051 コレクター、王子代理としてシャムロットに赴く
今回はライトではなくレクトとしてシャムロット城に来ているため、『王証』を兵士に見せて城の中に入れてもらう。
さて、骨の仮面はしていないから気付かれないはずだが。もうちょっと初めての演技した方がいいかな?
「カリウスはシャムロットに来たことあるんだっけ?」
ノアトレインの中で、カリウスが過去にシャムロットに来ていることを知った。
貴族に仕えたり、王に仕えるわけでもなかったカリウスは自らの剣を磨くためにシャムロットに赴いたのだとか。
「まあ、あの頃はとにかく強さを求めてたからなぁ」
「じゃあトワ村に来なかったら今頃浮浪の騎士だったのかな?」
「かもな。特に目的もなかったし、ダラダラ修行してるだけだったよ」
ちなみに、今のカリウスが強さを求めていないわけではない。
今なんて、むしろ役に立とうと必死に修行しているのだ。カリウスは強い、だからこそ連れてきても大丈夫だと判断した。
女王様がいる部屋の前に立ち、さてどうしたものかと考えこむ。
「それにしても早く着きすぎちゃったなぁ」
「ダメなのか?」
「ダメじゃないけどさ、当初の予定と違ったから」
元々馬車で移動しようと考えていたのだ。それなりに長い旅になると考えた俺は、数日後に迎えに行くと伝えてしまった。
「予定?」
「じゃあちょっとそこで待ってて。すぐ戻るから」
「お、おい!」
そう言うと、俺は〈空間移動〉を発動させた。
視界が青く染まり、景色が変わる。
場所はトワ村の俺の家。そして錬金窯が置かれた一室。
そう、錬金室だ。
「ふんふ~ん♪」
ゴキゲンな鼻歌を歌いながらポーションを作るエリィ。その肩を掴み、次の〈空間移動〉の準備をする。
「エリィ、行くよ」
「うぇっ!? ちょ、ええええええ!?」
「ほいっと」
数秒後、魔法のクールタイムが無くなり再び〈空間移動〉が発動する。
俺の笑顔とぎょっとするエリィの表情が、青い光に溶ける。
気が付くと、そこはシャムロット城の廊下だった。近くを通ったエルフが驚いている。ごめんね。
「はいただいま」
「ちょっと! 聞いてた話と違うじゃない!」
突然シャムロットに連れてこられたエリィはそう俺を怒鳴りつけてきた。
カリウスはそれを見て呆れている。お前も慣れたか。それでいいんだ。
「いやぁ、俺ノアトレインとか知りませんでしたし。逆になんでエリィは移動に数日かかると思ってたの?」
「何言ってるんだろうなーって思ってたわよ?」
「言ってよ!!! 言えよぉ!!!」
まさかの伝達ミス。最初にエリィが「数日ってことはノアトレインは使わないのね?」とか言ってれば全部解決したのに。
くそぉ! これもその場で何とかなると考えてしまう俺の悪い癖だ。今後こういう重大な見落としの無いように気を付けなくては。
「エリィもいるのか。天使の力もあるし、心強いな」
「セラフィーの力もある程度使えるようになったらしいし、俺もかなり期待してるんだよね。頑張ってね、エリィ」
「はぁ、もう分かったわよ……やるからにはちゃんとやるわよ」
エリィは責任感の強い子なので、こういう状況になっても仕事はこなしてくれる。
最近はポーション作りはほどほどに休んでくれているので、疲労の心配もそこまではない。
それに、セラフィーの魔力により回復能力も向上しているのだ。もはや種族として進化したと言ってもいい。
とりあえず三人揃ったのでさっさとタランテさんから説明を受けよう。
俺は扉を開け、『王証』を見せながらタランテさんに軽く頭を下げる。
「こんにちは、タランテ様」
「こんにちは」
「こ、こんにちは!」
「お待ちしておりました、レクト様。エリィ様」
ちなみに、エリィの本当の名前も伝えておいた。
エリィは村娘で、錬金術師だ。これがもっと王国に近い貴族ならば危ないが、ライトの仲間として王様や他の人間と関わることはないはずなので大丈夫だろう。
「……と、そちらは?」
「俺の騎士のカリウスです。世界樹の探索の同行者ですよ」
「よろしくお願いします」
「そうでしたか。カリウス様……聞き覚えがありますね」
カリウスを紹介するのは初めてだ。今回、シャムロットとの交流はそこまでしないので最低限の自己紹介で十分だろう。
頭を下げたカリウスを見ながら、タランテさんは顎に手を当てて考え始めた。
聞き覚えがある? カリウス、何かやったの?
「以前シャムロットで修行をした際に多少名を上げましたから」
「思い出しました。ええ、あの剣士でしたか。今回も期待していますよ」
「お任せください」
なにそれ、気になるんだけど。
「あとで教えてよ?」
「ああ……」
俺の言葉に、カリウスは目をそらしながらそう応えた。
言いにくいことなのかな。まあ聞くけどね。
「そうだ。世界樹の異世界について詳しく教えてくださいよ」
「わたくしも詳しいことは分かりません。なにせ未知の世界なのですから」
「分かる範囲でいいですよ」
以前来た時に聞いた話では、世界樹の中にもう一つ世界が存在する。ということだけだった。
もう少し情報が無くてはどう動けばいいのか分からなくなる。ノーヒントならノーヒントって言ってもらった方が心の余裕ができるのだ。
「世界樹が内包する世界ですが、中には巨大な森が広がっています。遺跡跡や廃墟などが存在していますが、そこには強力なモンスターが多く生息し、現状の戦力での探索は困難です。『黄金の果実』はその森のどこかにある、ということしか分かりません」
「遺跡、廃墟……何か秘密がありそうですね」
「いずれは調査を進めていきたいとも思っております」
シャムロットの魔法技術で調査ができないのだったら、俺でもそれなりに苦戦をするような場所なのかもしれない。
エリィとカリウスはどうだろうか。火力的には申し分ないと思うが。
「ところで、タランテ様はどうして『黄金の果実』を欲しているのですか? 確か、不治の病すら治すでしたっけ」
ふとした疑問を投げかける。タランテさんが『黄金の果実』を欲している理由を知りたかったのだ。
一応、俺はこの探索を断ることもできる。が、交友関係の改善などを目的に引き受けたのだ。
タランテさんが『黄金の果実』を誰かに使いたいと思っているのなら、俄然やる気が湧いてくる。
「そういえば、シャムロットの王女様は病弱だと聞いたことがある。合っていますか?」
「ええ、娘が……病気なんです」
「そっか。なら頑張らないと」
女の子の病気を治すために冒険、素晴らしいことじゃないか。
それなら本気を出せる。いや元から本気は出すつもりだったが、それでもやる気というものは大きく関わってくるのだ。
「そうだ、娘さんに挨拶させてください。今から『黄金の果実』採ってくるよって伝えたいので」
「分かりました。娘の部屋に案内いたしましょう。ついてきてください」
タランテさんの言葉を聞き、俺たちは王女様とやらに会いに行くことにした。




