055 コレクター、黒猫と協力する
「まてまてまて! 落ち着け、僕がテメーらと戦うわけねーだろ!」
怯えながら座り込むジャスターに近づくと、さらに怖がられてしまった。
最初は勝負がどうのと好戦的だったのに。
「え? でも勝負とか言ってたし……」
「あれ見て戦う奴は馬鹿なの。協力、な? 協力しよう。むしろ僕に協力しろよ」
「いや、なんで君に協力しなくちゃいけないの?」
『黄金の果実』を手に入れようとしているのだから敵に決まっているだろう。
「レクトだっけか? お前もニホンってとこから来たんだろ? なら僕達に協力した方がいいに決まってる」
「日本……って、まさか、プレイヤーと知り合いなの!?」
俺は思わずジャスターの肩を掴みながら叫んでしまった。
プレイヤーがこの世界に来ている。それを知っただけで嬉しかった。それなら確かに協力して帰る方法を探した方がいい。
「にほん?」
「なんだそりゃ」
二人は日本を知らないので頭上にはてなマークを浮かべていた。
「プレイヤーだぁ? 何言ってんだ」
「だって、日本から来たって……」
「ああ、異世界にある神の国だ。テメーもそこから来てんだろ」
「そうだけど、でもそうなるとその知り合いは……?」
プレイヤーじゃないなら、普通に現実から異世界転生、転移をしてきた人間がいるのだろうか。
そうなるとその人は随分と大変なのだろう。神様からチートを貰ってるなら話は別だけど。
「だから、日本からこの世界を滅ぼしに来た人間だよ。テメーもそうなんだろ?」
「は……?」
ジャスターの言葉に、脳内が真っ白になる。
世界を滅ぼしに来た人間? それが日本から来た? どういうことだ?
セラフィーはとある神が世界を滅ぼそうとしている、と言っていた。その神が人間? しかも日本から来た? まるで意味が分からない。
「あんたっ、世界を滅ぼそうとしてる神の仲間なの!?」
「あん? そうだけど、そっちは違うの?」
「こっちは世界を救うために来てるのよ! じゃあ敵じゃない! レクト、こいつ捕まえないと!」
その事実を知りエリィが反応する。
身体の中に天界出身であるセラフィーがいるのだ、反応せざる負えないのだろう。
むしろ、セラフィーが出てきたら困るから反応したのではないだろうか。
「げぇっ! 敵じゃねーか!」
「というわけで捕まってくれる?」
「そうと知ったら大人しく捕まるわけにはいかねーなぁ?」
ジャスターは後ろに飛びながら手に装備した爪をこちらに向ける。
その姿はまさに威嚇する猫だ。獣人だけあって似合っている。
「やるの? 戦うわけないとか言ってたよね?」
そう、ジャスターはテメーらと戦うわけないと言っていたのだ。つまり自分は勝てるわけがないと理解しているということ。
なら戦うよりも逃げることを選ぶはずだ。何か理由がある。
「まあ待てよ。さっき言った通り協力しようぜ? どちらにしろ『黄金の果実』は欲しいんだろ?」
「そうだけどさ」
「僕は獣人だから木の上の探索が得意なんだ。いくら空が飛べようと、複雑な木の上を探すのは大変だろ? もし見つけたら渡すからよ、今回は見逃してくれよ」
なるほど、『黄金の果実』が木の上にあるとするなら移動しながら探すときにジャスターの存在は大変便利だ。
近くで行動するならば逃げられる心配もない。『黄金の果実』が手に入りやすくなるのと、世界を滅ぼそうとしている奴の仲間を倒すこと。どちらを天秤にかけるか。
「確かに……よし、協力しよう」
「いいのかよこいつと一緒に行動して」
今回は協力することにした。
理由は簡単だ。ジャスターの口ぶりからして世界を滅ぼすのに『黄金の果実』が必要、ってわけではないのだろう。
それに、部下の一人くらいそこまで変わらない。どうせ大元である自称神を倒さなければならないのだ。その途中でまた倒す機会があるだろう。その自称神も地上にいる可能性が高いしね。
「どうせ負けないでしょ?」
「でもなぁ」
「交渉成立だな! じゃ、さっさと探そうぜ!」
身の安全が保障されたジャスターは元気よく木の上に飛び乗り、果実を探し始めた。
うーん、自分で決めたことだけどこれでいいのだろうか。
なんて思いながらも今は『黄金の果実』に集中しようと再び視線を木の上に向けながら歩くのだった。
* * *
「あっ……違うわね」
しばらく戦闘をしたり探したりを繰り返している途中、エリィがそう声を上げた。
「どしたの」
「林檎があったの。これは普通の林檎よね」
エリィの前の木には確かに果実である真っ赤な林檎が実っていた。
タランテさんが言っていたが、『黄金の果実』の形は林檎と全く同じなのだという。つまり黄金の林檎だろう。
「だね。でも食糧にはなるし採取しとこうよ」
「そうね」
自然に実っているとは思えないほど綺麗な形の林檎だった。
本当に真っ赤で、現実の林檎よりもイラストのようにポップな赤色だ。
「ん、美味しい」
一口食べてみると、適度に蜜が入った林檎特有の甘さを感じた。美味しいな、トワ村でも林檎とかの果物を栽培してみてもいいかもしれない。
ふとノアトレインで食べたミカンを思い出した。そうだ、冷凍ミカンとかどうだろうか。氷魔法でミカンを凍らせて電車で食べるのだ。絶対流行るよ。
「おーい、ジャスターが廃墟を見つけたってよ」
「お、じゃあ探索してみよっか」
新たなトワ村の資金源について思考を巡らせていると、カリウスが大声でそう伝えてきた。
廃墟か、一見無駄に思うかもしれないが、そこに『黄金の果実』についてのヒントがあるかもしれない。というか、ゲームならそういうところにヒントが絶対あるのだ。
「エリィ、俺は採取してるから先行ってて」
「そう? 手伝うけど」
「いいよ。ジャスターが変なことしたら大変だからさ、俺が行くまでに監視しててね」
「なら先に行くわね。早く来なさいよー」
エリィがその場を離れたことを確認すると、俺は林檎をいくつか採取しストレージに入れた。
……
……
……よし。
最後の林檎をストレージに入れ、廃墟に向かう。これを使わずに終わるのが一番なんだけどな。
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