049 コレクター、神秘を見る
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エリィの身体の中にセラフィーがいると分かった二日後のことだ。
ふと冒険をしたい気持ちや、これからの外交活動の下準備を進めたい気持ちが爆発した俺は、ライトとしてシャムロットに向かうことにした。
天使についての説明などのためにエリィを、ついでにドレイクを連れてシャムロットに〈空間移動〉する。
まずは、まだ会ったことのない王女に会ってみよう。そう思い、城へ向かった。
「おお、お待ちしておりました! さあさあ、城の中へ!」
城の兵士に案内され、城内に入っていく。
シャムロット城は世界樹に隣接して建てられており、森に溶け込んでいる作りになっている。
シャムロットという国がそもそも自然の国なので、まさにエルフや妖精の住む国、といった雰囲気だ。
王女のいる部屋に入り、ゆっくりと近づいていく。
見た目は若い。薄い紫色の髪の毛に、宝石が散りばめられたティアラを付けている。
エルフなので実際の年齢は分からないが、美しい外見をしているのは確かだろう。
「初めましてライト様。わたくしはシャムロットの女王、タランテでございます」
「どうも、ライトです。この度は王城にご招待いただきありがとうございます」
「ダラカじゃ」
「え、エリですっ」
事前に無駄に喋らないように言ってあるので、二人は自己紹介を最低限の口数で行う。
「冒険者ギルドの長から話は聞いております。かの伝説の英雄であり、第五魔法の使い手であると」
「それで合ってますね」
「わたくしの国からできることは限られておりますが、冒険者として活動してくださっているお礼をさせてくださいませ」
王城にこそ挨拶をしていなかったが、それ以外では何度も冒険者として活動をしていたりする。
難しい依頼、上位モンスターの討伐依頼や、貴族の護衛などをしていた。
その活動が実を結んだのか、こうして最初から好感度の高い状態になっている。
「そうですね……国宝を見たいです」
「……見るだけ、でしょうか?」
「もしかして、もらえたりしますか!?」
女王様、タランテさんの言葉にテンションが上がる。もうこの際ライトとしての活動で国宝を手に入れ、レクトに渡すという流れでもいいのだ。
「いえ、流石にライト様といえど国宝を渡すわけにはいきません」
「ですよねぇー……」
「ふふっ、では国宝を保管している部屋で話をいたしましょう。ご案内いたします」
タランテさんが直接案内してくれると言うので、お言葉に甘えて奥の部屋に入っていく。
これはお城の作りでは定番なのだろうか、王座のある部屋の奥に部屋が必ずあるのだ。
ということは、ロンテギア城にある国宝もあの奥の部屋にあるということだ。
「わ、私はどうすればいいの?」
「自然な感じで国宝を見ればいいと思うよ」
「うむ。今、わしらにやれることはないのじゃ」
部屋に入ろうとするタランテさんを見ながらエリィ、ドレイクと会話をする。タランテさんには聞こえないように気を付けなければ。
奥の部屋には、魔法でカギの掛けられた扉が佇んでいた。
タランテさんがその扉に触れると、扉に掛けられていた魔法が解除される。そして、重々しく開いた。
国宝の部屋は、小さな台座が一つあるだけという異質な状況だった。台座の上には、国宝と思われるアイテムが乗っている。
「これが『神秘のカギ』。我がシャムロットに伝わる神器、国宝でございます」
「これが、国宝……!」
「わしも生で見るのは初めてじゃな!」
国宝と呼ばれたそれは、緑色に輝くカギだった。翡翠のような美しさだが、素材は翡翠ではない。宝石のようで、金属のような不思議なカギだ。
俺は初めて国宝を目にして、興奮が抑えられなかった。これが世界に一つしかないレアアイテム。神器と言っていたか、つまり神が作り出したアイテムだ。
「それ以上はいけません。ライト様は人間なのですから」
「え、人間と国宝に何か関係があるんですか?」
タランテさんの言葉に疑問が浮かぶ。
まるで人間以外ならば触れてもいいというような言い方だ。
「ライト様は国宝の伝承について知らないのですか?」
「まあ、詳しくは知りませんね」
「では簡単にご説明いたします。まず、国宝はどういうわけか人間にしか扱うことができない代物です。そして、人間が全ての国宝を集めると災いが起こると言い伝えられております」
「災い?」
「はい。しかし世界の危機を防ぐため人間が全ての国宝を集める必要がある、とも言い伝えられております。真実は神のみぞ知る、というわけです。なので人間に国宝を触れさせないという選択をしました」
正反対の伝承だ。人間に渡せば災いが起きてしまうかもしれないし、逆に世界の危機を救うことができるかもしれない。
だが、俺は知っている。セラフィーの言っていた世界の破壊、それが災いなのだろう。
ならば、それを防ぐためには国宝を集めて神の国に行くしかないのだ。
「タランテ様、その災いについてお話があります」
「……何か、知っているのですね」
「ええ、実は――――」
俺は、セラフィーから聞いた内容をタランテさんに詳しく話した。
とある神によって世界が破壊されてしまうかもしれないこと、そしてその世界の破壊を防ぐには国宝を集めなければいけないこと。
そして、それをエリィの身体の中にいる天使から聞いたこと。
全てを話し、目的に一気に近づいた。確かにライトで話をするのは強引な手だったかもしれない。しかし、こうでもしなければ高速で異世界を攻略することはできないのだ。