044 コレクター、自分からの手紙を読む
宿屋で一泊した俺たちは、エリィが王都は久しぶりだと言うので観光をしてから帰ることにした。
街を歩き、シウニンさんから受け取った資金で買い物をする。エリィは服をやアクセサリーを、カリウスは剣の砥石などを、俺はスクロール用の羊皮紙を購入した。
しばらく歩くと、店が少なくなり大きな建物が多くなってきた。住宅街か? にしては豪華な建物が多い。
「ありゃ、貴族街まで来ちまったか」
「貴族街?」
聞きなれない言葉だ。
「えーっとな、その名の通り貴族が多く住む街だ。貴族はこういったところで寝泊まりをするんだよ。本来ならお前もここの高い宿屋に泊まるべきなんだ。ここ、貴族が多いから面倒な奴が多いんだよなぁ。ま、あの『王証』があればここでも威張れるけど」
「ほえー」
「なるほどねぇ」
宿屋、というよりホテルのような豪華さの宿が並んでいる。
その他に、マンションのように複数の部屋がある家もあるようだ。
そういえば、過去の俺はどこに住んでいたのだろうか。
なんて思ってたら、向かいから歩いてきたおばさんがこちらをガン見していることに気付いた。
「あー! レクトちゃん! 探したわよ!」
「ふぇっ!?」
え、知り合い???
困惑している間に距離を詰められる。そして手を掴まれてしまった。
関係ないエリィまでびくびくしている。
「こんにちは、私はレクト様の騎士であるカリウスです。お知り合いでしょうか?」
カリウスが咄嗟にフォローしてくれる。ありがとう、ありがとう。
しかしレクト様とかむず痒いな。それはやめてくれ。
「あらやだ騎士さん、そんなかしこまらなくていいのよ。私はそこのレクトちゃんが住んでいる寮の寮母ってだけなんだから」
「寮母……なるほど、レクトが王都に住んでいた頃の知り合いですか」
そうだったのか。というか、俺は寮に住んでいたのか。
「荷物がそのままなんだもの。別の人を住まわせるわけにもいかないから放置してたのよねぇ。ちょうどいいから持って帰りなさい。領主になったんでしょう?」
「ま、まあそうだけど。えっと、行ってもいいかな?」
ここで俺が抜けたら二人で観光をしてもらうことになる。
俺はカリウスとエリィに確認を取るため、言葉と共に目線を向けた。
「構わないぜ。というか、オレもついていくよ、やることないし」
「私も行きたい。レクトが住んでた部屋、興味あるわ」
興味を持たれてしまった。
でもまあ、三人で行動できるのならそれでいいか。
俺自身も、過去の俺が知れるのは嬉しい。俺のことだ、何かしら集めてくれてるだろう。
「じゃあ、案内お願いします」
「はいはい。すぐそこよ~」
こうして、俺たちはトワ村に戻る前に、過去のレクトの部屋に行くことにした。
* * *
「それじゃあ、帰る時は言うのよ~?」
そう言って、扉の鍵を開けた寮母さんは俺に部屋のカギを渡してきた。
終わったら返しに来い、ということだろう。
ルンルンと去っていった寮母さんを見届け、いざ部屋の中に入る。
「お邪魔します……って俺の部屋か」
もう去ってからしばらく経ったので俺の部屋ではないかもしれないが、誰も住んでいないので俺の部屋という認識で間違いないだろう。
照明は暗く、薄暗い部屋の中に暗い色の壁と家具。独特な雰囲気を醸し出していた。
「わぁ、おしゃれ」
「散らかってるな」
部屋の中には、店売りのポーションや魔法の杖、魔導書などが散乱していた。
曲がりなりにも貴族なのでお金にはそこまで困っていなかったらしく、しっかりとコレクターをしていた。
それでも片付いていると感じてしまうのは、リアルでの俺の部屋があまりにも物で溢れているからだろう。
「ん? これは……」
散らばったアイテムを片っ端からストレージに入れていると、一枚の手紙を見つけた。
そこには、レクトさん以外閲覧禁止と書かれている。うわぁ、俺っぽい。
「どうしたの?」
「手紙だね」
「手紙か。ってことは、昔のお前が?」
「多分、読んでみようか」
俺は椅子に座り、手紙を開いた。
そして、音読を始める。これがもしアニメなら、途中から手紙を書いた本人の声になるのだが、多分書いた人の声も読む人の声も同じだから変わらないと思う。
「えー……――――」
『 未来の自分へ。これを読んでいるということはおそらく身体に別の魂が乗り移ったのだと思います。状況が分からない可能性もあるので簡単に説明します。
まずレクトについての話です。自分は記憶喪失の貴族でした。両親の記憶はありません。
そして最初の記憶と同時に神の宣告を受けました。その内容は「貴方は五年後別の魂が入るまでの仮の魂である」というものです。混乱したまま、五年を過ごしました。
明日、自分が生まれてから五年になります。今後自分がどのようになるのか、それは分かりませんがとにかくこの肉体を貴方に託します。いや、むしろ自分に託しているのかな?
とにかく、自分には生まれた意味があるはずです。こんなことをした神様が何を目的として作ったのか、その意味をどうか、探してください。
以上、訳の分からないまま生きた魂でした。』
「――――終わり」
音読を終えて、手紙を机に置く。
「つまりどういうことだ?」
「神様が俺をこの世界に連れてきたってことかな? 五年、五年か……」
何かが引っかかる。五年、なんだったか。
神様が狙ってこの年数にしたのだ。ならばそこにも意味はある。なぜわざわざ五年前にこの肉体を異世界に作り、別の魂を入れたのか。
昨日の麻痺毒といい、謎だらけだ。
「レクトは、これからどうするのよ?」
「どうせ世界中を回るからさ、そのうち、呼び出された意味を知れるかなって思ってるよ」
急ぐ必要はない。いや、ヒントが無さ過ぎて急いでも意味がないのだ。
考えるだけ無駄。今はやりたいことをやりながら、元の世界に帰る方法を探そう。
「まー今は考えてても分かんないよ! よし、帰ろう。帰って寝よう!」
俺は手紙をストレージに入れ、全ての荷物を片付け終える。
そしてカギを寮母さんに渡し、トワ村に帰るため馬車に乗るのだった。