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052 コレクター、王女と黒猫に会う

 王女の部屋はタランテさんがいた部屋の隣にある。

 大人数で部屋に入るわけにはいかないということで、部屋に入るのは俺とタランテさんだけということになった。カリウスとエリィは外で待機だ。

 扉を開けると、驚くほどの静寂が襲い掛かってくる。部屋の中に人がいるとは思えないその空気に一瞬足が止まるが、ゆっくりと歩みを進めた。

 近づくにつれて、王女の吐息が微かに聞こえてきた。細い呼吸が彼女の身体が弱っていることを物語っている。


 眠っているようだ。顔を覗き込むと、タランテさんと同じような薄紫色の髪のエルフが見えた。

 儚げな雰囲気のある少女だ。起こすのもなんだかなぁと躊躇っていると、うっすらと瞼が開いた。


「ん……だ、れ……?」

「レクトだよ、よろしくね」


 起こしてしまったようで少し罪悪感が芽生えるが、怖がらせないように優しく名乗る。


「ティルシア、彼はあの英雄ライトなんです。今から、『黄金の果実』を採ってくるのですよ」

「ライト、様……? が、レクト、様……どうして?」


 ティルシア、という名前なのか。

 ティルシアは最初にレクトと名乗った男がライトだと言われて混乱しているようだった。

 俺がその立場でも困惑するだろう。何を言っているんだお前はってなる絶対。


「ライトの本当の名前はレクトなんだよ」

「そう、だったんだ……初耳……」


 この独特な雰囲気は病気によるものなんだろうか。それとも元々の性格によるものなのだろうか。

 どちらにしろ、『黄金の果実』を手に入れ食べさせれば病気を治すことができるのだ。

 そう考えるとかなりやる気が湧いてくる。誰かのために働くのは素晴らしいなぁ。


「これから『黄金の果実』を採ってくるから、待っててね」

「……うん、待ってる……レクト様、どうか……よろしくお願いします」


 ティルシアが手を差し出してくる。握手だろうか。

 その手を握ると、信じられないほどに細いことに驚く。指は枝のようで、少し力を入れたらぽきりと折れてしまうのではないかと思うほどだ。

 エリィの手を握った時も細いと思ったがそれ以上だ。

 握り返しているのだろうが、その力もほとんど感じない。辛うじてするりと落ちてしまわない程度の力しかない。


「……任せて、頑張るよ」

「もういいのですか?」

「はい。世界樹への案内、お願いします」


 素早く目的の『黄金の果実』を入手し、『神秘のカギ』を手に入れよう。

 部屋の外で待っていた二人と合流し、再びタランテさんに案内されながら王城の隣にある世界樹へ向かう。


「ねえ、どんな子だったのよ」


 移動中、エリィがティルシアについて聞いてきた。


「病気のせいか細くてさ、声も小さくて、力もないんだ。早く治してあげたいなぁ」

「それは確かに助けてあげたいわね……」

「お前の道具じゃ治せないのか?」

「病気を治す道具はないんだ。前に風邪を引いた村人に試してみたんだけどね」


 麻痺や毒、睡眠、石化、魅了、呪いなどのバットステータスはあるが、『トワイライト』には病気というステータスは存在しない。

 そのバットステータスを治すためのポーションを風邪を引いた村人に飲ませてみたが、全く変化がなかった。普通の回復ポーションも、状態異常回復の魔法も一切効かない。


 病気だけは本当にどうしようもないのだ。それも不治の病となればさらに難しい。

 魔法さえあれば医者なんて要らないじゃんとか思ったけどそうでもないらしい。

 ファンタジー舐めちゃいかん。


「そういえば、今日はダラカ様は来ておられないのですか」

「世界樹燃えちゃいますから。『黄金の果実』ごと燃え尽きますよ」

「あの子面白くないってぷんすこしてたわよ」


 地団駄を踏みながら駄々をこねるドレイクの姿が容易に想像できる。

 何百年も生きているくせに言動が子供なのだ。どんだけ会話してこなかったんだよ。


「ダメなものはダメ。あいつ連れてきたら全部燃やしかねないでしょ」

