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045 コレクター、日常を楽しむ

 夜、トワ村に帰ってきた俺たちはまず一晩眠り、次の日からそれぞれの仕事を進めることにした。

 エリィはポーション作りを、カリウスは村の警備を、そして俺は暇つぶしを。だ。

 あまりにも変わらない日常に、自分が王子代理になったことを実感できずにいる。

 しかし、俺が求めていたのはこのような変わらない日常なのだ。変わらずに、しかし目的には近づいていく。理想に近い状況だ。


「む、どうしたのじゃレクト。ぼーっとするなど、らしくないのじゃ」

「んー、何もない日ってのもいいなって思ってね。今日は暖かいなぁ」


 やることがない俺は普段何をしているか。そう、ドレイクと日向ぼっこだ。

 というか、ドレイクはいつまで村にいるんだろうか。たまに寝床である火山に帰っているようだが、本当にたまにだ。むしろこの村が拠点と言っていい。


「わしはもう少し熱い方が好みじゃ!」

「夏まで待とうねー」


 ドレイクの基準に合わせたら人間が生活できなくなっちゃうからね。夏になったら多少は好みになるかもしれない。

 ロンテギア王国には四季がある。日本と全く同じ春夏秋冬だ。それが人間の国なのはただの偶然か。

 神様ってやつは今も俺のことを見ているのだろうか。イエーイ神様みってる~??? レクトさんは今日も一日を楽しんでますよー!


「そういえばさ、最近山賊団を潰したりした?」


 我ながらなんて聞き方だよと思う。

 王都で、青髪貴族……じゃなくて、ブルドーから聞いたのだ。山賊団のアジトが炎で焼かれ潰れたと。


「ああー……おったのぉそんな奴ら」

「お前かよ!」

「またわし、何かやっちゃいました?」


 ドレイクがふっと笑うと同時にキランッと顔の横に星が見えた。

 そんななろう系主人公みたいに言われても。しかも謎に似合っている。

 山賊団が潰れて困ることはないので怒るつもりはないのだが、それはそれとして行動が把握できないのは不安だ。


「まあ別にいいんだけど、大事になったら大変だからそういう行動は慎重にね?」

「べっつにー? これはわし、炎竜ドレイクが勝手にやってるだけじゃしー」


 口をとんがらせながらドレイクは言い訳をした。なんだそれ可愛い。

 じゃなくて、しっかりと反省してもらわなければならない。


「それでも、トワ村に火竜族がいるって話は広まってるからさ。面倒な難癖をつけられるかもしれない。そうなったらドレイクはこの村に居られなくなるよ?」

「ぬぅ、それは困るのじゃ……ここは無駄に居心地が良いからのぉ」

「無駄って……」


 でも気持ちは分からなくもない。この土地は、日差しがよく風も心地いい。

 トワ領は何もないと言われているが、この何もない感じがとてつもなく落ち着くのだ。

 他の領は大きな建物が多く、人が多く資源も豊富なためトワ村と比べるとあまり落ち着けない。

 ゆっくりまったりするのに最適な領地なのだ。俺がトワ領の領主でよかった。


「さて、エリィのところにでも行くかな」

「わしはこのまま寝るのじゃぁ」

「おーう、ごゆっくりー」


 立ち上がり、屋敷に戻る。


 屋敷の錬金室では、エリィが椅子に座ってリラックスしながらポーションを作っていた。

 今やっているのは『グリーンポーション』の大量生産だ。何度も作ったので慣れたとはいえ、足を崩してダラダラしながらポーションを作るのはどうかと思う。


「お疲れ、ほら水だよ」


 俺は屋敷に入る前に汲んできた井戸の水をエリィに渡した。


「ありがと。んっんっ……ふぅ、生き返るわ……」


 水を飲むエリィの肌には、汗が滴っていた。

 だらけながらポーションを作っていたとはいえ、錬金術は疲れるよね。


「やけにだらけてたけど、どうしたの?」

「ちょっと気分が良くないのよね……少し頭も痛くて。ああまた……!」


 どうやら体調が優れないらしい。空のコップを置くと、頭を押さえて唸り始めた。

 そんなに体調が悪いなら休めばいいのに。頑張り屋だなぁ。

 ……ん? エリィの目、金色になってる? 元からこんな色だったかな?


「ねぇ、エリィの目って金だったっけ?」

「え? わたしの目は紫色だけど……」


 顔を近づけて目を見ると、確かにエリィの目はアメジストのような透き通った紫色の瞳だった。

 俺が疲れているのだろうか、目の色を見間違えるなんて。


「……ほんとだ、見間違えかな。とにかく、あんまり辛かったら休んでていいからね。エリィが倒れたら他にポーション作る人いないんだから」


 村に『グリーンポーション』を、というか、世界に『グリーンポーション』を作れる人間はエリィしかいない。そのため、倒れてしまったら生産もできなくなってしまうのだ。

 まあ、在庫は山ほどあるので数日作れないくらいでは何も困らないのだが。それでも継続して作れればスキルレベルは上がりやすい。そのうち『エリクサー』の開発もしてもらうかもしれないのだ。


「分かってるわよ。少し休むわ。落ち着いたらまた頑張らないと」

「ほんとに大丈夫かなぁ」


 エリィは村のために村のためにと頑張りすぎてしまう傾向がある。

 シウニンさんに聞いた話だが、錬金術師はあまり大量のポーションを作らないらしい。

 バランスが崩れるとかが理由だ。作れる人も限られているので、必要な数だけ作るのがいいと考えられている。そりゃスキルレベル上がんないよ。

 そういうわけで、そこまで焦る必要はないのだが、エリィはそれでも毎日頑張っている。

 たまにはゆっくり休んでほしいな。


「よぉレクト、何してんだ?」


 屋敷を出ると、村の周りを警備していたカリウスと会った。


「何もしてないをしてる」

「なんだそれ」


 そろそろ冒険がしたいな、なんて思ってしまうくらいには俺のゲーマー魂が悲鳴を上げている。

 暇すぎるのも考え物だが、昨日色々なことがあったのだ。今日くらいはのらりくらりと過ごしてもいいだろう。


「目指すはシャムロット……いや、世界かな」


 空を見上げながらそう呟いた。

 少しの間休んだら、冒険者や外交官としての仕事をしよう。

 そうして、麻痺毒の謎や神様の謎を解き明かしながらアイテムを集めるのだ。

 




序章『始まりの領地』  完

これにて序章最終回となります。次回から第一章が始まります。

そして、第一章開始に伴い毎日更新から二日に一度更新に変更させていただきます。


もしよろしければここまでの感想やブックマーク、ページ下の評価システム【☆☆☆☆☆】をご活用いただければなと思います。

今後ともコレクター生活の応援、ぜひよろしくお願いします!

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