぜ?」
ああ、そういえばジャスターもモンスターの強さを把握せずに飛び込んできたんだよね。
そう考えれば少し目を放してもいい気がしてきた。勝手にモンスターにやられたら自業自得だし、こっちにデメリット少ないからね。
「確かに、全力で逃げてたもんね」
「こいつ……」
ジャスターは爪型の武器を取り出すと、こちらを猫特有の眼光で睨みつけてくる。
それを見たカリウスが剣に手を掛けた。
少し煽りすぎたかもしれない。
「オレたちは敵同士なんだ、文句があるなら今ここで一戦交えてやろうか?」
「チッ」
舌打ちをしながらその場を去るジャスターを横目に、この先どう探索するかを考える。
家が朽ちているとはいえ、こういうところにヒントはあるのだ。近くの森を探すよりもまず廃墟を探索した方がいいだろう。
「よし、俺たちは原型が残ってる家を調べよう」
「了解よ」
「了解。木片には気を付けろよ」
こうして、各自廃墟を調べることにした。
二人は原型が残っている家を、俺は建物の中でも一番大きな廃墟を調べる。
俺のように領主だったか、それとも村長の住んでいた家か。大きくはあるがトワ村の屋敷ほどではないので断定はできない。
まともに形が残っている建物は少ない。その中でもこの建物は一番原型が残っていると言える。
「……本、か」
朽ちかけの机の上に、やけに綺麗な本とペンが置かれていた。
うっすらと魔力を感じる。朽ちないように魔法が掛けられているのだろう。
薄暗い部屋の中で、机の上に置かれている物を読む。過去の俺が書いた手紙を思い出す。
もう空はオレンジ色に染まり室内も暗くなっている。読みにくくなる前に内容を確認してしまおう。
「うわっ!?」
椅子に手を掛け座ろうとするが、引いた瞬間に木片になり崩れてしまった。
全てがギリギリの状態なのだ。大人しく立ち読みをしよう。
「えーっと、なになに……?」
本を手に取り、表紙をめくる。
中身は日記のようになっており、そこまでページ数は多くない。
『今日、人間がやってきた。魔術の腕は確かなようだが、私たちには及ばない』
『人間が対話を求めて来た。どうやら黄金の果実を求めて来たようだ。黄金の果実は私たちが守るべき宝だ。渡すわけにはいかない』
「『黄金の果実』……! やっぱりあるんだ」
どうやら何百年も前に人間が『黄金の果実』を求めてやってきたらしい。
なぜ人間なんだ? 今も昔も、エルフの方が魔術の才能は上のはずだ。俺のように、現実世界からやってきたのだろうか。
『世界樹にゲートが現れた。私たちエルフはこの小さな世界から抜け出し、新たな世界へと旅立つことにした』
『黄金の果実を守るという使命を果たすため、向こうのゲートの管理は私たちが行うことにした』
『今日、私は久々に村に戻ってきた。道中の魔物はエルフが消えたことにより、最高魔術師の支援無しではたどり着けないほどに進化を遂げていた』
『魔物の進化は止まらない。おそらく、近いうちに私たちでも近寄れなくなるほど、この世界の魔物は強くなるだろう』
『なので、私はこのノートをここに残す。私たちエルフの故郷はここ“シャムロット”である』
『最後の悪あがきとして、黄金の果実を守護するゴーレムを配置した』
『黄金の果実がエルフのために使われることを願おう』
「……なるほど」
シャムロットは元々この世界にあったエルフの村だったのだ。
それが、元の世界に移動したことにより無くなってしまったと。
そして同時に『黄金の果実』から離れた。
エルフたちも『黄金の果実』に近寄れなくなり、最後にゴーレムを作ってこの世界を後にした。
「元々エルフが持っていたアイテムだったかぁ。それなら、他の種族が取っちゃいけないか」
俺は一応エルフの王女であるティルシアのために『黄金の果実』を採りに来たので、そのゴーレム止めてくれないかな。
それにしても。
「あれ、ヒント……なくない?」
結局、どこに『黄金の果実』があるのかが記されていないのだ。
この日記を書いたエルフ、やりおる! ここまで辿り着いた人に情報を与えないとは。
まあ、いいさ。この村のエルフが『黄金の果実』を守っていたのなら近くにあるはずだ。やはり村を拠点にして正解だったのだ。
ヒントは少なかったが、近くを探せばいいことは分かった。
二人は何か見つけたのだろうか。急いで広場に戻ろう。