「あの、ダラカ様は何者なのですか」

「それは秘密です」


 いくら火竜族とはいえ世界樹を、広大な森を燃やし尽くすのは無理だ。それをできると言い切る俺たちに違和感を覚えたのだろう。タランテさんが困惑する。

 多少気付いているだろうが、ドレイクだと決めつけられずにいるのだ。

 四竜が紛れていることがバレると面倒なことになるので、しばらくは秘密にしておこう。


「到着いたしました。あの歪みがゲートでございます」


 世界樹の根本に到着し、タランテさんがある一点を指さした。

 太い根の間に、歪んだ空間が浮かんでいた。魔力があふれ出しており、うっすら緑色に発光している。

 『トワイライト』にもこのようなゲートはあった。別の世界に移動するときに出てくる歪みだ。

 同じ世界の別の場所に移動する場合はこのようなゲートは出てこなかった。この世界でもその法則が適用されるのなら、世界樹の中にある世界はこの世界との繋がりは無いということになる。


「改めて確認します。中には広大な森が広がっていて、廃墟や遺跡が点々とある。さらに強力なモンスターが生息している。その森のどこかに『黄金の果実』がある。ってことでいいですよね?」

「ええ。その認識で合っています。どうか無理はなさらないように……」

「もちろん。二人共大丈夫だよね?」

「おう、さっさと行こうぜ」

「い、いけるわ!」


 よし、二人共準備はできているようだ。

 ゲートに近づくと、今まで感じたことのない魔力を感じた。これは確かに、強力なモンスターがうようよいそうだ。

 この雰囲気はそう、実装されたばかりの高レベルダンジョンにみんなで挑むときにそっくりだ。


「よし! それじゃあ早速――――」

「なっ!? 誰だお前は!!! 待て!」


 背後から叫び声が聞こえた。

 いや女王様と一緒に居るから俺たちではないはず、そう思いながら振り返ると黒い影が高速でこちらに迫ってきていた。


「へっ! ちょろいぜ! そらそらどけぇ!」

「どくわけないで、しょっ!」


 短剣を取り出して黒い影に迎え撃つ。

 物凄い勢いで突進してくる黒い影を受け止めると、その影が獣耳の生えた獣人であることに気が付く。

 黒髪黒目の小柄な猫男だ。こうして獣人を間近で見るのは初めてで新鮮だが、どうせならケモミミ女の子がよかった。ショタか。


「へぇ、やるじゃんか。流石、あの女のお気に入りなだけあるぜ」


 短剣で受け止めた俺に驚きながら、猫男は後ろに飛んだ。

 あの女のお気に入り? あの女って誰? 俺の知らないところで俺の噂が流れてるの?


「お気に入りって……どういう意味?」

「あいつのことなんて語りたくねぇよ。それより、勝負しようぜ。『黄金の果実』を採りに行くんだろ? 僕も欲しくてさぁ、どちらが先に手に入れられるかで勝負。どうよ?」


 あの女という奴について特に語るわけでもなく、猫男は勝負を仕掛けてきた。目と目が合ったからって勝負しなくてもいいじゃん。


「いやいや、いきなりなんなのさ? というか、誰なの?」

「神の使いジャスター。世界の破滅を願い参上しました。ってね。それじゃスタート! 早い者勝ちィ!」

「あ、おい!」


 止める間もなく猫男、ジャスターはゲートに飛び込んでしまった。

 説明ほぼ無しで勝負が始まってしまったらしい。俺の背後で呆気に取られているエリィ、カリウス、タランテさんも事の重大さに気が付いたようでさらに動けなくなっていた。


「いけません! 『黄金の果実』を先に採取されてしまったらティルシアの病気が……!」


 そうだ、『黄金の果実』が無くなったらティルシアちゃんの病気が治らなくなってしまう。

 今はとにかく飛び込むしかない。


「カリウス! エリィ! あの黒猫追いかけるよ!」

「お、おう!」

「そうね! 急がないと!」


 俺が大声を出すと、二人共やっと動けるようになったようで足を動かし始めた。

 そして、一気にゲートに飛び込んでいく。


 『黄金の果実』探索、開始だ。

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