043 コレクター、スタートラインに立つ
王城に到着し、玉座の間の前まで移動する。
扉の前にはカリウスとエリィがいた。俺が来るのを待っていたらしい。
「入らないの?」
「報告だけはしたんだけどな、あの中で待つのはちょっと嫌なんだ」
「……? まあいいや、入ろう」
「そ、そうね」
まあ確かに王様の前で待つのは緊張するし、報告だけして外で待っているのも頷ける。
俺は扉に手を掛け、力を入れて押した。扉が開くと同時に、中で行われている会話が聞こえてくる。
「なんで聞いてくれないんだよ! あんなの、ズルしてたに決まってる!」
「いいから黙れルディオ。ほれ、レクトが来たところじゃ」
「レクト……っ!」
なるほど、目を覚ましたルディオが大暴れしていたわけか。確かに俺の関係者である二人は部屋の中で待っていようとは思わない。
俺も面倒くさいのは嫌なのでさっさと終わらせてさっさと帰りたい。
「貴様、決闘中に何をした! 魔法か? 魔法だろう!」
「何もしてないよ。というか、そっちこそ何もしてない? 戦闘中、急に毒状態になったんだけど」
「はぁ? 俺はこれでも剣士だぞ、決闘中にそんなことをするわけがないだろう!」
これでもって、少しは自覚してるのかよ。なら直してください。
しかしルディオが嘘を言っているとは思えない。最初は最低野郎と思っていたが、戦闘においてはとくにズルはしてこなかった。
曲がりなりにも剣士、最低限の誇りはあったのだろう。ならば、俺に毒攻撃をした犯人はどこの誰なのか。
「貴様、さては自分が魔法を使ったことをうやむやにしようとしているな?」
「だから魔法は使ってないって」
「魔法を使っていないのなら、なぜあのような動きができる! 昔は俺の足元にも及ばなかっただろう!」
「鍛えたから。それしか言えないよ」
過去の俺も剣術大会には出ていたのだろう。ルディオは過去の俺と今の俺を比較した。
俺、剣術ダメだったんだろうなぁ。今回だって、ゲーム内でのPVPの技術と、ステータスでのごり押しなのだ。強さとは言えない。
「ルディオよ、もうよせ。見苦しい」
「でも、俺は……!」
「貴族に決闘を申し込み、それに負けた。その事実は変わらぬ。数日の猶予をやろう、城から出ていけ。これは王としてではなく父としての最後の温情じゃ」
王様は悲しそうな表情でそう言った。最後の最後まで、父親としての気持ちが強かったんだね。
これが厳しい王、父親だったらきっとルディオは完全追放、いや、処刑されていたかもしれない。
「そんなっ……! 待ってくれよ! 俺は……!」
「ルディオ」
最後まで反発しようとしたルディオに、王様は怒りを込めて名前を呼んだ。
「っ……はい、わかりました。ありがとうございます、父上……」
苦しそうに、吐き出すようにルディオは言った。頭を下げ、玉座の間を去っていく。
最後に見たルディオの目には、怒りの感情が燃え盛っていた。あいつも、今後警戒しておいた方がいいかもしれない。
「済まないなレクト。決闘までさせてしまうとはの」
「勝てたのでいいです。それより、決闘に勝ったことについて、何か褒美はありますでしょうか」
我ながら欲が強い。王様もその直接的な言葉に驚きながらも、苦笑いをした。
「ふっ、これはこちら側の失態じゃ。王権以外であれば引き渡してもよい」
来た! 俺の言葉はただ一つ、王子の代理となりさらに権力を手に入れること。
肩書も外交官から王子代理として他国に行くことができる。さあ言うぞ!
「ロンテギアの国宝をください!」
「……なんじゃと?」
あ、間違えた。
いや間違えてない! これが目的だ! 王権以外ならくれるって言ったじゃん!
よし、順番間違えた気がするけどこのまま突き通そう。カリウスとエリィがすごい顔してるけど気にしない。
「そのままの意味です。ロンテギアにある国宝の所有権をください」
「……それは無理なお願いじゃな」
「え、でもさっき王権以外ならくれるって」
「国宝の所有権は王が持つと決まっておる。いくらライトの関係者とはいえ渡すわけにはいかぬ」
なるほど、王権があるイコール国宝の所有権がある。ってことか。
なら王様にならないとダメじゃん。王様になる方法が分からない。詰んだ。
まあそれは後で考えるとして、それ以外の願いを言おう。
「うーん、なら……王子代理になりたいです」
「王子代理じゃと?」
「ええ。ルディオの代わりの別の王子が見つかるまでの間、俺が一時的な王子を名乗ります。そうすれば、外交官としてさらに動きやすくなりますし」
他の国で外交をするために来ました、と言ってもあまり信じてもらえない。というか信用されるのは難しい。なので、そこで王子ですと言えば完璧というわけだ。
相手も王子なら無下にはできない……はず。完璧な作戦よね。
「なるほどの。少し待っておれ」
そう言うと、王様は玉座から立ち上がり、奥の部屋に入っていった。
そして少しすると再び戻ってくる。何やら金属のようなものを持っている。
王様は俺の前に立つと、手を出してその金属を渡してきた。盾のような形の金属だ、中心に模様が描かれている。
これは確か、王城の旗に描かれていたような……
「外交をする時はこれを相手に見せよ」
「これ、『王証』じゃんか! すごいな!」
カリウスが声を上げて驚いている。『王証』ってなに?
「これそんなにすごいんですか」
「本当に貴族なのか疑わしくなってきたわい。これは王族のみが持つことを許される証じゃ。一時的とはいえ王子という扱いになるからの、それを使えば王族を名乗れるということじゃ」
つまりこれを見せれば自分は王族ですよと自己紹介が出来るわけだ。
え、それすごくない? この『王証』が目に入らぬか! とかできちゃうわけだ。
ちょっとやってみたいけど意味なんてないからまあやるなら別の機会だね。
しかしこれで王族を名乗れるとは、なんてレアアイテムなんだ。絶対返したくない。もう王族目指しちゃった方がいいかもしれない。
「ありがとうございます! 大切にしますね!」
「う、うむ。今日一番の笑顔をありがとうの。ではトワ村のレクト、カリウス、エリィ。今後の活躍を期待しておるぞ」
王様の言葉に、俺たちは深々と頭を下げる。
こうして、俺は王子代理として、エリィは錬金術師としてロンテギア王国に認知されることになる。
数日もすれば、その名を知らない者はいないほどにまで広がるだろう。ようやく、スタートラインだ。




