050 コレクター、女王に正体を明かす
「――――ということです」
「……状況は把握いたしました。しかし天使、と言われましてもそう簡単に信じることはできません」
まあ、悪い神が世界を破壊しようとしている。という急展開に続いて、それを言ったのが天使という伝説上の種族なのだから当然だろう。
だが、今回はその天使を連れてきているのだ。これで天使の証明はできる。
「その天使なんですが、今ここにいるのですよ」
「へあっ!?」
見せびらかすようにエリィを前に出す。
素っ頓狂な声を上げながら、エリィは肩をすくませて固まった。
「エリ様……確か、ライト様のお仲間で特殊な武器を使う人間でしたね。この方がその天使なのですか?」
「いえ、この中にいます。セラフィー、出てきてくれ」
「ちょ、ちょっと! こんな話聞いてな――――っ!」
言葉を発している途中で、エリィの目の色が金色に変わる。
「どうも、天使のセラフィーです」
それで信じてもらえると思っているのかお前は。
タランテさんもどう反応していいのか困っている。そうだよね、ごめんなさいね。
「エリ様の中に天使がいる、ということでしょうか」
「その認識で合ってます。目の色が違うでしょう? 後は……セラフィー、何かない?」
今ここで人外の戦闘能力を見せてもらうことはできない。
なので目の色や雰囲気以外で天使だという証拠が欲しいのだが、俺はセラフィーの天使らしいところを見たことがない。
連れてきた俺まで本当に天使なの? と疑ってしまうほどだ。え、本当に天使? 天使を名乗る不審者じゃないよね?
「そうですねぇ、あっ、これはどうでしょう」
セラフィーは人差し指を立てながら笑顔を作り、魔力を出し始めた。
その魔力は形を変えていき、そして……巨大な天使の羽に変わった。
すげえええええええええええ!!! なにそれ触りたい! だめ? だめか。後で頼んでみよう。
「ふむ、なかなか美しいのじゃ」
「これは……それにこの魔力……ええ、信じるほかないでしょう。ならば、先程言っていた世界の危機とは本当に起きることなのですね」
隣にいる俺も、神聖な魔力をじんじん感じる。
威厳というか、オーラというか、人間からは逸脱した何かを感じるのだ。
「そうです。なのでその国宝をください」
あまりにも直接的な物言いだが、これが一番早いのだ。多分これが一番早いと思います。
「……確かに。この世界を救うためにはこの『神秘のカギ』が必要なのでしょう」
「なら……」
「ですが、国宝は国の象徴。いくら世界の危機とはいえ、ぽんと渡すことはできません」
「え、そうなんですか」
そういえばロンテギアの王様も国宝は王権と同等とか言っていた気がする。
形式上でも、正式に渡す理由が必要なのだ。
「どうすれば国宝を手に入れることができるんですかね」
「国同士で同盟を結ぶ、でしょうか」
「あ、じゃあロンテギア王国と同盟を結べばいいんですね」
心配して損したぜ。
簡単な話だ。国同士で同盟を結べば、国宝を国として運用することができるのだ。
「ロンテギア王国と……そうなると話が変わります。ロンテギア王国は人間の国でしょう、その国と同盟を組むのは……」
「信用ならない、と」
「え、ええ。そうなります。災いが起こるかもしれないという気持ちが強いため、全く知らない人間の王に国宝を任せようとは思えません」
ああそうだ、ロンテギア王国はシャムロットの金属を流してもらえない、というような状況なのだ。
なので他種族から下に見られている。その現状で、さらに災いを呼ぶかもしれない人間に国宝を渡すのはためらわれる。
「……俺には任せられませんか」
「ライト様は……そうですね、基本的に使うのはライト様でしょうし構いません。しかしロンテギア……」
「もしかして、ロンテギアが何かシャムロットに嫌われることしちゃってたりします?」
人間という種族を下に見ているとは言っても、明らかに嫌な顔をしすぎている。
「過去に、ロンテギアの王子が交渉に来たことがありました」
「ああ……ほんとすみません。もうそいつ王子じゃなくなってるんで安心してください」
あの馬鹿! なんてことをしてくれたんだ!
きっとルディオのことだから上から目線で命令とか、我が儘を言ったのだろう。容易に想像できる。
「王子に何があったのでしょう……ところで、ライト様はロンテギアと関わりがあるのですか」
どうするか、このままライトとして活動をして、国宝を集められるのか。
せっかく手に入れた貴族としての権力も使わなければ上手くはいかないだろう。
そうなると、一々ライトとレクトを入れ替えてそれぞれ活動するのは難しい。当初の予定ではもう少しコツコツ計画を進めるはずだったが、世界の危機となってはそうは言っていられなくなる。
なら、この状況で一番動きやすい選択は何か。
「実は俺、ロンテギア王国の貴族でもあるんです。名はレクト。そちらが本来の俺の名前です」
「き、貴族? ライト様がですか」
「はい。そして、いなくなった王子の代理として活動しています」
タランテさんは俺の言葉を聞くと、額に手を置いた。情報量の多さに困っているのだろう。
「突然のことで、わたくしはどうすればよいのか……」
「とにかく、国宝の問題に関してはこれで大丈夫です。王子代理である俺ならば、国宝を渡してくれるんですよね?」
「……いいでしょう。ああ、一つお願いを聞いてくださいませんか」
これだけ状況が揃っていれば無条件で貰えるものと思っていたのだが、どうやらそう簡単ではないらしい。
しかしここにきてお願いとはどういうことだろうか。
「国宝を任せることはもう決定しているので、これは断ってくださっても構いません。お願いを達成していただければ、シャムロットとしてロンテギアとの交友の改善などを進めていきたいと考えております」
「内容は何ですか」
「『黄金の果実』、という物を採ってきていただきたいのです」
「『黄金の果実』?」
初めて聞くな。
だがファンタジーゲームでは稀に存在するアイテムだ。どれもレアアイテムであり、何かしらすごい効果を持っているイメージだ。
これが農業ゲームの金の野菜だったらただの高額で売れる野菜なのだが、そういうわけではないだろう。
「不治の病をも治すと言われている果実です。まず、世界樹には――――」
――
――――
「ってわけで、俺たちはこれから世界樹の中にある別世界に行って『黄金の果実』を手に入れなきゃならない」
「いや意味が分からん」
雑談をしながらシャムロットであった出来事を解説したのだが、自分でも展開が早すぎてどうなっているか分からなかった。
簡単に説明すると、世界樹の中にある世界に行って、『黄金の果実』を採ってきてそれをタランテさんに渡せば国宝が手に入るよ。ってことだ。
「とにかく、その異世界で『黄金の果実』を求めて冒険をすればいいの。まるで神話だね」
「分かってはいたが、ここまで大事になるとは……はぁ、頭痛い」
「おっ、カリウスの中にも天使がいるの?」
「うるせぇ!」
茶化しながら窓の外を見ると世界樹が近づいていた。
これから久しぶりの、本当に未知の冒険だ。楽しみだなぁ。
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